……洞内では、子明が薬湯を石の杯の中に注いでいた。 そこに青い兔が小さな洞の入り口から走り込んできた。人の形をとる。ぜいぜい喘ぎながら言う。 「子明、公瑾を連れて逃げるぞ!苦戦は免れんぞ!」 子明は伯符が誰かと争ってきたのだと理解して、質問もし…
伯符が太守府の屋敷に着くと、あいかわらず富み栄えている様子。加えて祝日で至る所に灯籠と色絹の飾りつけがしてあった。伯符は玉璧お嬢さんの部屋まで来ていた。見るとひっそりとしていた。伯符は思った。 (もう数十年は経っている。玉璧お嬢さんもここに…
洞内に灯りがつくと、二人は百年分の離れていた思いを語り出した。伯符は白兔を懐から出して子明の手の上に乗せた。子明は乗せられた小っちゃな兔を見て、 「こ、これが」 しばらく話もできなかった。それからじっくりと白兔を眺めて、思わず思いが乱れて涙…
人間達の繁華街の灯りから遙かに離れてから、伯符は後ろをついてくる影があるのに気づいた。彼は声も出さず、こっそりと観察した。だんだんふつうのものとは思われなくなった。枯れ草の坂にくると、急に振り返った。懐の兔を抑えながら、大声で呼ばわった。 …
ついに空が暗くなり、伯符は白兔を拾い上げ、ふっと息を吹き込んだ。白兔の丹田の長年溜めてきた力が蠟燭のようにじわじわと明るく燃えてきた。この小さな灯りが、一人の仙人の体の中にあれば肉眼でみることはまずできない。でも白兔は体がとても小さく、ち…
それから一瞬の間ともおもわれる時間が過ぎた。どれだけの年数が過ぎたかわからない。 これらの年月、伯符と公瑾は日夜閉じこもって修行した。毎年正月の十五日だけ洞から出てちょっと遊んだ。それも林の中で虎を追いかけ回したり、豺狼をからかったり、野雉…
左師匠は丸いゴザの上に座り伯符に語りかけた。 「周将軍はまだ人の形を得ていないが、これはかつて内臓にケガを負ったからじゃ。まず仙術を修めないと、体に悪いじゃろう。しかし、彼は生まれつき才能があり、人の形を得ていないが法力はそなたよりも上じゃ…
石の洞は長くて深かった。彼らは飛び跳ねて進む。やがて洞がだんだん広くなってくると、伯符は人の形をとり、立ち上がった。そして白兔を抱き起こした。 指をパチンと鳴らす。すると玉の柄がついた灯りを持ち上げた。洞の中を赤々と照らす。 「賢弟、ここは…
その夜玉璧は輾転として眠れなかった。服を纏って起きたり、また眠ろうかとしてみたり、再び起きてゆっくりと帯を結んでいたら、誰かが話し掛けてきた。 「申し訳ないが、お嬢さん助けてくれ!」 この声は小さくひそひそとしていた。まるで長いこと待ってい…
漢服の本を買ってみました。 いろいろ図解もあります。 字も絵もたっぷり読み応えありそうな感じです。時代もそれぞれ異なっているし。 髪型なんかは詳しく名称をつけてある。 写真付きの髪の結い方も有り、コスプレの趣味の人には有意義なのかな。着物の着…
青い衣の少年は銭塘についた。すでに月が柳の梢の先にあった。酒屋に入り慌ただしく夕食をとった。酒屋にいた人々が見ていると、その少年は懐から一匹の白兔を取り出した。兔は卓上に跳び上がり美少年と一緒に晩御飯にありついた。すこぶる不思議な光景であ…
そのころ彼らはまだ十五、六の子どもだった。一日中遊んでいた。意識して名士達と交友をしていた。でも、二人でつきあい意気投合し、非常になかよしこよしだった。それで手に手を取って江淮の間をいつも遊び回り、自然をめぐったり師友を訪ねたりした。暇な…
春節が過ぎるとすぐに元宵節だ。この時、政権は司馬氏に帰している。暗いながらにも定められた運命が有り、その司馬氏は宣帝より始まり三代は何とも賢く、何とも悪賢く、苦労して天下を奪った。思いもよらず、帝位を獲って二代目は愚か者だった。その愚か者…
エネアドというマンガがありまして、以前から読みたかったのですが紙の本は韓国語しかないとおもっていたら繁体字版もあると最近知り読みたくなってきました。もともと韓国のクリエイターが書いたコミックで、 エジプト神話をもとにしていて、 それで今回繁…
青い衣の少年が剣を振るう勢いで、瑠璃色の袖がはためき、皆からの視線を覆った。数回刀剣の影が見えた後、あの道士は灰と煙と化して逃げおおせ後形もなくなった。 それから、清らかな川の白い波のようで、旋律にのって心地よい声が、 「追うぞ」 と叫んだ。…
その日の夕暮れ、山から下りること三百里の南徐の街では、ある少年が盛り場で歌を歌っていた。少年の前には長い机が置いてあり、形は古めかしくて優雅なものであった。机の上では白兔が琴を弾いていた。 その日はちょうど上元の灯宵で、街は非常ににぎやかで…
こんにちは。 更新さぼっている割には閲覧数が伸びていて申し訳ないです。 伸びているのはドールの周瑜くんを見に来ているのかな。 調子に乗って何枚か上げます。 写真が下手でしょうもない。 漢服もいいけど お気に入りヤンキージャンパー! わたしがハマっ…
そよ風が湖面を騒がせる。松林の山があたりに影をなしている。続々と兜や鎧を脱いで逃げ去るのみ。この時の空は暗澹として途切れることなく紅い雲があやふやな模様を描いていた。雨、雪、雷、稲妻が加わり飛ぶ鳥も見えず、獣の気配もない。 ただ一人が枯れ草…
通販はお好きですか? わたしは大好きです。 小学生の頃から通販で本など買い始め、あらゆるものを買う今に到っています。田舎暮らしだからね。で、今回買ったのは匂い袋の中身! 袋付きは売り切れだったので、袋は自作ですよ(笑) 香りというのは嗅いでみな…
イメージソング↓不赴 https://youtu.be/do3pVQvuUlA中国でリリースされている忘川風華録の策瑜がすごいです。熱い! 孫策は野生児の笑顔の美青年だし(手から虎が出る)、周瑜は美女のような楚々としてかつ華麗!忘川風華録とは、ビリビリ動画で歴史上の名士を…
夏の鳴き声 夏蝉が盛んに鳴いている。机の前にに座っていた諸葛亮は扇であおぐ。しかし、始終暑いと感じる。かの人を見れば、なんともよろしく、全身に全く汗などかいておらず、ちょうど琴を弾いていてご機嫌が良い様子。 そこで、周瑜に向かって扇を振った…
姜維は食事の箱をもったまま、入口の前で長いことためらっていた。趙雲将軍が何度も何度もよく言い聞かせていた。かならず軍師が部屋で一人でいるときはよくよく注意しろと。本来姜維は邪な存在など信じなかった。しかし、道すがら進んでいくと、途中会う者…
蜀の建興五年、諸葛亮は後主劉禅に「出師の表」をさし出して、北伐を開始した。 周瑜は櫛を入れながら、霜が混じったような髪を手にしていた。鏡で向かい合う人は薄く笑っていた。 「わたしはすでに寿命が近いのかな?」 「孔明は今年で四十七だろう」 「公…
本編から外れた番外 蜀の城警備の兵 甲「おい、見ろ、あれはなんだ!」 蜀の城警備の兵 乙「空のお星様か?」 蜀の城警備の兵 甲「おまえはあんな空を飛んでいくお星様を見たことがあるか?バカ、火のようだ!」 蜀の城警備の兵 乙「じゃあおまえは天に飛ん…
「孔明、なぜこんなことをした?」 はからずも周瑜から口を開いた。 「そう願って、このようにしたのです」 諸葛亮の答えはとてもまじめだった。 「なぜわたしのためにここまでする必要がある」 周瑜は眉をひそめた。 「わたしはすでに死んで……」 「わかって…
周瑜はしばし無言でいた。ようやく考えて口を開く。 「では、このわたしの身体は……」 「元放先生!」 「これは孔明の二十年の寿命と交換したものじゃ」 左慈は諸葛亮が大声で制止したにもかかわらず話していた。 周瑜はその場でしばし硬直していた。諸葛亮は…
それから、何人かが選ばれ諸葛亮の部屋を訪れた。看病するもの。薬を運んでくるもの。見舞いに来るもの。 いつも明らかに小さな部屋がひどく混雑していた。こんな騒ぎは夜になって終わり、やっと休めた。 「チリン」 小さな鈴の音が静寂を破った。だれかが部…
周瑜は諸葛亮の言い訳などきにすることなく、昨夜のことを問い詰めようとすると、突然かわいそうな扉が踏み破られた音がした。それから涙を流しながら部屋に入ってきた。ベッドにいる諸葛亮をみると、頭が痛いような表情をした。 来たのはまさしく劉備であっ…
「昨日はいったいどうしたのか」 怒りでもなく喜びでもない声が自分の懐から低く聞こえた。諸葛亮は苦笑した。さすがに周瑜だ、こうも回復が早いとは。 「もし天にわたしが願ったと言えば……公瑾は信じますか」 「孔明は鬼神の類いを信じるような世事に疎い人…
柔らかく暖かな光が薄らと周瑜の美しい顔の上を射していた。蒼白だった皮膚の色はいささか赤みを帯びて潤っていた。長い睫毛が震え、周瑜はゆっくりと目を開けた。右に顔を傾けようとして、意外なものに触れた。腰には重からず軽からずの力がかかっていた。…