策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

三国志創作してますか?その三。

三国志創作してますか?その三。

こんにちは。あんまり更新していないのに時々思いも寄らない記事が伸びていたりするのでドキドキしてます。

今回紹介するのは、張競先生『中華料理の文化史』と百星明先生『史書にごはん』です。

残念ながら2024.3/1時点でBoothで販売されていた『史書にごはん』は在庫ナシになってました。どこかで見かけたら、要チェックです。

とても丁寧に調べてあるし、「禁酒令(守れない)」に爆笑しました。イラスト解説もわかりやすく、創作のタネになりそうです。

『中華料理の文化史』は昨年あんまり本が読めなかったなかでもこれは大ヒットでした。おもしろい!

読んでいてよだれが出ます。作者の方は料理をされる方なのでそこも表現が美味しくなる所以かも知れません。漢代のみならず古代から近代までの料理の変遷をまとめています。

とっつきやすく読みやすいです。

犬食も扱っていて、犬をかわいがっていた孫皓も登場します。ちょうどそのころから犬食の意識も変わっていたようです。

あとお箸と匙の使い方も気になりました。ご飯は匙でしばらく食べていたようですね。蒸すと炊くで違うのかな?米の種類も違うのかな?

食事シーンもこれを読めば、いっそう鮮明になる?

創作をする方にも、そうでない方にもおすすめできる本です。

呉の応援歌?上坂すみれさん「KOUTOU TIGER」

呉の応援歌??上坂すみれさん「KOUTOU TIGER

すみぺの愛称で知られる美人声優の上坂すみれさん。ロシア語が堪能だったり趣味も広くてなかなか興味深い人物ですよね。

最近出されたアルバム「ディア・パンタレイ」のなかに「KOUTOU TIGER」という曲がありまして、「こうとうって中国の?タイガーは孫堅?まさかね…」とおそるおそる聴いてみると、ものすごく孫家の応援歌でした。とりあえず孫家三代の字がでてくる!二番には太史慈周瑜がでてくる。ついでに断金とも!歌詞もこの人呉が好きなんだなと伝わってくる。

その歌詞を書いたのも上坂すみれさん!

濃いです。意外なところに呉ファンを発見してしまいました。

https://youtu.be/-fE_vrjKR28?si=sqpQ1uOnhRiT-TjF

懐かしいユーロビート調にかわいらしい歌声です。サムレムから三次元剣劇と呉に流れは来ている!?

 

読みました。カレー沢薫先生『バイトのコーメイくん』

読みました。カレー沢薫先生『バイトのコーメイくん』全三巻

なぜ一日一策瑜枠で扱わないのか?

策瑜成分が皆無だったからです。

でも、ギャグマンガとしてテンポがよくおもしろく読めました。名前だけは存じておりましたが、まさか周瑜ツンデレ女子高生とは!?紹介してくださったYさんに感謝です。

劉備が牛(自称松阪牛の末裔)、曹操が黒猫、孫権が虎。それぞれコンビニのオーナーをしている。

コーメイくんが大学生のバイトでやり手で潰れそうな劉備のコンビニを立て直していく話からだんだん月英さん(チキンに命を賭けるメガネ喪女、じつは…)との恋バナになっていったり。恋のお話は劉備もあって孫権の妹と付き合うこととなってますが、この妹規格外!

孫権の家の家系図は父やんちゃ系早死、兄やんちゃ系早死(小学生並みの愛情表現の持ち主)、孫権は虎、母も虎。兄嫁大喬さんはコンビニを家族経営する要。美人。未亡人臭あり。副業で女王様を始めようかと孫権を縛ったり、言葉攻めの練習相手にしたりしている。周瑜は孫家で育てられている女子高生。同じく家族経営の要。ご飯の盛りのサービスがよかったりする。かわいい。大喬さんの弟小喬くん(山下清ふうの風貌)とツンデレ恋愛してます。ツンデレ具合が孫策と似ているのかも?

策瑜成分はないんです。残念ながら。策大なんですね。それも非常に仲のよい夫婦です。愛情表現が小学生男子並みのしょうもなさですが。

孫権はときどき周瑜にしばかれてます。大喬さんが孫権に怒らないのはなにも期待してないからだそうです。ひどい。

そしてこのマンガ一番の萌えキャラは曹操、黒猫ですね。アップになるとお目々がキラキラしてかわいいねこちゃんに見えます。やることはフツーに演義とかの曹操の延長です。

それと司馬懿が珍しく曹操に心酔(いやちがうな)、よこしまな愛情を抱く変態で、曹操と結婚したがってます。そのためにコンビニを支えています。すぐペロペロしたがる。

ほかにも中二病こじらせてる趙雲とか(趙雲が壊れてるの珍しい)、妙にいい女風の行動ができるブスな貂蟬(北方三国志風のセリフがでてきたぞ)、貂蟬を狙う呂布、馬な馬超、途中変身する黄忠など三国志おなじみのキャラクターも出てきます。

考察するより(けっこう細かいところまで三国志ネタで楽しい)、勢いで読んでいったほうが楽しめるギャグマンガですね!

 

臨時 一日一策瑜 ジェームズ・ウェルカー編集『BLが開く扉』

一日一策瑜 ジェームズ・ウェルカー編集『BLが開く扉』変容するセクシュアリティジェンダー

 

正直難しかった。註だらけ。註がついていてもわからない言葉だらけ。不勉強な自分がわるいのだけれど。

 

なぜそんな難しい本を買ったのか?

策瑜が扱われていると聞いたからさ!

帯のあおりの、BLは政治的であり個人的だ。の示す通りの内容だった。

 

アジア各国での政治的宗教的圧力、またはインターネット環境の差、ジェンダー意識の変化などのもとで、どのようにBLが読まれているのか、観られているのか、つくられているのかなど。

日本のBL好き乙女たちは恵まれていると思いましたよ。難しい思想に耽ることなくちょっと恥ずかしいぐらいで書店で違法性もなくBL作品、それも自分の好みのを買えるという幸せ。または同人誌描いたりする自由もあるし。

本でもそういう気楽さはありだと認めていました。疲れたときに甘い作品とか読みたくなる。幸せな世界に浸るのもありと。

他国の状況はこれは2019発行で(三刷!すごい!)たぶんまた変わりつつあると思いますが、厳しいものを感じました。自由がない。選択肢がない。

 タイの独裁下の方がBLにとって都合のいい環境になっているくらいが、明るい情報?

さて、肝心の策瑜なんですが、コーエーの「真・三國無双」の孫策周瑜カップリングを取り上げて、日本、中国、台湾の比較をしています。

章題は「神話からゲーム、そしてホモエロティック・フィクションへ 中国、日本と台湾の「真・三國無双」BL同人誌」齋藤朝子パトリシア

策瑜は野性味あふれるイケメン孫策と優雅な周瑜カップリングは無双ではわかりやすいほうだと思うし、コーエーも若干狙ってる(文中でも、呼び方が孫策には君で、他の人にはあなたと使い分けているのが腐ィルターでは怪しく見えると)

だが、日本では策瑜は無双で人気カップルかというとそうでもないなーというのが正直な感想。最近のイベントのCP傾向みると魏、晋、蜀、ずーっと後に呉。スタイリッシュな軍師系とかワンコな徐庶とかが人気っぽい印象。呉はファミリー、家庭的なんだよね。

それでも策瑜なのかといえば、中華圏では圧倒的に覇権CPだから!!

 

でも、日中台それぞれ取り上げた作品がよくわかんないセレクト(頭悪いから狙いがわからない)

中国は晋江で読めるらしい、マッチ売りの少女と赤ずきんとのトリプルパロディ。赤ずきんとマッチ売りが孫策で、おばあさんが周瑜劉備孔明が悪役でおばあさんを死なせてしまう…そしてマッチの明かりでふたりは再会する。

わたしの勝手な想像では、資料に採り上げたい作品でかなり健全な部類を選び、またそういう作品の作者でないと安全が保障されないんじゃないのかな?と。

あと策瑜でも無双だとわりと可愛い作風になるのかもね。

正史、スリキン、ゲーム系とそれぞれ作風の傾向は違っていると思います。

台湾は胸が大きくなる突発的な病気にかかった四コママンガ。これもなぜこのセレクトなのかわからぬ。

胸が膨らむ女性的立場の周瑜とそれをムンズとつかむ孫策の男性的役割と示しているのかな。

日本のBLは小説ですれ違う想いの末、怒濤の話し合いとセックスにもちこまれる話らしい。作者名は出さないで欲しいとのこと。

日本がいちばんエロい。

三国志を神話扱いされているのは、今までの歴史の中で何度も改編してきても、変わらずに有り続ける強さと柔軟性?を評価していた。

 その変容と受容は他の本とかにも詳しいけれど、「ウチの文化を勝手に弄くりやがって💢」とお気持ちを害する層もいるということ。

策瑜に戻って言えば、袁枚の清代にはカップルとしてみられていたわけで、浸透力は別格!

今さらどうこういうのもおかしいよね。覇権カプですから。

 

ぜんぜん話変わりますけど、

サムライレムナントのアーチャーくん、孫策という言葉を使わないで、いかに孫策との絆をノロケるかという遊びをしていませんか??

それをたのしそうに聞いてくれる鄭成功はいい男だと思います。

 

 

しちみ楼先生『美周郎がはなれない』上下巻

臨時 一日一策瑜 しちみ楼先生『美周郎がはなれない』上下巻

 

毎月ウェブ連載されていましたが、とうとう発売されました!

世界と戦える策瑜が来ました!

熱い!濃い!そして泣ける。

わたし生きているうちにはもう日本語ではこんなにすごい濃厚な策瑜を読めるとは思っておらず悲観していたんですよ。

ところがどっこい、巻末の参考資料の厚みからして、中華圏の三国志作品と対抗していけるキュートでちょっと残酷な絵のしちみ楼三国志が生まれたわけですよ。歓喜

月ごとに読んでいたときはコミカルな印象が強かったのですが、通して読むと戦乱の世の悲惨さが胸をうちます。本来なら青春を謳歌する世代である孫策の精神の荒み方も哀しいです。そこを癒してつつんであげるのが周瑜の愛なんですがね。

三国志だけでなく、後漢書の周家の来歴と不幸や袁家との深い関わりも掘り下げています。歴史の解釈や仏教観などもその当時の感覚を大事にして描かれていると思います。

笮融なんかはね現代人の感覚では仏敵だと思っちゃうんですが、当時としては普及した人だし…彼なりの切羽詰まった生き方で人間臭く描かれています。

かわいい絵なんですけど、けっこう血は多いです。死体もゴロゴロ。

小動物がうろうろしていてその辺の怖さは緩和されてます。

馬がいいんですよね、まつげが長くて動きが活き活きしてて。時代物を描く上では重要ですよね。

人物もみんな魅力的。策瑜はかっこよくて孫策は惚れるし、周瑜はかわいい❤そして変でキラキラ黒眼がこわい。(さいごの赤壁編でしちみ楼先生のホラー漫画家としての魅せ方躍如)

孫権もナレーター役お疲れ様。成長を感じました。孫堅一家、周忠おじさま、孫家家臣団みんな愛おしいほどかわいい。鉄拳を振るう程普さんも。イチオシは呂範!

他勢力の曹操夏侯惇郭嘉もキャラ立てしていたし、袁家の二人も、公孫瓚呂布劉備一家もそれぞれ魅力的でした。

わたしこの漫画で一番好きなの背景の街並みかも。江東の水郷をあんなにかわいく魅力的に描けるの日本人にもいたんだ!しちみ先生すごい!

小物も調べているんだろうなーというのが素人でもわかるくらい。

孫翊が遊んでいるのが鳩の車輪がついたおもちゃなの。発掘品で大三国志展にも展示してあったものとか。

酒を飲むにしても耳杯とか。

ストーリーを楽しむだけでなく、絵も隅々まで飽きさせません。

前作『キンとケン』の断袖コンビもあちこちで活躍していますのでそこも見所でしょう。

とにかく中華圏と韓国に訳して電子で輸出しよう!

策瑜ファンが待っている。

なんてたって名士先生お墨付き!

名士先生が呉に言及するの割と珍しいのでは?

孫策への愛ですから!

ただの忠誠じゃないよ、愛だよ!

日本の策瑜はまだまだいけるかもしれない!?

よぼよぼ漢語 策瑜同人 nashichin先生 『蜜月』十七

 尾声

 半月後、蜜月に陸遜が郵便で送った最新号の『都市』が届いた。美食コラムのページを捲ると、周瑜の落ち着いた顔から、穏やかな春風のような笑顔がこぼれた――


 青梅、幼い頃の誓い、変わらず悔いず。
 光源、あたりは真っ暗でも、ついには朝日に巡り会う。
 繽紛、共に歩み守り抜く、異色でも同調する。
 傾心、傾茶にしかず、きみのために傾心す。
 蝸牛、一歩一歩歩む、往くところ皆家となる。
 感謝、大いなる愛私心無し、大恩を謝す。
 比翼、青空に羽を広げ、二羽で肩を寄せ合う。
 宇宙は無限、時間は無限、あなたとあなたの想う人はいつかまた巡り会う。
(終わり)

よぼよぼ漢語 策瑜同人 nashichin先生 『蜜月』十六

比翼 下

 待つことは、普通充実していて楽しい、待つことには思慕と期待が伴うからである。 
 待つことは、また残酷で苦しいものでもある。思慕と期待を除き、不幸と災難をもたらすからである。
 孫策が留守のこの一週間、周瑜は毎晩九時に仕事を切り上げ、いつも時間通りに来る電話のよく知った声を待っていた。あるとき、孫策はチームメイトがまたでたらめな記録データで実験全体のやり直しをやらかしたと愚痴った。またあるときは、孫策は不真面そうに今すぐ周瑜の淹れてくれるローズティーが飲みたいと言った。多くの時に、孫策は口調を一回一回変えて「小瑜児」と呼んでいた。
 暗闇の中特別に長々とした帰り道、周瑜はいつもスマートフォンを握り黙って微笑んでいた。たまに街灯のもと彼の肩を擦れ違う人は思わず脚を止めて振り返った。彼らは何を想うのだろう――あんな幸福な笑顔の青年が、いったい心の中にはどんな深く愛する人を隠しているのか? 
 しかし、孫策のすでに決まった実験が終わる前の晩、周瑜は臨時の接待で九時の電話に出られなかった。夜中に真っ暗な家に帰り、スマートフォンには六件の未読の表示があった。
「また接待か?おい策策哥は今晩徹夜で実験だぁ超疲れる!小瑜児は帰ったらすぐに寝ろよ、明日午後策策哥は刑期満了で釈放だ!」
 スマートフォンを置き、周瑜は明け方二時に実験に集中して机の上で一眠りしているであろう孫策を邪魔しないことにした。「明日の朝メールしよう、わたしも疲れた」
  だが、「明日の朝」にはもう周瑜には電話を掛けるのに憶えきっている数字の番号はもう不要のものとなっていた。
 明け方三時、XX大学化学学院、実験事故により爆発および火事を起こし、研究生実験ビルの建物丸ごと廃墟となり、救出できたのは十二名の学生、うち八名死亡、四名重度の火傷。
 XX大学付属病院に着いたとき、周瑜は透明だが生死とすれすれの境の厚いガラスに覆われた重症看護室の外にいた。彼はとても大勢の医師と看護士がせかせかと自分の周りを通り過ぎてゆくのを見た。とても多くの難しい名前の医療機器が運び入れたり出されたりしていた。側の救急室から出てきた医者が家族に頭を振って深くお辞儀するのも見た。彼の最愛の人が少しも動かず無菌環境で横たわっているのも見た。かつて完全無欠であった身体が廃棄処分の機械のように各種の管を挿されていた。あの若く美しかった顔はミイラのように血の滲んだガーゼに包まれていた。周瑜は世界がこんなに静かだったことはなかったと感じた。死傷者の家族の絶望の泣き声も彼は聞こえなかった。知らせを聞いて駆けつけてきた両親達の説得にも慰めにも彼は耳を貸さなかった。彼は自分のドクドクと耳をつんざくような心臓の鼓動だけが聞こえていた。
 三日の不眠不休で、周瑜は重症看護室から出てきた一人の精根尽き果てた医者が出て来るのが見えた。それから一山の鮮血が滲んだ包帯。
 ほんのわずかな冷静でいられた時間で、周瑜は知っている権力者や金持ちを訪ねた。各種の手段で孫策の医療費、術後の整形費、そして彼らの将来引っ越す長江の上流のあの小さな街の住まいの費用を工面した。彼はすでに自分と孫策の未来のために計画を始めた。あらゆる変化の可能性も考えた。外見、性格、健康。彼は孫策の見た目が凶悪なものになっても気にしなかった。孫策が自分でなにもできなくなっても気にしなかった。さらには孫策が怒りっぽく人嫌いになってももう自分を愛してくれなくてもかまわなかった。彼がただ求めるのは天が孫策を活かし続けてくれることのみだった。
 気がおかしくなりそうな時間の中、周瑜は重症看護室の外から離れずずっといた。ガラスの中の変わり果てた恋人をじっと見つめながら、胸元を押さえて胸の奥の変わらぬ鼓動を聞いていた。だんだんと、彼は自分の胸を叩いていた、そのうち、叩くことからつかむようになり、彼は人の顔色をうかがうことを知らないこの早打ちする心臓をつかみ出し、孫策のすでに自分では動くことのできない心臓と取り替えたいとさえ想った。少なくとも衰弱する心臓と一緒に静かになるだろう。
 ついに、四日目の黎明が訪れる頃、精神は崩壊寸前だが、一滴の涙もこぼれなかった周瑜は重症看護室の外でこんこんと眠った。
 夢の中、周囲には少しの光りもなく、軽やかな女性の声がした。周瑜には彼女が誰なのか見えなかった。だが彼女がなぜ来たのかはわかっていた。
「彼は生まれたときから、天の寵愛を受けた子でした。彼は最も優れた容貌、最も妬まれる才能、思いのままの性格、最も幸福な愛情。そして、天がどうして彼をこの残りの身体で未来の尽きるまで苦難を味あわせるに忍びないことでしょうか。ごらんなさい。上天は彼を物欲にまみれた社会に踏み入れさせたくはないのですよ」
 暗闇が去り、朝日が射して周瑜はしばらく目が開けられなかった。だが、必ず目を開けなければならないとわかっていた。しっかりと見なければならない、自分の逆光に立つ恋人を。
 笑顔は依然として優しくいたずらっぽい孫策がだんだんと近づいてきた。彼はいつものように周瑜を懐に抱き締め、彼の身体は映画を観た日のように温かく少しの傷もなかった。
孫策、十八歳の時にわたしに約束したわたしの生活の支えとなるというのは、こんなに早くに忘れてしまったのか?」
「まさか、小瑜児がオレのことを忘れるとでもいうのか?もしオレがずっと小瑜児の心にいれば、オレはいつでもおまえの支えとなれるよ」
孫策、わたしはある人がわたしに言ったよ茶を傾けるというのは心を傾けるという意味だとね、これからわたしの心はどうやって落ち着かせればいいんだ?」
「ハハ、オレたちの観たあの『めぐりあい』を想い出せよ。オレの小瑜児、あのヒロインの勇敢さが無いわけないだろう?」
孫策、きみは約束したよねわたしと一緒に愛情の天の梯子を見に行くって、きみはなぜいつも嘘をつくんだ?」
「おまえと一緒の日々は、オレは天上の神仙達よりずっと幸福だった。小瑜児は違うのか?オレたちはそんな天の梯子が必要ないんだよ」
孫策、わたしたちは同年同月どうじつに死を願ったよね。気が変わったら来世は馬になるって。きみはわたしを連れて行ってくれないの」
「でもオレもどうしようもないんだ。オレが気が変わってもダメか?」
 孫策の懐で、周瑜はしゃくり上げ、三日分の待ちわびたことと絶望とが声なき涙となり、孫策の身体を通りぬけ、冷たい地面に当たりひとつひとつ哀しみの記号を作り出した。
「かわいこちゃん、もしこれからの日々が辛かったら、おまえはオレがどうして安心できると思う?」
 孫策はそっと周瑜の顔の涙を拭った。口調は心配で仕方なさそうで、「ずっとずっと後にオレはきっとおまえを迎えに来る。そのときおまえはオレにまったく魂のない人間を迎えに来させるつもりか?」
「それじゃあわたしはどうしたらいいんだ?言ってみろよ!」
 震えながら孫策の胸を叩いた。周瑜の声は涙声だった。
「あの女戦士みたいに、自分の平凡な生活をして、オレのことは心の奥にしまっておくんだ。そうだ、小瑜児が年老いたら、スイーツ店を開くといいぞ。オレが聞くところによると、いつもスイーツを友とする人は、ないがしろにされやすい小さな幸福やささやかな喜びを見つけるのを得意としている、と。」
 繰り返し繰り返し周瑜の黒髪を撫でながら、孫策はまるで寄り添う感覚を魂に刻みつけるかのようだった。
「うん」
 涙は止まることなく流れ、周瑜は我慢できずに孫策の未来への構想を止めた。
「それからな、スイーツ店の名前は『蜜月』はどうだ?甘い月、一年十二ヶ月中、毎月小瑜児もみんな甘々に過ごすんだ」
 孫策の声はだんだんとちょっとはっきり聞こえなくなってきた。しかし、甘いと話すとき、彼の少しぼんやりとしてきた顔にはまだ嬉しそうな笑顔を見ることができた。
「それからな、小瑜児これからはあまり暗い色の服は着るなよ、鮮やかな色がおまえには似合う。そうだそうだ。蜜月もインテリアは広く明るくだな。ある種の人はいつも明るいのは浮ついて派手だとか言うが、奴らはわかってないな……」
孫策!」
 孫策の懐の温度がだんだん冷たくなっていくのを感じて、周瑜の声は掠れた。
愛する人、オレはもう一つ願いがある」  
 声はだんだん小さく聞き取れなくなっていた。孫策周瑜の耳元で力いっぱいに言った。
「もう一度策策と呼んでくれ、この名前は昔おまえが付けてくれたな……以前おまえがオレを策策哥と呼んでお願いしてたよな、今回はオレが代わりにお願いだ……」
 涙はもう眼からあふれ出て、周瑜はぎゅっともう孫策の見えない身体を抱き締め、繰り返し叫んだ――策策、策策、策策哥……
 その日の早朝、その場にいた人すべてが床に這いつくばり、嗄れるほど孫策の名前を呼ぶ周瑜の姿を見ていた。
 看護士は清潔な白い布を孫策の顔に掛けた。彼はそっと周瑜の側を通り過ぎた。誰も忍びなく夢でうなされる周瑜を起こせず、ずっと目覚めない孫策の目の縁からはぽとりと血の混じった涙が流れ落ちた。

 

「でもわたしはやっぱり孫策を失望させたかな」
 手の上にはまだあの写真があった。周瑜は肩を小刻みに震わせる陸遜を見て言った。
「わたしは女戦士みたいにあんなに勇敢ではないよ。わたしはただ彼の願い通り彼を心の底にしまい隠しているだけで、もう他の人と生活はできないよ。わたしも老いるまでスイーツ店を開くのは待てなかった。それはね、彼はとっても甘い物が好きで、わたしがもし毎年彼のためにスイーツを供えなかったら、今の彼がつまらないとわからないだろう」
「瑜兄さん……」
 まだ適当な言葉が見つからず、陸遜は自分の揺れ動く心をもはやコントロールしようとしてもできなかった。
「うん?遜くんは比翼の意味を聞きたいのかい?」
 白鳥のシュークリームの皿を自分の方へ引き寄せ、周瑜は一人言のように言った。
「その実そんなに深い意味はないんだ。ただのわたしの気持ちだけだよ……わたしは彼と一緒に一生を過ごしたかった。もしこの望みが七年前にすでに灰となっていても、わたしはやはり彼と共にありたいと願う」
 目線は陸遜を通り越し、周瑜は窓の外の老木からの若芽に向けられていた。
「彼はわたしを迎えに来ると言った。どのくらいわたしが待つにせよ、わたしたちはいつか本当の比翼になれる日が来る、そうだろう?」