「昨日はいったいどうしたのか」
怒りでもなく喜びでもない声が自分の懐から低く聞こえた。諸葛亮は苦笑した。さすがに周瑜だ、こうも回復が早いとは。
「もし天にわたしが願ったと言えば……公瑾は信じますか」
「孔明は鬼神の類いを信じるような世事に疎い人間ではあるまい」
周瑜の返事は早かった。
「そうでなければ、都督は、あの東風をどこからきたとおもいますか」
諸葛亮はわざと訝しげな笑いをした。あつかましくも周瑜の肩に頭を埋めてきた。
周瑜は瞬間鳥肌が立った。
そこで諸葛亮を放っておけない趙雲が戻ってきたが、部屋の外でなにか重い物が落ちる音がした。慣れた様子で踏み込むと叫んだ。
「軍師、どうされましたか」
周瑜に地面に押し倒された諸葛亮が床から起き上がれないでいた。ふふふと笑って趙雲に言った。
「わたしは治療中なんだよ」
周瑜はとても後悔した、やり方が手ぬるかったと。趙雲はもしこんなぼんやりとした話を言い続けるのはきっと自分がおかしいのではなくて、諸葛亮がおかしくなったのだと思った。そこで恐慌状態になり劉備の寝宮に駆け込んだ。
「公瑾わたしをちょっと引っ張ってくれませんか、あなたが押し倒したのですから」
諸葛亮は寝てしわになった服も乱れた頭髪も気にせず、半身を起こしていた。周瑜は地面で無心に笑っている彼を見てもうくだらない話をする気にはなれなかった。
「孔明はこのことはもう話す気がないのか」
「公瑾はわたしに何を言わせたいのですか」
諸葛亮は依然として地面に座り、とぼけたふりをしていた。
「そうか。わたしに公瑾への愛を表して欲しいのですね、それでは……」
周瑜は一睨みで、彼を黙らせた。周瑜にはこのことは十中八九諸葛亮と関係があると理解していた。今日のらりくらりと避けることでわかる。突然数年前諸葛亮も避けた一件を思い出した。
「孔明よ覚えているか、あの日市場で……」
「あぁ、わたしが公瑾の晩御飯を買ったあの日ですね」
周瑜は眉をひそめた。ついについに我慢できずに問いただそうとした時、孔明が。胸元を抑えて俯いた。
「孔明」
諸葛亮はゴホゴホと咳をして、白い顔をして周瑜に微笑んだ。
「なんでもありません、たぶん昨晩ずっと公瑾を抱きしめていて冷えたのでしょう」
あきらかに顔が死人と同じような顔色をしていた。しかし揶揄うような笑みは忘れない。周瑜は諸葛亮を床から助け起こしベッドに横たわらせた。
「孔明、いつ病気になったのだ」
「公瑾はわたしを信じないのですか。わたしはただの凡人です。生老病死すべて経験しますよ」
諸葛亮は胸を押さえながら苦笑いし答えた。
「それでは昨日風雅を感じて庭で長時間琴を弾いていたのは誰かな。咳さえ一つもしなかった。わたしは昨日は今年初めての雪だと覚えているが」
「ゴホゴホ……それでは昨日病気になったのでしょう」