策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

ヨボヨボ漢語 兔兔先生『双兔記』5

 そのころ彼らはまだ十五、六の子どもだった。一日中遊んでいた。意識して名士達と交友をしていた。でも、二人でつきあい意気投合し、非常になかよしこよしだった。それで手に手を取って江淮の間をいつも遊び回り、自然をめぐったり師友を訪ねたりした。暇なときは家で馬に乗ったり騎射の稽古をしたり、博打したり琴を弾いたり、兵法を研究したり、毎日とても愉快でたまらなかった。
 覚えているうちで、あれは父上が亡くなる前の最後の元宵節だった。繁華街がにぎやかでいまでも記憶に新しい。北方では戦火が連々と続き、白骨が千里と連なっていた。舒城の人達は楽しい幸せな毎日に酔っていた。各々の家で祝いの灯籠を掛けて、長々と一、ニ里と曲がりくねって続いていた。
 夜に自分と公瑾とは灯籠を見に約束していた。でかけるとなると、玄関にチビたちがたちまちあふれ出てきて袖を引っ張って喚いた。
「お兄ちゃん、ぼくも灯籠見に連れて行って」
 次男、三男、四男だった。大きい方で八、九歳、小さい方で四、五歳だった。頭が痛くなって、どうしようもなく公瑾を見ると、あいつはにこにこと微笑んでいた。
「どうしてるんだ、公瑾、何か言ってみろよ」
 チビは気転を効かせて、今度は公瑾の袖を引っ張って強く叫んだ。
「公瑾お兄ちゃん、公瑾お兄ちゃん、ぼくたちを置いていかないで」
「いいよ。めったにみんなでにぎやかにすることもないし。みんなで行こう。灯籠を見に行こう」
 ニ弟と三弟の手を引きさっさと歩き出した。孫策自身は一番下の弟を抱っこして追いかけた。
 舒城の街はそんなに大きくない。でも栄えている。
 灯籠の市場が開かれて、街は人波でごった返し、飾り立てられ、音楽が鳴り響いていた。
 周瑜は堅く孫権孫翊の手を引いていた。人出が多くて誘拐されるのを恐れて、孫匡孫策の肩の上に乗せられていた。途中ずっと楽しげに笑っていた。そのころ灯籠はまだ簡単なもので、丸いもの、四角いもの、菱形のものがあった。単純とはいえ、火を点けるととてもきれいだった。街中に売り回る声がしていた。にぎやかな繁華街、お金持ちの音楽の音色、起伏に富み、大いににぎやかだった。
「翊弟、翊弟、見たか、どこに兔の灯籠があるのか?」
 孫権が大声で叫んだ。
「権兄ちゃん、ぼく見てないよ」
「あっちだよ、跳んでみたら見えるかも」
 孫翊はぴょんぴょん跳んでみた。
「ぼくにも見えた」
「ぼくも見えたよ」
 孫匡も叫んだ。
「ぼく兔の灯籠が欲しい」
 こういう形の灯籠は珍しく、小さい子どもには宝物のようで、がやがやと欲しい欲しいと騒いだ。うるさくてしばし孫策は頭が痛かった。
「こうなるとわかっていたら、チビどもを連れて来なかったのに。めんどくさい」
「今さら置いていくこともできないよ。行こう。前に行って、掛けてあるのを買えるかどうか」
 何歩か前に進むと、列をなしていた。二人は弟達を連れて進んだ。見れば売り物の灯籠でいろんな種類があった。他の店より良さそうなものが多い。もっともいいのが兔の灯籠で大小不揃いだった。
「ぼく兔の灯籠が欲しい」
 孫翊は率先して大きなものを手に取った。
「ぼくも欲しい」
 孫権は自分に大きな兔の灯籠を選ぶと、小さい兔の灯籠を孫匡に選んでやった。
「匡弟、これがいいだろ」
「ううん、いやだ。どうしてみんな大きいのに、ぼくだけ小さいんだ」
 孫匡は口を尖らせて不満気にした。
「おまえは小さいんだから、当然小さいのだよ。大きかったら、持っていられないだろう」
 孫策は弟の頭を撫でた。
「やだ。ぼくも大きいのが欲しい。持てなかったらお兄ちゃんが持って帰って」
「わかったわかった、みんな大きいのだね」
 周瑜は笑って孫匡のために大きいのを選んだ。
 弟達はみんな満足顔で兔の灯籠を持って、見比べては、自分のが一番いいと騒がしいことこの上ない。
 周瑜は自分の体を探るが、金がなかった。出かけるときに忘れたものか、途中擦られたか、すこぶるバツが悪い。腰のあたりを探っても玉佩もなかった。灯籠売りの自分を見る目つきも険しくなった。孫策はそんな周瑜の様子を見て、心密かにこの周家のお坊ちゃんはいつもは人前で金遣いが荒い上に、こんなにバツが悪い思いをしているところを見たことがないと、我慢しきれず笑ってしまった。周瑜はちらりと孫策を見て、他人の災いを笑っているのにムカッとしたが、よくみると腰に緑のきらきらとした玉を下げていた。ひとつかみに外すと、灯籠売りに渡した。
「はい。足りるよね」
 孫権孫翊を連れて歩き出した。
 孫策は肩に弟を担いで、手には兔の灯籠を持って追いかけながら喚いた。
「おいおい、オレの玉佩だぞ。兔の灯籠いくつ分だと思ってる?」
「そんな珍しくもないもの家にいっぱいあるよ、帰ったら自分で好きなのを選べばいいさ」
 周瑜は二人の弟を連れてひたすら歩き、振り向きもしない。

 家に帰ると兔の灯籠を飾った。とてもきれいだった。弟達はみんな拍手して「好!」と叫んだ。母上達も綺麗だと喜んだ。両家の人々は火炉の周りで元宵のごちそうを食べ、種をかじり、おしゃべりをして夜まで過ごした。それは孫策の記憶の中で最も美しい上元の夜だった。


「なにを考えているの?」
 白兔が青い衣の少年を見上げていた。
「舒城での最後のあの上元の夜を思い出していた」
「うん。楽しい時間はあんなふうに短いね」
「いいだろう。オレたちは今日は灯籠市に見物に行くぞ」