策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

ヨボヨボ漢語 兔兔先生『双兔記』14

 伯符が太守府の屋敷に着くと、あいかわらず富み栄えている様子。加えて祝日で至る所に灯籠と色絹の飾りつけがしてあった。伯符は玉璧お嬢さんの部屋まで来ていた。見るとひっそりとしていた。伯符は思った。
(もう数十年は経っている。玉璧お嬢さんもここにはいないだろう……)
 あたりから二人の十歳くらいのお坊ちゃんの声がした。
「おばさまはぼくたちと一緒に灯籠見物に行かないの?」
「一日と十五日はおばさまの修行の日なんだよ。おばさまは来られないよ」
 伯符はドキリとした。二人のお坊ちゃまが走り去ってゆくと、人の形をとった。玉璧の部屋の戸の前に来ると、灯りが点くのが見えた、そこで戸をそっと叩いた。
 戸を開けたのは五十過ぎの婦人で、綿の服をまとい、髪にも装飾はなく、黒髪のなかに少し銀糸が混じっていた。もう若くはなかったが、美しさは色褪せず、まさしく玉璧であった。
「あなたは……、なるほど兔の仙人さまでしたか」
 玉璧は伯符を部屋の中に入れ、戸を締めた。微笑んで言う。
「昨日わたしの銅鏡が消えてまた戻ってきたので、わたしはなにかあるのではと……。仙人さまはお元気でしたか?」
「昨日屋敷から鏡を借りてちょっと使ったのだが、お嬢さんのものとは失礼しました!明日オレは賢弟を連れてここを離れます。お嬢さんにお別れを申しに来ました。ですが、お嬢さんにうかがうが、なぜ……」
「あの日あなた方が洞に入ったときから、わたしは考えました。このことは家族には話せないと。洞を守る人が必要だが、考えても誰に任せても安心できない。それでわたしは身内のものに言いました。死ぬまで嫁に行かず、家の中で念仏三昧で、家の幸福を祈ると。話せば、初めは信心などなかったのですが、家に留まる理由がそれでした。一日中お経を読んでいる振りをするのはほんとうに寂しかったです。毎年あちこちに遊びにいくと、石の洞のもう一つの出口を探してみるのですが、みつかりませんでした……。ですが、三十六年が過ぎました、わたしも敬虔な信者となりました。雑念はありません。清らかにすごして、穏やかな日々ですわ」
「なんとそのような!」
 伯符は感動し、また恥ずかしくも思えた。
「我々兄弟は己の修行にかまけていて、お嬢さんの人生を狂わせているとは知らず。明日オレはここを離れますが、どうやってお嬢さんに報いたらよいでしょうか?お嬢さんになにか願いがあれば、オレに一つ機会を下さい!」
 玉璧はふんわりと笑った。
「わたしはもう雑念は捨てました。家は充分富み、衣食の心配もありません。仙人さま安心してお行きなさい。わたしは毎日仙人さまのために幸せを願って読経します」
「しかし……」
「仙人さま早く行って下さい!」
 玉璧は窓を開け、窓の外に指を指しまじめに言った。
「あなたは仙人、わたしより警戒しているでしょう?あなたが洞に入ってから三十六年部屋の外に多くの妖精が現れました。家族には言いません。見て下さい。高い木の上のふくろう、溝に住む亀の穴。家族は不思議に思いません。その実みなあの妖しい道士への連絡網です!」
「このご婦人の言うことはもっともだ!」
 言うなり、空中から窓辺に灰色の煙が降り立ち、ご無沙汰だったあの道士が立っていた。冷ややかに笑いながら言う。
「三十六年だ。ついに現れたな!そしてそこの媼、そなた前世で子どもの頃ワシに向かって石を投げたな、今日はけりをつけてやる!」
 真っ黒な剣が火花を散らして狙ってきた。伯符は慌ただしく玉璧を庇い、また手指をぱちんとならして自分の剣を呼び出した。しかし、玉璧は両手を広げて伯符の前に立った。その瞬間、剣は玉璧の胸を貫き、瞬間気を失った……。