策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

ヨボヨボ漢語 兔兔先生『双兔記』13

 洞内に灯りがつくと、二人は百年分の離れていた思いを語り出した。伯符は白兔を懐から出して子明の手の上に乗せた。子明は乗せられた小っちゃな兔を見て、
「こ、これが」
しばらく話もできなかった。それからじっくりと白兔を眺めて、思わず思いが乱れて涙を流した。
「それがしはまだ覚えております。およそ建安十九年のことです。でなければ建安二十年のことです。ある日大皇帝陛下と二人で昔の臣下のことを語っておりました。陛下は感慨深く思われたようで、大事にしまっていたふるい絹の遺言をそれがしに見せて下さいました。絹の上にはまだ血痕がぽたりぽたりと落ちていて、読むほどに肺腑が抉られるようで、その字の最後には、書く力すら残っていないようでした……。読み終わると、それがしと陛下は泣きじゃくりました。その日より、それがしは密かに誓いを立てました。粉骨砕身しても江陵を奪回すると」
「ちょっと待て」
 伯符は手を上げて話を遮った。 
「数百年も会わないうちに、子明はこうも悲しげに変わってしまったのか?!」
「江陵……」
 子明はため息をついた。そして歌った。
「江陵から揚州へ行く、三千三百里。すでに一千三百里進む。後残すは二千……」
 その歌声は小さな声だった。まるで大声を出さないように恐れているかのようで、のどを震わせていた。
 それから又伯符は笑った。
「今日はついに会えたぞ。惜しいことに酒はないが、このだんごを煮よう。賢弟が落ち着くまで待って、三人で酒の代わりにだんご汁でにぎやかにやろう」
 子明は涙を拭って笑った。
「将軍は冗談がお好きな英雄ですな。昔と変わらない」
 二人はおしゃべりを数時間愉しんだ。明日曲阿の子明のところに移って修行を続けると相談した。
 伯符は突然思い出した。
「オレはまだここに気がかりがある。おまえは賢弟の面倒を見てくれ。最近こいつは睡眠修行に凝っていて早く人の形をとれるようにとねがっているのだ。狼に銜えられて行ってもわけがわからないだろう。子明がいれば安心だ。そうだ。石の炉でこいつの薬を煮てやってくれ。もう一日経つ。月が西に傾くときに飲ませてやってくれ。オレはすぐにもどるから!」
 伯符はごちゃごちゃそれ以上説明せず、素早く兔の姿になると太守府の裏庭に続く小さな洞穴に向かって出ていった。
 洞穴に残された子明はしばらく白兔を手で持ち上げて、また片手でつかんで、卵の殻を割るのではないかというおっかなびっくりした手つきでいた。時間をかけてゆっくりと歩き、やっと腰を下ろし、膝に置いてそっと毛並みを撫でた。またしばらくして石の巣にそっと置いて、炉に向かい薬を煮始めた。