策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

ヨボヨボ漢語 兔兔先生『双兔記』12

 人間達の繁華街の灯りから遙かに離れてから、伯符は後ろをついてくる影があるのに気づいた。彼は声も出さず、こっそりと観察した。だんだんふつうのものとは思われなくなった。枯れ草の坂にくると、急に振り返った。懐の兔を抑えながら、大声で呼ばわった。
「おまえはどこの妖魔だ?」
 相手は声を出さずゆっくりと近づきながら訊ねた。
「あなたは何者ですか?なぜか聞いたことのある声だ?」
 そのものの声は、伯符の耳にもよく聞き慣れた声であった。だが思い出せなくて、足を上げてその者を追い払う。
 そのものは月灯りのもとでいよいよ姿がはっきりとしてきた。全身を鉄の兜鎧につつみ、腰には長剣を下げている。ぼんやりとながらも男らしく意志の強さを感じさせる顔をしていて、きらきらと目は光っている。
「孫将軍!」
 その者は突然大声を上げた。すっ飛んできた。伯符は心の中が熱く滾った。
「子明」
 伯符がその者を呼ぶと、涙が両頬に流れた。
 子明も声にならず泣いた。彼は深く揖礼をしようと思ったが、手足がもつれた。膝を曲げ、跪いて礼を尽くした。ままならぬ手の肘をつかまれた。それから有無を言わせず、二人で抱き合った。
「おっとっと」
 伯符は突然相手を押しやった。それから懐の中からあのほとんどおしつぶされた五十個のおだんごを取り出した。白兔は中に押し込まれていた。すでに灯りはついていなかったが無事だった。
「子明、どうやってオレを探し出したんだ」
 伯符は忙しなく訊ねた。
「それがしは南徐に一つ不思議な光りがあるのに気づきました。かすかに明るく、見れば見るほど不思議で、それがしには昔烏林のあの大火を思い起こさせました。気になって放っておけなくなり、街の外のここまで将軍についてきました」
「そうかあいつの胸の中にはまだ烏林の戦意が残っているのか」
 伯符は思わず笑っていた。子明がわからないという顔をしていたが、笑って答えなかった。
「子明は今はどこで修行しているのか?どうやって南徐に来たのか」
「恥ずかしながら」
 子明は首を振った。
「天帝はお見捨てにならず、それがしには曲阿の土地神をお命じになられました。百年ほど前にはちっぽけな使い走りをしていました。ある日聞くところによると、烏林の江上に三万の冥界の軍勢が派遣されると聞き、思わず周都督のことを思い出しておりました。それから日々気にとめて探っておりました。最近一年の毎月初め、十五日に南徐から琴の音が聞こえました。琴の音は法力がこもっており、遠くまで伝わり、凡人では聴き取れません。そして弾いているのは昔周都督がお気に入りだった曲、今では失われた曲です。ですので今日はいてもたまらず南徐に探しにやってきました。すると将軍に逢えました!」
「話すとな、公瑾はここ一年、いつも一日と十五日に洞で琴を弾いていた。オレには法術を使わせないで……」
「周都督も孫将軍とご一緒で?」
 子明は痛いほど伯符の肘をつかんだ。
「……」
 伯符はしばし考えた。
「ここは暗すぎる。オレに着いてきて洞に行ってから話そう」