策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

ヨボヨボ漢語 兔兔先生『双兔記』1

 そよ風が湖面を騒がせる。松林の山があたりに影をなしている。続々と兜や鎧を脱いで逃げ去るのみ。この時の空は暗澹として途切れることなく紅い雲があやふやな模様を描いていた。雨、雪、雷、稲妻が加わり飛ぶ鳥も見えず、獣の気配もない。
 ただ一人が枯れ草を踏み、はだしで山の峰を走破していた。
 瑠璃の青をした襟元にはすこしの汚れもない、飄々と袖と襟には銀糸で天文、日月、北斗七星が縫われていて凍りつくような雨にまったく湿ってはいなかった。
 時には緩み時には厳しい風、細かであったり荒かったりする雪は、彼の心の中を表しているようだった。
 彼が右袖を一閃させると、遠くの山でパッと遠雷が鳴り響き、ひと筋の小さな稲妻がまだしも大人しく空にかすり傷を残してすぐに消えた。

「ねぇ怒っているの?」
 彼の左手で押さえている懐の中から聞こえた。声なき一言の質問。
 そこで彼は口を開いて言った。
「オレはお前の鈍くさいのにはうんざりだ!」
「オレたち兄弟は豫章郡の兵器庫で百年修行してきた。百年分の刀、槍、剣、戟といった武器を食らってきた。お前が食ったのもオレと同じくらいだろ!なのに今日人の形を得たのはオレだけで、どうしておまえはまだ兔なんだ?!これから遊びにいくのにどうやっておまえを連れて行くんだ?籠に入れてぶら下げていくとでも!」
「でも……わたしはケガをしたから武器の類いのようなゴツゴツと激しいものは、本来きみみたいにいっぱい食べられないんだよ。消化しにくいんだ。でも、人の形になることを除いては、きみができることはわたしもできるよ。足を引っ張ることはないよ!」
 瑠璃青の服を着た少年は笑った。
「そうだな昔、おまえははじめて戦に行くのに連れて行ってと頼んできたよな。足を引っ張ることはないと言って。それからおまえは人馬を率い船と兵糧を持ってオレが渡江するのを大いに助けてくれたな!それからおまえの才能はだんだん伸びていって、オレも適わなくなるほどだった……。あれはどれほど昔のことになるのか?オレははっきりとは覚えていない。修行の日々はあたかも一夜が千年のようだ。人だったころを忘れているな……」
 彼は足を止め、両手を広げて、仰のいて長いため息をついた。
 雨や雪は降るのをやめ、空の薄曇りは音もなく消え去った。頭を上げて雁行する鱗雲を見つめた。千軍万馬が戦場に赴くような形をしていた。万里の青空はみな青くきらきらと瑠璃色をしていた。
 白兔が青い衣の少年の懐から頭を出した。ちっちゃい耳を立てて長らくご無沙汰だった美しい少年の顔へと向いた。
「以前聞いていたけれど、修行して仙人になれた日には、ちょっとの法力で天地や風や雲を動かせるって本当だったんだね!伯符、二本足で歩く感覚も悪くないんだろ!まだわたしのことを怒ってる?わかっているよ。きみは世界を旅して、知人を探したいんだ、そうでしょう?」
 伯符はひそかに驚いた。
「オレと公瑾とは深く知り合う仲だが、オレが特に隠して秘めてきた気持ちを、どうして知り得たんだ?」
 白兔は聞いてきた。
「伯符、きみは誰に逢いたい?」
「おまえはまだ聞くか?」
 伯符は白兔の両耳をつかむと、その頭を胸元の中に押し込み、ぎゅっと押さえた。白兔はごろごろとしたがそれ以上動けず、胸のあたりがくすぐったかった。