……洞内では、子明が薬湯を石の杯の中に注いでいた。
そこに青い兔が小さな洞の入り口から走り込んできた。人の形をとる。ぜいぜい喘ぎながら言う。
「子明、公瑾を連れて逃げるぞ!苦戦は免れんぞ!」
子明は伯符が誰かと争ってきたのだと理解して、質問もしなかった。小声で返事をし、剣を抜きしっかりと握り締めた。伯符の目は白兔へと向かい、思わず驚きの声が出た。
「この洞にどうして雪が降ったんだ?」
「あ」
伯符はわっと叫んだ。こんなに驚いたことはない。心に何か一種の予感めいたものがあった。
氷のような玉のような一陣の光芒が輝き、目を開いていられなくなった。ぼんやりと光の中から人がひとり出てきた。光も消えると、細長い手指が自分の氷か玉のような服の襟に触れた。下げていた頭を持ち上げ、子明の方を見、伯符の方を見た。久方ぶりの顔はまったく変わっていない。
「兄上、子明、わたしはついに人の姿になれたよ!兄上が揶揄ってわたしの丹田に火を点けたけど、かえってわたしを助ける効果があったよ!もう兄上に迷惑をかけることはないんだ……それから子明!」
「都督、ついにあなたに逢えました」
子明は剣を下ろし、数歩進み、抱き合って泣いた。伯符はゆっくりと近づいてきて、あれこれとよく見て、それから後ろに兔のしっぽがないか触ってみて、やっと安心した。
突然、よろめいた。今少しで転ぶところだった。ふざけた振りをしたかったが、伯符の顔色は青ざめていた。
「賢弟、ついに今日はやったな。この日のために、オレは……」
伯符は子明の肩によりかかり、目を伏せ、小声で呟いた。しばらくして落ち着き、自分で立つことができた。
公瑾はひどく喜ぶのに集中していたが、兄の様子を見ると、また目を閉じて手を座禅の形にした。
「玉璧お嬢さんは身を捧げて父を助ける徳により、すでに天界へ生まれ変わるよ。兄上そんなに落ち込まないで!」
「そういうことか」
伯符は頭を振って笑った。
「じゃあ玉階はお前の娘か。彼女も姉と一緒に天界へ往くんだな?」
公瑾は頷いた。