策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 九 需要愛先生 「思為双飛燕」

四章 大婚 お兄ちゃんの結婚

 孫策の婚姻は、その実、孫堅の思いつきだった。戦場で受傷し、家で休養中に周りに随う幕僚達が口々に、
「長公子も嫁を貰う年頃ですな」
等等云ったので、孫堅は床台で寝ていたところ、ガバッと起き出し、力一杯自分の太ももを叩いて腕を伸ばし気宇壮大に宣言した。
「嫁取りだ!」
 云うのは簡単。ただどこから嫁を貰うのかは難題だった。
 呉夫人は何度も壁にぶち当たったのち、我慢ならず帰ってきた孫堅に泣いて訴えた。
「ああいう代々役人の家の者達は、それぞれ傲慢無礼で今のところ誰もおりません」
 普段は孫堅の勇猛さに恐れ遠慮して失礼なこともないが現在こども達の結婚となると、そらぞらしく避けて遠ざけるのであった。
 呉夫人の云うところによれば、婉曲に断るようなところには行く必要も無く、今孫策の何人かいる従兄弟姉妹が寿春にいて、優しく賢くお淑やかで、当家の嫁に縁組みしたらよいとのこと。
 ただ、孫堅は良しとせず、呉夫人の女のやることは世間をわかっておらんと云い、
「孫家の長男の嫁はもちろんバカでは務まらん」
と。
 孫堅アゴを撫でさすりながら呟いた。
「周家は家柄もよいし、瑜ちゃんがもし女の子だったらうちの策のやつに、ぴったりなのになあ」
 呉夫人はこれをきいて涙でむせかえりそうになった。我慢強くあきらめない男孫堅は最終的に成功した。
 落ちぶれた貴族の娘を、孫策の嫁としてうまく貰い受けることになった。婚約の後、孫堅はうきうきとして孫権を膝の上にのせながら諄諄とさとした。
「この乱世では、あいつら貴族の子弟は考えたり悩んだりしているがな、我が子よ、それがどうした。離別、葬礼、不幸に遭っても乱に宜しく乗じてこれを取るべし!(チャンスとしろ)」
 孫権はこれを聞いて目を耀かせ、その後竹簡に丁重に記した。
「不幸に遭っても、宜しく乱に乗じてとるべし!」
 家中は結婚に際して、みんな忙しくあくせく働いていて孫権は玄関の側で屈んで母上から使用人まで家中のみんなが止まらず動く姿を見ていた。
 となりの周お兄ちゃんも手伝いに来ていて、その上、たくさんのお祝いも持ってきた。
 お昼孫権が敷居で読書をしていたところ、竹簡の上から突然何かが落ちてきた。顔を上げて見ると、お兄ちゃんが屋根の上にのって、豆を上から投げつけてきた。
「お兄ちゃん!」
 孫権はいささか怒って言った。
「読書のジャマをしないでよ!」
 孫策は豆を噛みながら、全く気にもせず、
「お前、周瑜を呼んでこいよ」
と。
「自分で行けば」
 孫権は竹簡の上から豆を地面にふるい落とすと、竹簡を手でこすった。読書を続けるつもりだった。
 結果、又、豆が竹簡の上にまかれる。頭をもたげてぷんぷん怒りながら孫策を見た。
「お前が行ってこい」
 孫策孫権アゴで示した。
 孫権は竹簡をつかんで袖を払い、くるりと出て行った。
 しばらくして周瑜孫権が出て来て、孫策も屋根の上から飛び降りてきた。周瑜を見て機嫌はよろしくなかった。
「オレの結婚なのにお前の方がいそがしいな」
「義母上から少したのまれているので」
 周瑜ぶっきらぼうに答えた。
 孫策はたちまち笑って、胸を張って云った。
「安心しろ。お前の分(立場)はある」
 周瑜は顔色を急に変えて、厳しく言った。
「兄上はまさに結婚しようとしている人。どうして事の大事をわからぬような話をされるのですか。孫家の慶事にどうしてわたし、周瑜の立場がありましょうか?」
 孫策はいささか慌てて両手で周瑜の片手をつかんで自分の胸の前に置いた。両眼はじっと周瑜を見つめる。
「わたし、孫策は嫁を娶っても、兄弟を忘れる人ではない」
 周瑜は泣くに泣けず、笑えもしない何とも言えぬ表情で言った。
「伯符、きみは何バカな事を言っているの?」
「彼女とはいない。お前とずっと一緒だ」
 孫策は依然として、しっかりと周瑜の手を握り締め、ニコニコと顔を近づけた。
「オレ達兄弟はいつものように自由に生き来して、いつでも内堂にもオレを訪ねてきていいからな」
「夫人がいるのに、私がどうしてみだりに入っていけますか?」
 周瑜孫策の指を放そうとして手を抜こうとしたが、なんとしても離れない。
「じゃああいつを別な所へ移して、お前が引っ越してきたらいい」
 孫策の冗談はますます調子づいて顔にも得意げな表情が浮かんでいて、自分が言ったことに興奮しているようだった。
「伯符、離せ」
 周瑜は顔をこわばらせて言ったが、孫策は許さず、二人とも言い合い、大堂の入り口で膠着状態となった。
「お兄ちゃん!」
 そばでずっと様子を見ていた孫権がたまらず、竹簡を放り出して立ち上がって、ふたりを見上げた。
「何をそんな面倒なことをしているの?本当に公瑾お兄ちゃんを引っ越して来させたいなら、いっそのこと結婚すればいいのに」
と言うと、指で周瑜を指した。
 本来、半分冗談、半分まじめだった二人ともたちまちに固まってしまい、顔を青くなったり、白くなったりさせた。
「オイ、ガキがくだらないこと言うな。あっち行け!」
 孫策は無理やり周瑜に笑いかけたが、周瑜は手を抜き出すと、するりと去って、孫策は決まり悪くその場にしばらくぼんやりと残された思い出してからすぐ孫権を、つかまえようとしたが、見ると孫権は見る陰もなくさっさと逃げていた。
 孫策は昼下がりにしばらく呆然と立っていたが、顔を上げると流行の歌を口ずさみ出かけていった。

 新しい兄嫁が嫁いで、幾日も経たないうちに孫権は彼女が呉夫人に泣いて訴えているのを見た。言うには孫策が常々家に居着かず、呉夫人は彼女に少し慰めた後、まじめな顔つきで、気持ちのこもった言葉で言った。
「策は気宇壮大にして女人が束縛できるものではありません。そなたも妻となったからには、自分の夫君を理解しなければなりませんよ。終日外で過ごしているのは、この家の為に奔走していて父上の為に賢士を招くためなのです。将来策が世に知られる時には、そなたもお陰を被るでしょう。どうして些細なことで神経をすり減らし泣いていてどうするのです?わたしはそなたの為によかれと言っているのです」
 みると、梨花が雨を帯びたような泣いている様の兄嫁は震えていた。
 孫権は初めて意識した。以前は母上が弱々しいと感じていたが、父上の背後でただ涙していたから。それは母をみくびっていた。
 呉夫人はあきらかに普通の女性ではなかった。
 この会話は兄嫁を怖がらせた。兄嫁はぶつぶつと呟いた後何も言わなかった。
 彼女が出かけた後、呉夫人は怒り出し、
「権!策を呼んできなさい!」
 孫策は呼ばれた後、板子(パドル)を喰らった。(板で尻などを打つ刑罰)
 しかし、痛いともかゆいとも叫ばず、板子を終えるとたちまちに飛んで去った。