孫権がまた目を開けたとき、床台の上に孫策も周瑜もいなかった。
孫権があたりを見回すと、二人が窓辺に座っているのを発見した。
周瑜は後ろ手に解けた髪を握り、髷を新しく結い直しているところだった。
孫策は何か彼の耳許に話しているのかわからないが、周瑜は孫策をちらっと見て首を振った。
孫策は豪快に自分の胸を叩いて「まかせろ」と言った。
周瑜はためらいつつ髪をつかんだ手を放し、孫策はすぐさま周瑜の長い髪を掬い取った。
孫権はクスッとわらってしまった。まさかお兄ちゃんが周お兄ちゃんの髪を結うとか?
孫権は思い出した。ある時、母上が出かけるのが早くて、自分は学堂に行こうとするとき、髷がまだちゃんと整っていなくて、孫策に結ってもらったとき、学堂に行くとそのぐちゃぐちゃな頭が同級生の笑いものになったときのことを。
そして、孫権は面白い見物を待っていた。
十五分が過ぎ、三十分が過ぎ、孫策がてんてこ舞いするところから、整然とするところまで見ることができた。
周瑜は最初から催促するところ、嫌になるところ、静かに座って何も言わなくなるまで。
忙しく立ち働くこと半日の後、孫策はやっと完成させた。
すっきりとしてとてもなめらかな髷ができた。
孫権はすべて見飽きた。
最後にはごろりと床台から転がり落ちた。
周瑜の目の前に走り寄って左右から見た。
周瑜と孫策は見つめ合って笑い、又、孫権に向かって下を向き、
「権、午後に学堂に行かなくていいのか?」
と声をかけた。
孫権は答えず、突然飛び上がって周瑜の髷に手を伸ばした。
外側へちょいと引っ張ると、孫策が大層苦労して結い上げた髷がほどけてきた。
やらかした後、孫権はすぐさま、素早く逃げ去り、玄関からさっさと消えていた。
後ろから孫策が叫んでいるのが聞こえた。
「このガキ、逃げんな!」
周瑜の声も聞こえた。
「伯符、弟を追わないで」
孫権は逃げる最中ぷりぷりしていたが、自分でもどうしてこんなに怒っているのかわからなかった。
しかし、あの二人、本当にやりすぎだよ、と思った。
※このシーン、髷を結うのには含みがありまして、結髪の人≒妻なんですね。意味深であります。