策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 十六 需要愛先生 「思為双飛燕」

 孫権はこの時呉夫人がどれほど辛いか気にせず、早くに出かけたいと思い孫堅の許しを得て、すぐ部屋に戻り旅の支度を始め、衣服を包んだ。
 孫権は隅っこに積まれた竹簡を眺めた。いささかこの本は重いと思うと、もって行けない。よくよく選んで、選んだお気に入りの何本かを包んだ。 
 また、自分の勉強メモを取り、喜び勇んで「遠出」の二字を刻んだ。刻んだ後に、そして日付を入れようとしたとき、ちらりとあの「送別、周瑜、特殊の礼、他人にみられるなかれ」に孫権は内心ちょっとドキリとして、ずっと以前の記憶が脳内に蘇った。
 今回、自分もお兄ちゃんと同じく遠征軍に行く……。

 周家の屋敷は孫家の向かいにあり、しかし、門戸は脇の小さな路地に在り、あまり人目につかなかった。
 午後、周瑜は兵書を手にしながら、籐椅子に寄りかかり読書に余念がなかった。
 家僕が突然やって来て告げた。
「孫家の二公子がお見えになっております」
と。
 周瑜はとても意外に思った。
(向かいの孫家の二公子、あの孫策の弟の孫権が?彼は何の事情があって自分に会いに?)
「どうぞ」
 俯いてちょっと考え、家僕を呼んで、
「二公子と直接、書房で会おう」
と言いつけた。
 兵書を放り出し、上着も着替えず、中衣の上に袍を羽織って座った。
 まもなくして、入り口に一人の小さな影が現れた。
 周瑜孫権の家僕のあとにぴったりとくっついて、自分の書房の中に直立してきて、止まったら顔を上げて自分の方をじっと見る様子は不可解なものであった。
(孫家に何か起きたのだろうか?)
 周瑜は心中ドキリとした。
 普段、彼は孫策よりの手紙を受け取っており、一切の安否を知っているが、しかし、孫権はこの時周瑜の家までこんなにあわててくるとは、
(孫家に何かあったのではないか?)
 それに思い至って、周瑜は頭を低くして訊いた。
「仲謀、何のためにきたんだい?」
「ぼく……」
 孫権は振り向いて後ろの家僕を見て、その顔を難色を示した。
(やはり、孫家に何かあったようだ。それも他人に知られてはまずいことのようだ)
 周瑜はやや眉根を寄せて手を振り家僕を下がらせた。立ち上がって書房の入口をしっかりと閉めた後、孫権に振り返って言った。
「まわりに人はいないよ。仲謀、話してくれ」
「ぼく……」
 孫権は小さな顔を真っ赤にさせて、
「ぼくも遠征軍に行くことになりました」
とやっと言い出すことができた。
 孫権は長い息を吐き出した。
「ん?」
 周瑜孫権の目の前に走りより蹲ると訊く。
「その他に何か?」
「ないよ。その、ぼく、ぼくは従軍して遠征に行くんだ」
 孫権は目をきょろきょろさせて、そして蹲っている自分の前の周瑜を見た。
 周瑜は驚いて、
「そ……それじゃあきみはわたしにお別れのあいさつをかい?」
「そ、そうです」
 孫権はやや俯いて、
「送、送別の礼」
と小さな手で服の端をつかんだ。
(送別の礼?)
 周瑜は笑い出した。
「それは、わたしは仲謀が出発するとは知らなくて、ちょっと急なことだ」
と話していると、目の前の孫権が突然目を閉じ、決然とした顔をして小さな頭を突き出している。
(これは何をしているんだ?)
 周瑜は後ろ頭を掻いて、目を傍の机に向けると、ちょうどよい物があった。
 せわしく立ち上がって机の上にあるひとつの硯を取り上げ、孫権の手の中に収めた。
「これは叔父が贈ってきた極上品で、きみは勉強がすきだからもっていってくれ」
 手の中に硯を、ひとつあてがわれ、それまで閉じられていた孫権の眼が見開かれ信じられない、そして、なんという屈辱だという目で周瑜を見た。
 周瑜は背中に寒気を感じ、理由もわからず、ただ無理矢理孫権に微笑んだ。
 しかし、孫権の怒りを溜めた眼は涙をうかべ、猛然と身を翻して外へ走り出した。
「仲謀?仲謀!」
 周瑜は彼を止めようとしたが、考えを改めて、孫権はまだ年少ゆえにちょっと話すのも覚つかず、子どもとごちゃごちゃ話しているより、孫家へ正式に直接出向いてあいさつしたほうがよいと考えると、孫権の後から行った。