数日後、孫策は周瑜の手を引いて内堂まで、つれてきて呉夫人に挨拶した。
そして、言うには、もう周瑜とは異姓兄弟の契りを結んだと、内堂で母上に正式に挨拶したいと。
周家の屋敷を借りて住んでいる呉夫人ももちろんこれを笑って許した。呉夫人に挨拶したあと、両人はウキウキと家の中に入っていった。孫権はお兄ちゃんが周瑜の手を引いて中へやってくるのを見た。
お兄ちゃんは口で、
「今、母上に挨拶したから、おまえはオレ達孫家の人間だ」
と、そう言ってた。
周瑜は不服で、
「どうして私が君たち孫家の人なら、君はわたし達周家の人間だ」
と言う。
「おまえはケンカじゃオレには勝てないし、口でも勝てないし、だからおまえは孫家の人間だ」
孫策は側まで来て周瑜の鼻と自分の鼻をくっつけた。
周瑜は顔にはありありと怒りの表情が現れていた。
孫権は傍にあった竹簡上に書きつけた。
「周瑜、孫家の人」
又、顔をあげてちょっと怒った周兄ちゃんの方を見て心の中で思った。
(またお兄ちゃんが公瑾お兄ちゃんを怒らせちゃった)
しかし、孫権が予想した周兄ちゃんが怒って去る場面は現れなかった。
周瑜はしばしむっとしていたが、孫策をキッとひとにらみして一言も発せず、榻床へ向かい横になった。
孫策も続いて飛び上がるようにして周瑜と並んで横になった。
孫権はすぐさま慌てて両文字を書いた。
黙認。
手の竹簡を放すとベットに走り寄り、よじのぼって上に上がった。
孫策は孫権が自分のところへよじ登って這ってくると、笑って自分の傍らを叩いた。
「権、ここだ」
孫権は床台の情況をみた。周瑜は仕切りに寄りかかり、孫策は周瑜の外側に大の字になり、床台の外側のとても小さな余ったところだけが自分の寝る分だった。
孫権は不満で、又、お兄ちゃんの体を這い上り、二人の間に横になった。
しかしながら、孫権の寝相はよく、規則正しく体の横に手を揃え、孫策と周瑜の間に悪くない隙間を得ていた。
昼の明るい太陽が照りつける中、すぐに孫権は寝付いた。
しばらくして目覚めたときには目の前に滑らかな白い肌がちらりと見えた。黒雲のような豊かな黒髪の下から現れていた。
孫権は目を瞬いて、いつの間にか周瑜の髷がほどけ、仰向けに寝ていた周瑜の顔が向こう側へ曲げられ、首のところの滑らかな黒髪が肩にながれて幾筋かの髪が孫権の耳許にも乱れて落ちてきた。
孫権は鼻をひくひくさせ、顔を反対側に傾けるとを飛び上がるほど驚いた。
目が真正面にあるお兄ちゃんと合ってしまった。孫策は寝ておらず、寝ていないだけでなく、その目の赫きは真昼の太陽とおなじくらいきらきらとして孫権を通り越して、床台の奥側を見つめていた。
孫策の眼はもともと明るく輝いていたが、見慣れた孫権でも今の目つきはやけどしそうなほどに思えて、あの目は何かを燃やしているかのようだと思わせて、孫権にどういうことなのか考えさせ、こんなお兄ちゃんはコワイとも思わせた。
「お兄ちゃん」
孫権が思わず出た一声だった。
そう言われて、孫策はバツが悪くなり、もともと孫権の向いていた目を隠して、パッと塞いだ。
勝手な言い様で、
「何叫んでいるんだ。早く寝ろ寝ろ」
と。
孫権は内心、
(もういっぱい寝たよ。勉強したいよ)
と思った。
しかし、孫策の手に抑えられ、動くに動けず、ただため息をついて又寝るしかなかった。
うちのお兄ちゃんは本当にワガママだ。