策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 四十二 需要愛先生「思為双飛燕」

二十章 射虎 虎を射る

 孫権は飛ぶように家に帰ったとき、頭の中ではわーわーとなっていた。
 しかし、抑揚に飛んだ感情はさっきのひどい怒りと信じられない状況とはまったく影響を及ぼしておらず、すばやく周家で起きた出来事の回想に繋がった。
 先程みたい二人の楽奴がいかにベタベタと、無作法な振る舞いをしていたとき、孫権は自分が以前思っていたのが間違いだと気づいた。大間違いだった。彼は思い出したくもないが、思い出さざるを得ず、その上、想像は飛ぶようにたくましくなった。元来男同士の□□はこのように隠秘で恥ずかしくて言えないことで、かくも驚きたまげるものだったとは……。
 それでは、自分が前に思っていたお兄ちゃんの孫策周瑜に成人の礼を指導するというのは、ほぼ間違いだ!
 細々と考えてみると、お兄ちゃんと周瑜の付き合いが浅からぬことはみんな知っていることだけれど、しかし、プライベートでの情のこもった親しみのほどは他人が知ることはなかった。そこで自分が二回偶然こっそりと出会して知ることができた。お兄ちゃんからは言及したことはない!自分が未熟だったとはいえ、お兄ちゃんの話から考えると、その実お兄ちゃんは周瑜を自分の婚姻外の相手としか位置づけていないようだ。
 これだけならまだしも、孫権が怒ることもできず、キレることもできず、泣きわめくことも、笑うこともできないのは、自分から周瑜のところへ泣いて訴えにいったことだった!
 泣くだけならまだしも、周瑜はいろいろと慰めてくれた。あの時は周瑜が嘘をついたので心中恥じてのことだと思っていた。今考え直すと、嘘などもとから存在しなかった。では、周瑜の慰めは、どうしたことか?
 細やかに考えを巡らせてみれば、賢さは絶頂の孫権の脳内に雷が一閃した。突然ぼうっと固まった。非婚関係の恋人、泣いて訴える、慰め、周瑜の話が耳元でまた蘇った。
『仲謀、まさか……その、あの少女は気に入らなかったのかい?』
『仲謀、きみ……ケガはないかい?』
『仲謀、勝敗は兵家の常。どうして輾転として眠れないことがあろう?』
 その瞬間、孫権は死さえも願った。周瑜、周公瑾、あぁ恨めしい。彼は孫権をベッドでの無能の輩だと思ったのだ、無能の輩だぞ!
 人生でこれ以上つらいことはないだろう。ある一人のずっと好きで憧れていた人に無能の輩だとおもわれることなんて!明らかなる自然の摂理、皎皎と天下のもとで、この冤罪を晴らすべきか!蒼天よ、今後わたし孫仲謀は周公瑾の目から見て永遠にベッドでの敗軍の将、こっそりと恥ずかしい病もちと思われるとでもいうのか?
 この考えは孫権の心を強烈な太陽の光で焼き尽くした。焼けて動悸がしてこころも痛んだ。どんな後悔、恥ずかしさ、恨み、怒り、どれも孫権のこの時の心情を表すには足りなかった。

 それから数日後、孫権はずっとぼうっとしすぎて、味もわからず、ぐっすりと眠ることすらできなかった。ちょうどそのころ、数人の若い友達が虎を狩りに遊びに誘った。孫権はよくよく考えずに、うんと言った。
 少年たち一行と山林に入っても、孫権は依然として心ここにあらずだった。予想外に運が良く、山に入ってまもなく一匹の額に斑がある虎に遭遇した。同行者には技の優れた射手がおり、一矢で虎の首を射た。このとき孫権はようやく意識がはっきりしてきたところだった。矢をつがえて、まさに放とうとしたとき、意外なことにこの凶悪な虎が矢に当たり、よろよろと数歩歩いてバタンと倒れたのを目撃した。このような巨大な虎が、たった一矢で倒れるとは珍しい話と言わざるを得ない。
 孫権は訝しんだ。しかし、その射手は非常に得意に話し始めた。
「みなさま、この我が家の秘伝の薬はいかがですか?これは強い毒薬ではありません。あの虎はまだ生きています。ただ気絶しているだけなのです」
 人々は口々に絶賛したが、猛獣の虎には近づこうとしなかった。その射手はみなの肝が小さいと揶揄い、自分でもう一矢つがえて、虎に二本目を射て補った。それから随従を呼んでその虎をがっちりと縛り上げ、椛の木の檻に閉じ込めた。孫権は一連の出来事をよく見ていた。その虎の息はちゃんとしていて、やはり気絶しているだけだった。なんともまぁ珍しい。
「貴兄はなぜこの虎を射殺してしまわないのですか?」
 孫権は謎に思って聞いた。
「仲謀兄は虎を馴らす術があるのを知りませんか?わたしの屋敷に新しく来たもので虎を馴らすことができる奇人がおりまして、わたしは彼にこの虎を与えようと思っています」
「そういうことでしたか」
「山林の王も、今見るとただの大きい猫みたいですね。眠ってしまって人の手のままに操られる」
 射手は笑った。
 眠ってしまって人の手のままに操られる?孫権は内心ドキッとした。数日固まっていた脳内がたちまち回転した。
 なんとも珍しい!もし公瑾がこの薬で眠ってしまったら、この大きい猫みたいに人の手のままに操られるのではないだろうか?そのとき自分は冤罪をはらすことができ、周公瑾に孫仲謀は平々凡々の輩ではないとわからせるのではないか、フンフン。
 この考えがちょっと浮かんでから、孫権は己にびっくりした。自分はいったいなにを考えている?!びっくりして全身に冷や汗をかき、孫権は深く反省した。こんな恥知らずの考えは口に出すことはおろか、もしバレてしまったら、お兄ちゃんの孫策に知られて、たぶん自分は皮を二枚剥がれるんじゃないのか?その上、周瑜は普段は見るからに温和だけれど、行動や発言は大いに果断で、ただの善良な人ではない。
 家に帰って、孫権は悶々とベッドに横たわり、しばらく悩んだあとに、やっと寝付いた。
 意外にも夜中に窓を叩く者が現れた。孫権は誰だと尋ねた。窓の外から昼間の虎を射た者の声がした。その声が言うに、
「仲謀兄、きみが薬つきの矢が欲しいなら、わたしがきみにあげよう。窓の外に置くから、仲謀兄がとればいい」
 孫権はすぐに身を起こしてベッドから降りた。窓を押し開けて見ると、月が耀く夜で人影は見えず、地面には数本の薬の矢がちゃんと揃っていた。
 虎を射た矢よりとても小さく作られていた。その他に一本の吹管があった。孫権はその吹管をもつと出かけて、薬つきの矢を入れて一度試してみた。矢は静に正確に木に当たった。
 孫権は心から大喜びし、急いでその吹管と矢を持って厩へいき、飛び乗ると瞬く間に周家の門外までやって来ていた。このとき明けの明星が出る頃で、周家の門は広く開け放たれていた。周瑜がいつも着ている紫色の袍を羽織り門から出てくるのが見えた。ふらふらと孫権の埋伏する木陰に向かってきた。孫権の心は激しく荒れ狂った。周瑜が一歩一歩こちらにむかってくるのを見て、こっそりと天の助けだと思った。
 周瑜がより近くなるのを待って
孫権はあの吹管をを取り出して、一発必中、周瑜はあっと倒れた。孫権は飛びだしてきて天を仰いで大笑いした。
周瑜、あなたはついにわたしの手に落ちた。はははは!」
 思い切り笑っていると、周瑜が口を開いた。
「権児、あなたはなにを笑っているの?」
 孫権は驚いてずっこけそうになった。周瑜の声がどうして変わったのか?変わった……うちのお母さんみたいな?
「権児、あなたは何の夢を見て、こんなに笑っていたの?」
 孫権はぼんやりとして両眼を開けると、呉夫人が自分の目の前に座っていた。孫権の腕に手を伸ばして揺り動かしていた。
「……お母さん?」
 孫権は深呼吸してみると、呉夫人に間違いなくて、周りをみれば、自分は布団を被ってベッドによこたわっていた。やはり黄粱之一夢か……。
 孫権は顔を戻して額を叩いた。
「あ!」
「権児、権児?」
「お母さん、なんでもないよ。ぼくはただ……」
 孫権は無理やり微笑んで見せた。
「おいしいものを食べる夢だったんだ」
「ええ」
 呉夫人も無理やり笑った。
「もう日が高いわよ、起きなさい」
 孫権はごそごそと起き出した。
 まもなく呉夫人は孫権の寝室を出て行くと、自分の部屋の中で長いことぽかんとしていた。さっき自分が部屋に入って孫権を起こそうとしたときはっきり聞こえた。はっきり見えた。夢見ている孫権の顔には止められない笑いが浮かび、ひどく激しく叫んでいたり二文字『周瑜……』
 まさか、まさか……?!
 このとき呉夫人は孫権を周家に半年も遊学したのを送り出したことに思い至り、とても深く後悔した。