三 与子同榻(きみと榻を同じくす)
お兄ちゃんと孫権が引っ越しの話をし始めたとき、孫権は頷いた。
数年来、苦しい生活や転々とした状況には慣れていた。
そして、今回の引っ越しは孫権にちょっと違うと思わせた。お兄ちゃんの孫策の顔に隠しきれない喜びが溢れていた。
「オレ達は舒城に引っ越す」
孫策は孫権の頭を撫でながら言った。
舒城?
周家のお兄ちゃんの家のあるところ?
孫権は顔を上げて耳をピンとそば立てた。
「おまえの周兄ちゃんがオレ達を呼んだんだ。住むところも用意してくれる」
孫策の顔は喜びに満ちている。
孫権は拍手した。
「うれしいだろ?」
孫策は孫権の鼻をつまんだ。
「お兄ちゃんはぼくよりもっとうれしい」
「どうしてオレがおまえよりうれしいんだ?」
孫策はわかっていて故意に聞いた。
「これまでは公瑾お兄ちゃんといつも行ったり来たりせずに毎日いつも一緒にいられるようになるから」
孫権はまじめに返事をした。
「舒城に着いても毎日公瑾兄ちゃんと一緒にはいられないぞ、バカ」
孫策は大笑いした。
引っ越して一ヶ月後、孫権はお兄ちゃんが嘘をついたことに気づいた。舒城に引っ越して以来、孫策はやっぱり毎日出かけては友と連れ立ち、毎日公瑾お兄ちゃんと会っていた。
そして孫権は学堂が変わっても変わらず先生から褒められ、同級生には仲間はずれにされた。
現在、周家は向かい側にあり、行き来するのに更に便利になり、あるときは一日のうちに孫策と周瑜の二人は何度も往復したこともあった。
呉夫人も我が家の策と周家の二公子は日に日に仲良くなってゆくと思えた。その話をするなり、ため息をついて孫権の髪を撫でた。
「おちびちゃん、そなたのお兄ちゃんを少し学ばねばなりませんよ。お兄ちゃんの広くつきあいをするところをね。うちの子は生まれつき賢い、性格がいささかひねてもいるのかしら?」
孫権はわかったようなわからないような風でお母さんにうなづいた。