策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 三十六 需要愛先生「思為双飛燕」

 部屋を出た後、周瑜は即刻、孫権につけてある家僕と侍女を呼び出し問いただした。
「わたしが数日家を離れている間に、何か大事な客に怠慢があったのではないか、あれば罰を与えねばならぬ」
と。
 その二人は聞くなり驚き続けざまに手を振り否定した。
「自分たちは決して何も孫家のお坊ちゃまに怠慢などありません」
 周瑜は少し表情を緩めた。
「もし怠慢が無いのならば、どうしてひとまわりも痩せてしまうのだ」
 家僕は急に顔中汗だくになり、しばらくして突然思いだした。焦って言う。
「ここ数日寝床を整えていると、孫家のお坊ちゃまが何度か敷き布団を濡らしているのを発見しました。このことではないでしょうか?」
 布団を濡らす?
 周瑜はびっくりした。家僕は周瑜の耳許で小さく二言三言囁いた。周瑜はまず眉間に皺を寄せ、にわかに我慢できず笑い出した。さっきのちび孫権の言いたくても言い出せないあの様子が思い浮かんだ。恥ずかしげな眼差し、周瑜はすぐにあたらずとも遠からず理解した。
 このことはなんでもない、周瑜は考えることもせず、これは男の子には必ず通る道なのだから、数日経てば自然と孫権もわかるだろう、とその時は思った。
 しかし、予想をはずれ数日経っても、孫権はさっぱり良くならず、ますます意気消沈し、あわれになっていった。それでやっと周瑜も焦ってきた。
 何度も調べさせた後、おねしょ(夢精)のことが孫権を困らせているのは間違いなく、周瑜はすぐに手紙を書いて、孫策に一連の出来事を説明した。孫策はすぐに返事を書いた。
『これは誠にめでたいことである。我が孫氏一門にまたひとり大人の男を迎えるのだ。公瑾よ焦る必要は無い。仲謀はまだ幼いことに過ぎない。この自然の理を知らないのだ。おまえがあいつに話してわからせればいいのだ』
 返事を受け取って、周瑜は泣き笑いの顔になって困った。こういうことは自分で孫権に話せよ!と。すぐさま又手紙を書いた。
『きみは仲謀の兄なのだから、仲謀にひとつ手紙を書いてくれ。そうして仲謀も安心させてやってくれ。きみはそんな風に面倒がらずに、わたしに用事をおしつけないように。仲謀は幼いといえども恥ずかしいのだから、わたしが口を挟んだら、つらいだろう?』
 孫策は快く返事をしてきた。
『アイヤー、公瑾こんな小事、戦場の勝敗にかかわるのでもあるまいし、両軍対峙し、なんぞ軍を動かして衆人を驚かす。何が幼くて恥ずかしいだ。オレは幼いときなんにも恥ずかしくなどなかったぞ?そうだな。中に手紙を一通付けるから仲謀に渡してくれ。オレが手紙で仲謀に説明する。我が孫氏の子弟がこうも成長したというのだから、成人の礼を欠かすわけにいくまい。申し訳ないが公瑾には仲謀のためにいいこを選んで、よくよくあいつに一度教えてやってくれ。オレのものぐさは生まれつきだから、公瑾に頼むな。じゃバイバーイ』
 周瑜はこの手紙を見て、瞬間啞然とし無言となった。反論しようとしたが、この手紙をやりとりするのに、何日もすでに浪費していた。また孫策の気性を考えて、ついにあきらめた。
 いわゆるいいこを得ようとするところの意味を、周瑜孫策の考えを理解して、周家の家令を呼んだ。
「外で一人の女子を探して欲しい」
と命じた。
「歳は若めで、十七、八歳くらいがよい。気質は優しくて大人しく、容貌は整っていて麗しいのがいい。閨房の内のことに精通していて、また口が瓶のごとく堅いのがよろしい」
 その家令は周瑜が奥様に内緒で浮気しようとしていると思い、笑ってしまった。
「ぼっちゃま、もしこのようなものをお探しになりたければ、なにも特別探すことはありますまい。自分から門を叩いて志願してくるものが絶えないでしょう……」
「この恥知らず!」
 周瑜は腹も立てたが笑って言った。
「これはわたしのためではない。孫家の弟君のために探しているのだ」
「えっ……」
 家令は訝しんで言う。
「おぼっちゃま。孫家の弟君の房事のことまで面倒を見なさるので?」
 周瑜バツが悪くて言いよどみ、モゴモゴど呟いた。
「頼まれたからやっているにすぎないんだよ」
 それから、家令は周瑜の言いつけを守り、人を探しに行った。
 一方、孫権周瑜の手から孫策の手紙を受け取った。部屋の中で開けてみると、絹地の上で龍が飛び鳳凰が舞うが如き字が目に飛び込んできた。
『仲謀、おまえのおねしょのことはオレはもう知っている。これは男子ならば普通のことである。心配するな……』
 いきなりこの言葉を読んで、孫権は驚いて気を失いそうになった。どうして軍営の中にいるはずのお兄ちゃんがぼくのおねしょのことを知っていると書いているの!額を抑えて気持ちを落ち着け、孫権はつづきを読んだ。孫策が予想外にとても詳しく書いていて、おねしょの症状を説明していた。孫権ははじめは何かの病気と疑っていたのだが、孫策は自由自在に、淡々と書いていた。本当に頼りとなる慰めだった。不治の病ではなかった。
 けれども細かく考えてみると、周家の使用人のあれやこれやがみな周瑜に報告したのは疑いなく、周瑜もまたお兄ちゃんに話して、そしてお兄ちゃんが手紙をよこしたのだ。自分がこんなに隠していたことを人に口伝えにされ、孫権はひどく恥ずかしくなった。
 けれども、不治の病では無いとわかった喜びは恥ずかしさを上回り、孫権は額にういた汗の粒を拭き取り、リラックスした微笑みを浮かべた。
 続けて読んだ。手紙の末尾に、孫策はまた書いていた。
『仲謀は成人となった。兄として頗る安心した。今もう、公瑾に弟のために素晴らしいひとときの成人の礼を頼んだ。公瑾はきっちりやってくれる。弟よ安心して受け取るべし』
ん……?成人の礼?孫権はここの部分を繰り返し読んだ。突然理解した。お兄ちゃんが言っているのは……あの白い絹本の言っていた房中術のこと?
公瑾に頼んだ?
公瑾はきっちりやってくれる?
孫権の頬は沸騰したみたいに赤くなった。夕焼けの空みたいに赤かった。こ、これはどうしたことか!お兄ちゃんがついに公瑾お兄ちゃんにぼくに房中術を教えさせようとしているの!本当に恥ずかしい人だ。
 孫権の心臓はドキドキと早く脈打った。やっぱり公瑾お兄ちゃんに断りに行かなきゃ。夜の間、孫権はベッドの上で輾転反側して眠れず。考えて考えて、少々お兄ちゃんが恨めしかった。こんなに恥ずかしい目に合わせて。かと思うと、憧れも忍びがたく、これらの淫らな行いは確実に孫権には理解しがたいのだが、心の中ではこっそりちょっと痛切に慕わしかった。
 もし公瑾お兄ちゃんが教えてくれるという話ならば、だめというわけでもなく……。
 孫権は布団を頭まで被り、夜中まで結論を考えたが出なかった。いったい断るか?それとも受け取るのか?最後にはウトウトと睡魔に襲われて、口の端に微かな笑みを浮かべて眠りについた。