策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 五十 需要愛先生「思為双飛燕」

二十七章 忤逆 反抗期

 孫権は小さい頃から特別聡明で物わかりがよく、孫策は未だかつて考えたことがなかった、この弟がこんなに反抗してしつけることもできないほどのわがまま放題をやらかすとは。
 周瑜が軍営地にやって来てからは、孫策はずっと横江を攻めることにかかりきりで、何日も孫権を気にかけることもなかった。まさか、なんとあろうことか兵士が報告しに来た。昨日孫権がどこから付き合っているのかも知れない不良仲間を連れて、ある厩に無理やり入って、五頭の極上の戦馬を連れて狩りに出かけたという。厩の兵士は孫権を止めようとしたが、殴られた。その五頭の馬は孫策が珍しい宝物のように大事にしていた戦馬だったが、晩に戻ってきた時には三頭しかいなくて、一頭は逃げ、もう一頭は矢で誤って傷つけ殺してしまった、という。
 孫策はかっとして怒り、孫権を呼んで話を聞くことになった。孫権がよろよろしながら孫策のテントに入って来たとき、遠くからでも孫策は酒の匂いを感じとれた。孫権の両眼はぼんやりと机のところに座って青黒い顔しているお兄ちゃんを見た。口ではぶつぶつと呟いた。
「さ、酒を飲んでいるのに、何の用でぼくを呼ぶんだよ」
「仲謀!」
 孫策はさっと立ち上がった。さきほど、兵士たちが報告したことを繰り返し説明して、孫権に事実かと問う。
「事実だよ」
 孫権は頭をゆらゆらと揺らした。
「二頭の馬か、ぼ、ぼくはお金がある。市場で買ってくる、二頭返せばいいんだろ、ほ、ほんとうだよ」
「誰かある!」
 孫策は怒り心頭で全身を震わせた。
「引っ立てよ、五十軍棍の刑だ!」
「将軍!将軍なりませんぞ将軍!」
 そばの李軍官らが前に進み出て慌てて言った。
「二公子は若くて世間をご存知ないのです。将軍どうか、とがめだてなさいますな」
「二公子は苦労を知らないのです。五十軍棍では命にかかわりますよ将軍!」
「なにが若くて世間知らずか」
 孫策孫権を指差して言う。
「オレがこのくらいの年には、すでに兵を率いて戦っていたぞ」
 みんなは内心、孫策はこのとき腹立ちのさなかで、万が一何か問題が起きたら、後日死ぬほど後悔するに違いない。それゆえ、しきりに押しとどめた。しかし、孫策は他人に止められるような人でもなくて、ある人が耳聡く行動も迅速に、飛ぶように周瑜のテントの中へと走り、周瑜を探し出した。
 周瑜は聞くや、大いに驚いた。孫策の弟たちのなかでも、孫権はもっとも道理のわかっているものではなかったか、もっとも話をよく聞く子ではなかったか?どうしてこんな悪さをしでかして、その上反省の色も見えないという。
 周瑜孫策のテントに入って行ったとき、孫権は首まで赤くして、ぼんやりとその場に立ち、しょんぼりとした顔をしていた。孫策は青黒い顔をしていて、両眼は火を噴き出さんばかりだった。
 周瑜は一目見てこれはいさめても止められない様子だと判断して、一計を思いついた。そこで、前に進み出て孫策に言った。
「仲謀のことは、わたしも全部聞いた。軍棍の刑に処すべきだ」
 孫権はそれを聞いて、ぱっと顔を上げて周瑜を見たが、また俯いた。
「おまえはなんで来たんだ?」
 孫策周瑜と話しながら、後ろのほうで縮こまっている親兵を見つめた。情報を流したあの親兵は慌てて逃げ出した。
「忘れたの?わたしは軍を監督する地位を昨日きみからもらったばかりだよ」
 周瑜は余裕のある様子で孫権のそばに歩いて近づいた。孫策に向かって言う。
「およそ軍中での騒ぎを起こすこと、脱走のこと、その他軍規を違反することはすべて、わたしが軍の刑罰を握っている」
「あーー」
 孫策は無言になった。
「だから仲謀のことはわたしが裁決すべきだと。孫将軍はどうおもわれますか?」
「じゃあおまえ、どうするつもりだ?もしおまえが私情にとらわれるのなら、オレとて許すわけにいかない」
 孫策の語気はあきらかに軟化していて、悶々と苦悩に満ちていた。
「すべて軍規に照らして処置します。五十軍棍、一棍たりとも減らしません」
 周瑜は低い声で呟いた。
「しかし、仲謀はきみの弟、身分は特殊、だれか別人が行って不適当だと困るから、思うにわたし自ら刑を実行するのがいいだろう」
 孫策はしばし無言でいたが、最後には手を振った。
「それじゃあおまえの言うとおりにしよう」
 このとき、テントの中で立つことおよそ半日、孫権は酔いもだいたい醒めてきて、これは大失敗をやったと気づいた。いつも、彼はお兄ちゃんが軍法を執行するのをみてきた。軍棍は腕のように太く、極めて恐ろしい。あるものは十棍も満たないうちに痛くて死んだものもあるくらい、皮も肉もめちゃめちゃにするのだ。
 それでもまだいい、孫権は身震いした。ぼくは公瑾の手で死のうとしているのだ!
 これまで孫権周瑜が懇ろに教え諭す、優しい穏やかな一面を見たことはあっても、まだ軍中での周瑜がどんな様子であるかは見たことがなかった。歯を食いしばって戦場に来て、顔をそばの周瑜に向けた。このとき、孫権の中で特別親しい、特別優しい公瑾お兄ちゃんの無表情はとても恐ろしいものだと気づいた。つり上がった鳳眼は笑うと桃の花のように華やかなのに、氷結すると凶悪に恐ろしいものとなった。
「仲謀、這いなさい」
 周瑜の声は大きくもなかったが、気迫があり力強かった。
 孫権は心から今日は逃げ出すこともできない、ただ長いすの上に跨がるしかなかった。傍らの兵士が孫権の下着を下ろそうとして、孫権は恨みがましい声で言う。
「自分でやるよ」
 周瑜は兵士に下がるように示した。孫権は自分でパンツを下ろし、ちゃんと跨がり、尻を上に向けて、黙々と長いす(背もたれのないベンチ)に抱きついた。
 そばの者が軍棍を周瑜の手に差し出した。周瑜は手で持って軍棍の重さを確かめ、軽く振って、高々と振り上げた。孫権は固く両眼を閉じた。心中で百回千回と馬を奪ったことはもとより自分が悪かった、でもお兄ちゃんも本当に残酷だ、五十軍棍も喰らったら、自分はお父さんに会いに行ってしまうのでは?小さい頃から勉強して、胸に大きな志を抱いてきた自分が、一時のバカで軍法で処分されてしまう。上はご先祖さまに、下は兄弟姉妹に申し訳ない。お母さんが苦労して自分を育ててくれたのに、もしお母さんが自分がお兄ちゃんの軍中で死んだと知ったら、どう思うだろうか?心も砕けてしまうだろう。唯一慰めとなるのは自分がどうせ死ぬのでも、公瑾の手の中で死ぬのなら、粗野な兵士の手にかかるよりはずっといい。
 そんなことを考えながら、孫権は頬に思わず透き通った涙を一条流していた。人は男の子は軽はずみに涙を流すものではないと言うけれど、それはまだ傷ついたことがないからだ。
 周瑜は軍棍を振り上げ、落とそうとするとき、孫権が涙を流しているのを見て、なんともいえない表情になった。
「仲謀、我慢しているんだよ」
 そう言うや、軍棍は重々しく落ちた。孫権は尻に鈍痛を感じた。しかし、まだマシだった。受けとめられる。歯を食いしばった。かたわらでは兵士が数を数えた、一、二、三、四、五……。
 孫権にしてみれば、時間の過ぎるのが特別長かった。しかし、思いのほかだったのは、ひたすら痛いのは明らかだが、いつも痛いのは耐えられない孫権でも気絶することなく、意外にも歯を食いしばりながら五十軍棍をちゃんと耐えたのである。
 刑が終わった後、孫権は自分の腕と足がちゃんとあることを発見した。さらにはもがきながらもふらふらと立ち上がれた。死んでいない!
 ある人が周瑜に手を拭くタオルを差し出した。周瑜は手を拭いたあと、医官を呼んだ、医官の薬箱から金瘡薬を取り出して孫権の方へ向かった。
 孫権はこのとき、少し回復してきて、朝に呑んだ酒もすっかり抜けて、思わず心の中で驚き叫んでいた。ぼくはなんということをやってしまったんだ!数日間のでたらめな行い……脳内を駆け巡り、驚きで全身冷や汗が出た。
 周瑜は金瘡薬を外で待っている孫権の側仕えの兵士に渡そうかと思っていたら、孫権の震える声音が聞こえた。
「公瑾、ごめんなさい」
 周瑜は頷いて、振り向き、目でほほ笑んだ。
「反省したのならいい」
 孫権はちょっと不満があり、また恥ずかしさもあった。のろのろとしながら、唇をやや震わせて聞いた。
「ねぇ、薬を塗ってくれるの?」
 助けられながら自分のテントに戻ると、居心地良く柔らかな布団の上に腹ばいになった。孫権は長く息を吐いた。周瑜は他の人に 出るように示して、さっきの薬の箱を開けて、孫権に塗り始めた。
「仲謀が、もし軍中で気が滅入るのなら、陽羨に戻った方がいいよ」
 周瑜孫権の尻に触れると、孫権は歯を剥き出しにした。
「痛いかい?」
「痛くない」
 孫権の眼はうるうると潤んでいた。
 周瑜孫権のテントから出てくると、孫策が外で心配そうな顔をして待ってた。
「殄寇将軍も仲謀の様子を見にきたのですか?」
「ゴホン」
 孫策はそばに誰もいないことを確認して、近づいて小声で聞いた。
「大ケガしてないだろうな?」
「皮が剝けたけど、問題ないよ」
 周瑜は軽く睨んだ
「どうしようもないガキだ」
孫策の表情は憎々しげだったが眼はいかんともし難いと悩んでいた。
周瑜は俯いて笑い、答えなかった。
「オレはやっぱり陽羨に送り返そうかと思う」
 孫策は思うところがあったのか、尋ねた。
「おまえは聞いたのか、あいつがなんで突然バカをやらかしたのか?」
「わたしは訊かないよ。きけないし」
「ふん」
 孫策はため息をついた。
「おまえの本当の弟じゃないから、おまえは仲謀が心配じゃないのか」
「もしわたしの弟なら、尚更訊けないね」
 周瑜は口の端をかすかにつり上げた。
「わたしが懲らしめたからには、もうこれからは再犯することはないよ」
「そのとおりだな」
 孫策も頷いて肯定した。
「オレの父上もこうやってオレをしつけた。オレが思うに軍営外の貴族のお坊ちゃんたちが仲謀を唆したのだろう。今日バシッとしかられたからには、これからはちゃんと記憶に留めておくだろう」

 このときテントの中では、ベッドの上で孫権がふーふーひーひーうなりながら、さらに快適なポーズはないか試しているところだった。ひんやりとした軟膏が効き始め、痛みはさきほどより強烈ではなくなっている。
 孫権は袖で額の汗の玉を擦った。布団を抱えながらぼうっとした。
 いわゆる、さっき周瑜と自分は肌で親しむ関係になったのだなぁ、孫権は顔がちょっと熱くなった。周瑜の細長くて白い指が自分の尻を触れていった。惜しいことに痛すぎて何の感覚もなかった。あきらかに薬の冷たさだけが感じられる。
 孫権の顔はますます熱くなっていった。周瑜が自分に手加減してくれたことをわかっていた。そうでなければ死んでいた。しかし、孫権は思わずにはいられなかった。撲たれたのは痛すぎた。もし、もうちょっと軽かったら、皮が剝けて生傷になるほどでなかったら、薬を塗るときに公瑾の指の腹の感触が感じられたのに……。