策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 三十八 需要愛先生「思為双飛燕」

 一時間ほどして、赤い衣の少女は部屋から走り出てきた。口では文句を言いながら、あの男の子はとってもおかしい、明らかにわたしは頑張ったし、あの子だって気持ちよくなれた。それなのにわたしのことをつかんで、周のだんな様はいつ来るのか聞いてくるばかり。だんな様がその場で確かめないとならないとでも?まさかわたしのお手当ても認められない?そう思ったら、すぐさまに風のように素早く帳場まで走り、家令にお手当ての支払いを求めて去って行った。
 部屋の中では、服が乱れたままの孫権が一時間ほどベッドで座って待っていた。ついには我慢できず、上着を羽織って飛び出ていった。屋敷の家僕と会い、孫権は怒りも露わに「公瑾お兄ちゃんは?」と尋ねた。家僕は「だんな様はまだ書房にいます」と答えた。孫権は聞くやいなや書房に突っ込んで行った。ノックもせずに戸をひと思いに押し開けた。
 書房の中では、周瑜はベッドによりかかり、灯明を灯して読書をしていた。目を上げて孫権がザンバラ髪で飛び込んできたのを目撃した。
「仲謀、きみ……」
 周瑜は上から下までさっと見回し、孫権のめちやくちゃな下着の乱れぶり、中衣も崩れ、頭髪は完全に解けて肩に落ちていた。まさかあの少女はきっちりやり遂げてくれなかったのか?周瑜は眉をひそめた。
 孫権の目の縁はこの時すでに赤くなっていた。
「あ、あなたはまだここで読書なんかして!」
「えっ」
 周瑜は本当にいったい何から話せばいいのかもわからず、孫権にばつの悪い微笑みを向けるしかなかった。
「ぼくは一時間も待った!」
 孫権は怒り、涙も流し始めた。
 周瑜はしばし時間をかけて考え、とつぜんはたと思い至った。そうだ。孫権にしてみれば、初めてのことなのだ。そして、この屋敷うちでは自分はなんといっても一番身近な人生の先輩である。彼はこの時おおよそ気持ちがちょっと昂っているのだ。嬉しさを分かち合うまたは……不満をぶつける?必要がある。
「仲謀、まさか……えー、あの女の子は気に入らなかった?」
「あなたは自分で来るって言ったのに、うそつき……」
 孫権は泣き、ひどく傷ついた。泣きながら訴えた。唇はへの字にまがり、この瞬間、自分は天下で一番の大馬鹿だと思った。周瑜にこんなに手ひどくだまされるなんて。
「わたしは思いもよらなかったよ……」
 周瑜孫権が振り乱して泣くさまを見て、話を続けることもできなかった。もともと周瑜は人を笑わせたり慰めたりするのが得意な方ではなく、この時はただ無言で孫権の側に寄り、孫権の頭を撫でて、小さな子どもにするみたいに手の甲で流れ続ける涙を拭いてやった。周瑜は見ていておかしくもあり、かわいそうにも思い、腕を伸ばして孫権の肩を抱きしめた。
「うーうーうー………」
 孫権は悔しさでいっぱいになりながら周瑜の懐にもたれかかった。
 周瑜はしばらく慎重に考えてから言った。
「仲謀、きみ……ケガはしなかった?」
「そんなのないよう、うーうー……」
「なら良かった。そうでなければいったいどうやってきみのお兄ちゃんに言い訳したらよいものやら」
 周瑜孫権の泣くさまに思考も千々に乱れた。ただただ孫権の背中を軽く叩き続けても慰めた。
「よくもまぁお兄ちゃんに言い訳とかまだ言ってる!うーうー……」
「これはわたしが悪かった」
 周瑜はなすすべがなかった。
「じゃあ、日をあらためてもっといいこを探そうか……?」
「いらない!」
 孫権の泣き方はさらに激しくなった。
「あなたは他人を押しつけるつもり?ぼくは要らない!」
 周瑜は無言で応じた。ひたすら照れくさそうに言う。
「そういうなら、ごほん、きみのお兄ちゃんの考えは本当につまらないものだった」
「つ、つまらない考え?あ、あなたは後悔していないの?」
 孫権は怒りで周瑜の手を打ち払った。くるりと外に向かおうとした。周瑜が慌てて引き止めた。
「仲謀、待って」
「いまさら何を待てだよ。ぼくはあなたを恨むよ!寿春に帰りたい!」
 孫権は怒りで頭がぼうっとしてきた。もはや気にかけられることもなく、吐け口さえも完全に遮断されて無い。
 これを聞いて周瑜はなおさら彼が行くのを止めた。もし、孫権がこのまま逃げ帰って孫策に泣いて訴えたら、なおのこと返せない。孫権の手を引いて言う。
「仲謀、話があるならわたしが聞こう。他人扱いしないでくれ。わたしが思うに、解決できないなんてことはない……」
「いらない」
 孫権はだんだん泣き声が落ち着いてきた。
「あなたはひとことで、あなたが傷つけた心を取り戻せると思っているのぼくはあなたの手助けなんていらない自分で寿春に帰る道筋くらい知っているもの」
 孫権のこんなに頑固なさまを見て、周瑜は困り果てて焦った。不器用にあやすことしばし、孫権の表情もだんだんゆるんできた。このときすでに二更(午9時~11時)で、周瑜孫権を一人で部屋に帰すのに安心できなかった。本当にこっそりと寿春に帰ることを恐れたのである。ついに孫権も泣き疲れて、書房のベッドで眠るしかなかった。
 孫権は言う。「ぼくはあなたのことを許していないんだ。ぼくたちは互いの領分を侵さない」自分がもう周瑜に失望したこと、もう周瑜を求めていないことを示した。孫権はベッドにあがり、服を脱がずに中に横たわった。一人壁に向かって縮こまって塊となった。振り返って周瑜に言った。
「あなたは来ないで」
 周瑜はちょっと笑いたくなったが、笑うこともできず、上着を脱ぎ、中衣でベッドに横たわった。手を伸ばして布団の隅を引っ張って孫権に被せた。二人はやっと仲良く灯りを消して眠ることができた。