策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 六十三 需要愛先生「思為双飛燕」

四十章 拒質 人質を拒む
 孫権は宮殿内の人々を眺めてみた。みんな論争真っ最中だった。張昭らは、「呉侯は漢の臣下であるから、やはり朝廷のお申しつけには従うべきである。孫策の子を都へ送り、一には忠誠心を示し、二には群雄割拠の状況下で、これ以降も朝廷の助けが得られる」と語る。孫権周瑜魯粛の方を見た。彼らは何も話さず、立ったままで黙り込んでいた。孫権はそこで手を振り、「これは大事なことである。じっくり相談しなければならない。まずは解散だ」と言った。
 皆のものが去った後、孫権はすぐに人を遣わして周瑜を呼び戻した。見ると周瑜は沈んだ顔をして入ってきた。素早く進み出て孫権周瑜の右手をつかんだ。
「公瑾、わしはわかっている。あなたが紹児を許昌に送りたくなどないことを。あなたはさっきどうして意見をいわなかったのか?」
「主公」
 周瑜孫権の手から自分の手を抜き出したかった。けれども、動けず、孫権はがっちりとつかんでいた。どうしようもなくてそのままにして言った。
「朝廷の大義、漢室への忠心、どうして反論できましょう?わたしが話したところで説得力がありません。しかし、奥様は初の男のお孫さんを心底可愛がっておられます。奥様が許さなければ、どうでしょう?」
「なるほど、あなたが話さないのも無理はない!」
 孫権ははっと気づいた。
「そうだその通りだ。このことは、母上を表に出すべきだろう。子として孝養を尽くすものだ。ぼくとしてもいい口実になる。公瑾はほんとうに聡明だなあ、やっぱりお兄ちゃんもあなたの言うことをみな聞くわけだ」
「……」
 周瑜孫権をちらりと見た。
「主公、主公は曹操に対していったいどう対処するおつもりですか?」
「つもり?」
 孫権はちょっとびっくりした。
「主公は曹操に付きたいとお想いか、それともべつのお考えがおありか」
「しばらくは仲違いするわけにもいくまいなあ」
 孫権は少し悩みながら言った。
「公瑾、晥城の戦いの後で、江東は損傷が甚だしい。もし曹操がこれから大軍で国境に迫ってきたら、ぼくたちは実際に不利だ。ぼくは手紙を書こう。できるだけよしみを結ぶよう言葉を尽くして、たくさんたくさん宝物を朝貢しよう」
「それは今しばらくの策で、それからは?」
「それからはもちろんお兄ちゃんの遺志を継いで大業をなそうと思っている」
 孫権はさらに悩む顔になった。
「公瑾あなたは現在ぼくのことをちょっと理解したりないね。ぼくがいつもどこが正しくないんだろうか。あなたはぼくがお父さんやお兄ちゃんの大業に対して怠けていると見えるのかな。お兄ちゃんの当初の志は、まさかあなたは理解していないとでも?」
「主公!」
 周瑜はちょっと感動していた。
「主公がそのようにお話になり!わたしは安心いたしました!」
 孫権もとても感動した。
「公瑾、このようにぼくたちは気持ちがぴったりと合ったんだ。便利になるよう、将軍府の中に引っ越して住んじゃいなよ、いつでもぼくを少しでも助けられるようにさ」
「それは」
 周瑜は慌てた。
「絶対ダメです」
「なんでダメなの?」
 孫権周瑜を見つめて言った。
「公瑾、ぼくは以前軍中であったことを覚えているよ。あなたはいつも夜にお兄ちゃんと軍務を相談するのに、お兄ちゃんのテントにいたよね。あなたはお兄ちゃんが食べかけた砂糖漬けのドライフルーツも食べていた……」
 周瑜の顔はさっとちょっと赤くなった。赤みは首まで届いた。しばしこらえてからやっとのことで話す。
「行軍、戦争のときはそんなに拘りません。これは今日と同じくには語れません」
 孫権はとてもいじけながら周瑜を見た。
「公瑾の言うことはもっともだ。ぼくにはなすすべがない」
 しばらくすると、周瑜の顔は赤くなるのを通り越して紫色になってきた。
「主公、もし他に用事がなければ、失礼いたします」
「だめだめ、まだ一個あるんだ。とっても大事なことが。ぼくは公瑾に説明するよ」
 孫権はちょっと考えてから話し始めた。
「最近ぼくは夜に竹簡を読んでいるんだ。とても昔の竹簡を見つけたんだ。前回の出陣のときに読み直そうとそばに置いていたら、不幸にもバラバラになってしまった。残った竹簡にはお兄ちゃんに関する重大なことが書いてあったようなんだ」
「何事ですか?」
 すでに帰ろうとして出入り口を見ていたのが、周瑜孫権孫策に関する重大なことがなどと話すやいなや、足を止めた。
「公瑾……」
 孫権はぐるぐる迷ってから、突然周瑜の方を向いて言い始めた。
「竹簡の上にはいつ書いたかわからないけれどお兄ちゃん、上がらない(不挙)などの文字があったんだ。公瑾にだけ話したかったんだ。ぼくたち孫家の一族はもともと身体が強壮で、偶然にそういうことがあったとしてもただの事故で、公瑾は責任を押しつける必要なんて無いんだ。悪く思わないで」
「主公、なにをおっしゃっているのですか?!」
 周瑜はこのとき、首は赤く染まり、両眼は大きく見開かれ、全身をこわばらせ、信じられないという顔をしていた。
「ゴホンゴホン」
 孫権はよけいに声を低めた。
「みんな男同士。わかっていることだ。ただぼくはなぜ小さい頃にこれを記録したのかわからない。まさか公瑾あなたが言ったの?」
「わたしが言ったことなどありません!仲謀きみは濡れ衣を着せてはならないよ!」
 周瑜は焦って、礼儀もなにもなくなった。
「それはおかしいな」
 孫権はぶつぶつと呟いた。
「あなたはほんとうに言ってない?」
「ありません」
「それじゃあ誰が言ったのかなぁ?」
 孫権は愕然とした。
「いったいだれも」
 周瑜はもう我慢できなくなった。
「きみが書き間違ったんだろう!」
「あなたは確かにそう思う?」
「わたしは確かにそう思う!」
 周瑜のその一言は、がらんとした大きな宮殿内に響き、そのあと静に声もなくなった。周瑜がどうして孫策のベッドでの様子について確かなことを言えるのか?もしこの地面に穴があったら、周瑜はきっと迷うことなくもぐりこんだだろう。もしこのとき天上に雷があったなら、周瑜はきっと迷うことなく自分の頭を雷でかち割っただろう!
「うぅん……」
 孫権も気まずくなってきた。
「そ、その実公瑾あなたもそんなにあわててお兄ちゃんのために弁解する必要もないよ。だ、大体小さい頃のことだから、は、はっきりとは、混乱したんだ……」
 恥ずかしくて下を向き、両眼は伏せてどうしてよいのかわからない完全に自失した周瑜を目の前にして、孫権はこんな周瑜は初めて見たなぁと内心思った。惜しいことに長くは見られず、次の瞬間周瑜は突然放たれた矢の如く素早く消えた、こそこそと逃げるようにして大門を出ようとして、門にぶつかった。孫権は後ろからあわてて声を掛けた。
「公瑾気をつけて、門に注意して!」
 
 このあと、ひどく長い間孫権周瑜に会えなかった。
「あぁ」
 孫権はため息をついた。
「事情ははっきりと話したのに、なんで公瑾は柴桑に行っちゃってぼくに会いに来ないのかな?わしは恋しいのになぁ」


*竹簡に、お兄ちゃん、石臼、挙げられない、と書いていた。孫権は不挙を不能ととったんでしょう(笑)