策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 三十三 需要愛先生「思為双飛燕」

 孫策孫権が手紙を出した四日後に現れた。
 早朝、周瑜は早馬の手紙を受け取った。手紙には孫策孫権の様子を見に来たい、とあった。
 正午、周瑜が出かけようとするとき、太陽の真下で馬から降り立った孫策に出会した。
 孫策周瑜を見るなり、たちまち大いに喜び、声を上げた。
「ハハッ、ちょうど逢ったな!公瑾!オレは仲謀の様子を見に来たぞ!」
 周瑜は屋敷から出て、階段を降りようとしたところに、よく知ったやかましい声を耳にした。顔を上げると、一人の青い着物に白い袍を羽織った影が飛び込んできた。周瑜孫策がまだ軍営中にいるもので、きっと何日か後に来ると思っていたので、一瞬目にして、ひどく驚き自分の家の階段でつまずいて転びそうになった。
 孫策は影のように、周瑜を見るや、急いで腕を伸ばして支えた。
 気づかうように言った。
「公瑾、脚がなぜこんなにもしっかりしていない?」
 周瑜は目を見開いてじっと見た。目の前にいるのは疑いもなく孫策で、にわかに驚いた。
「きみどうしてここに?」
「おう、最近軍営中もヒマでな」
 孫策は口先では不真面目に周瑜の話に答えていたが、孫策の目は周瑜の脚を見つめていた。にわかに疑いの目が下から上に移り、周瑜の顔を見つめ細かく確認し始めた。
 周瑜はなぜ見られているのかわからず、ゆっくりと体勢を整えてから思い出した。前回二人がどのようにしてケンカ別れしたのか、そこで顔色が暗くなった。腕も孫策の手から抜き出して、冷ややかに言った。
「義兄、仲謀なら中庭にいます……」
 言い終わる前に、背後から澄んだ子どもの声がかけられた。
「お兄ちゃん、ぼくはここにいるよ!」
 もともと孫権はお昼寝しようと思っていたが、中庭で周瑜がお出かけするのを見てついて出てきたのだった。周瑜は後ろにいることを知らず、急ぎ足で、孫権は子どもで脚も小さく、追いつかなかった。孫権が正門近くまでやって来たときに、ちょうど孫策周瑜を支えているのが見えた。
「仲謀!」
「お兄ちゃん」
 兄弟の再会は特別仲良く、周瑜は家僕に命じて二人を大広間に案内させた。周瑜は自身は用事があって出かける、終わったらすぐ帰る、と。
 大広間に入ると孫策は側に他人がいないことを確認して、孫権に向かってため息をついた。孫権は変に思って言った。
「お兄ちゃん、なんでぼくをみてため息をついたの?」
 孫策は首を振った。
「仲謀、オレはおまえに対してため息をついたんじゃない。公瑾にだ……」
「公瑾お兄ちゃんがどうかしたの?さっき逢ったんじゃないの?」
「今さっき門のところでな、公瑾は段を踏み外して、転びそうになったんだ」
「ぷっ……」
 孫権は思わず笑ってしまった。
「おかしくない!」
 孫策は少し心配そうに呟いた。
「おまえにはこのことの酷さがわからんだろう。公瑾は幼いときより武術を習い、武芸は普通レベル*だが、からだを強くし、健康を保つくらいには充分だった。それが何日か会わないうちに下半身がしっかりしていないとは。仲謀の言っていたことも嘘ではないな」
「ぼく……?」
 孫権は驚いた。
「お兄ちゃんは何を嘘ではないと言っているの?」
 孫策は落ち込んでなにも言わなかった。
 しばらくして、周瑜がやっと帰ってきた。大広間に入り、孫家の兄弟と挨拶した。孫策は相談したいことがあるから、書房で少々話したい、と。孫権孫策に中庭に追い出されて、心中大いにむかついた。
「ぼくの様子を見に来たと言いながら、十五分も会わないうちに公瑾お兄ちゃんと書房に行っちゃった……」
 孫権は落ち込んで戻ろうとした。顔を上げて大広間の内外を見ると、書房に通じる廊下までずっと人の気配もなく静まり返っている。
 もともと、この時はまさに夏の暑い盛りで、昼過ぎだった。周家の人はいわずもがな猫も犬も、ひんやりと冷たい場所を探して休んでいた。孫権は遠くにきっちりと閉められた書房の戸を眺めて、思わずドキリとし、ややもしてから抜き足差し足で進んで行った。
 頭を傾け、耳を書房の戸にくっつけた。孫権は大声どころか呼吸さえも抑えて、集中して中の様子を聴こうとした。
 孫策の声は時に高く時に低くなり、孫権はお兄ちゃんのつまらない型通りの挨拶や、公瑾が弟の面倒を見てくれてありがたいなどの類をいっているのが聞こえた。孫権は聞いてつまらなくなり、離れようとした。まさにそのとき図らずも孫策の舌鋒が鋭くなり一転した。突然。
「公瑾、おまえは新婚の身であるが、身体には注意しないとだめだぞ。過度の欲望はよくないぞ」
 そのあと、孫権は茶を噴く音が聞こえたような気がした。続いて周瑜の詰まって声にならない返事があった。
「き、きみ、きみなにをバカなことをいっているんだ!」
「おう、いわずもがなだろ」
 孫策はため息をついた。
「なにがいわずもがなだ!」
 周瑜は叫ぶ。
「オレはおまえの足元がしっかりしていないのと、顔が青白いのとを見た。これらは以前にはなかった。大体はしすぎない……」
 話の声も途中で、孫権は書房の中から何かが床に投げつけられる音がした。すぐに周瑜の抑えられない怒りと罵りが続いた。
孫策!前はわたしの結婚の時に、きみは相談があるといってやって来た。わたしは軍で緊急事態が起こったのかと思って、きみと出かけたら、なんときみはわたしの婚宴を故なく邪魔をしようとした。き、きみ!」
 孫策の声は明らかに虚ろだった。
「前回はオレはただ公瑾に会いにきて……」
「わたしはきみが破った服のままで屋敷に帰って、夜盗に遭ったというしかなかったんだぞ!」
「あの日はほんとはオレの気分が良くなかったんだ。一時焦って、公瑾許してくれ。言うなら、おまえもオレの顔をぶん殴ったろ。何日も腫れがひかなかった。十歳以後オレは至近距離で誰にも殴らせたことなどないんだぞ」
「それじゃあ、わたしは義兄に殺さなくてくれてありがとうとでも言わなければないとでも?」
「ちがうちがう。公瑾誤解だ」
 孫策はせわしなく言った。
「おまえの一噛みだってまったく酷かったぞ、今でもオレの口の端の傷はまだ癒えてないぞ。信じないなら見てみろ……」
孫策!」
 周瑜の声はだんだん昂って高くなっていった。
「きみの結婚の時を思い出してみろよ。わたしがいかに尽くしたか。きみは恩を仇で返すのか。嘘を最初について。今日来てから後に、また嘘をつく!」
 宝剣を鞘から抜くような音がした。加えて周瑜のあのひどく怒っているさまから、孫権周瑜の書房の壁に架かっている鋭い剣を思い出した。思わず寒気がして、書房の戸を押し開けようと手を伸ばした、まさに声高く叫ぼうとした。
(うちのお兄ちゃんを殺さないで!)
 思いがけなく孫策の次の一言が孫権に尻もちをつかせそうになった。
 孫策の声は孫権が聞いたことがないようなものだった、極めて珍しい。ちょっと強引でちょっとわがままな、どこかいつもの孫策らしくない語調で話していた。
「公瑾がついにオレに剣を抜いて向かうのか、あぁ、おまえはオレを斬り殺すといいさ」
 部屋の中はいっとき何の音もしなかった。
 孫権は驚いて書房の戸を見つめた。心の中で思った。
(お兄ちゃんはいつも公瑾お兄ちゃんととっても仲良しなのに、今日はどうしてこんな状況になってしまったの。ぼくはこの事態を混乱させないようにしなければならない。二人の行き違いを解消するには、中に入っていって止めた方がいいのかな?)


*公瑾の武術レベルは普通。孫策の主観です。のちのち全然フツウじゃないことが判明します(笑)