策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 三十七 需要愛先生「思為双飛燕」

十六章 初夜 

次の日、昼食を済ませたあとに、周瑜孫権一人を書房に呼んで、考える様子で告げた。
「きみはお兄ちゃんからのお手紙を読んだかい?」
「よ、読んだよ」
 孫権は内心ドキリとした。周瑜はお兄ちゃんが書いてきた内容を明るみに出そうとでもいうのだろうか。顔が熱くなり、書房の様子を盗み見た。この前のお兄ちゃんと周瑜が書房の中にいたことが思い起こされた……見たところ周瑜は書房の中でいたすのが好きなみたい……顔の熱がさらにひどく上がった。
 孫権の表情は決まりが悪そうで、床を見つめて、顔には赤みがさしていた。周瑜もばつが悪くなり、このことは本来彼の寄与するところではないし、そのうえ孫権はまだ幼いのだし、孫策の計画がいいのか悪いのかもわからない。
 しかし、矢はすでに弦につがえられ、放たずにはいられない。周瑜は咳をひとつすると、目線を外した。
「では、きみはお兄ちゃんの考えをすべて理解しているんだね?」
「わ、わかりました」
 孫権は蚊の鳴くような声で答えた。目線を上げて見れば周瑜孫権を見ていなかった。目線は別の方に向けられ、顔には自分と同じくひどく恥ずかしがる表情が浮かんでいた。孫権はショックを受けた。密かに思った、百戦錬磨の公瑾お兄ちゃんもぼくと一緒で恥ずかしいんだ。
「わかっているならいい。わたしの考えではだいたい明日だろう」
 周瑜孫権の肩を叩こうか手を伸ばしかけて迷い、考え直して叩かなかった。
「明日?そんなに早く?」
 孫権決まり悪げに自分の袖を引っ張った。
「ほんとうはね、そんなに急がなくても、二日後でも遅くないし……」
 その声はだんだん小さくなっていった。
「そう決まったのなら、明日の夜、君は自分の部屋で待って、そこで行う」
 周瑜は一気に言った。
「ぼくの部屋?」
 孫権は恥ずかしがりながら言う。
「ぼくは書房でだと思った」
「書房?」
 周瑜はちょっとびっくりした。
「えっ、もちろん違うよ」
「じゃあ、ぼくは失礼します」
 孫権はくるっと書房から逃げ出すように出て行った。その夜は少しも眠れなかった。
 次の日、本当に立っていられなくて、孫権は真昼の間ずっと眠り続けた。夕方気持ちを奮い立たせ来るべきことに思いを馳せ、孫権は顔が熱くなり心臓が早く脈打ち、考えることもできなかった。
 テーブルの上の灯明は床にはっきりとした影をつくっていた。突然外から誰かが戸を叩く音がする。
「誰?」
 孫権はつばを飲み込んだ。
「わたしです」
 知らない女の返事があった。
「きみは誰?」
 自分についている侍女の声ではなく、孫権はちょっと驚いた。
「周のだんな様からのお申しつけで参りました者です」
「えっ?」
孫権はわからず、戸まで行って開けると、外には淡い赤の着物を身に纏った少女が立っていた。年の頃は十七、八歳、顔立ちはとても垢抜けて美しかった。話し声も優しく、うるうるとしたアーモンド型の目で孫権をじっと見つめていた。
「きみは……?」
「周のだんな様がおぼっちゃまにお仕えせよとお命じになりました」
「ぼくに仕える?」
 孫権はちょっと考えて、ああそうか、周瑜の侍女なんだ、先に自分の準備をさせようとこさせたのだと思った。孫権の側の少女は部屋に入っていった。

よちよち漢語 三十六 需要愛先生「思為双飛燕」

 部屋を出た後、周瑜は即刻、孫権につけてある家僕と侍女を呼び出し問いただした。
「わたしが数日家を離れている間に、何か大事な客に怠慢があったのではないか、あれば罰を与えねばならぬ」
と。
 その二人は聞くなり驚き続けざまに手を振り否定した。
「自分たちは決して何も孫家のお坊ちゃまに怠慢などありません」
 周瑜は少し表情を緩めた。
「もし怠慢が無いのならば、どうしてひとまわりも痩せてしまうのだ」
 家僕は急に顔中汗だくになり、しばらくして突然思いだした。焦って言う。
「ここ数日寝床を整えていると、孫家のお坊ちゃまが何度か敷き布団を濡らしているのを発見しました。このことではないでしょうか?」
 布団を濡らす?
 周瑜はびっくりした。家僕は周瑜の耳許で小さく二言三言囁いた。周瑜はまず眉間に皺を寄せ、にわかに我慢できず笑い出した。さっきのちび孫権の言いたくても言い出せないあの様子が思い浮かんだ。恥ずかしげな眼差し、周瑜はすぐにあたらずとも遠からず理解した。
 このことはなんでもない、周瑜は考えることもせず、これは男の子には必ず通る道なのだから、数日経てば自然と孫権もわかるだろう、とその時は思った。
 しかし、予想をはずれ数日経っても、孫権はさっぱり良くならず、ますます意気消沈し、あわれになっていった。それでやっと周瑜も焦ってきた。
 何度も調べさせた後、おねしょ(夢精)のことが孫権を困らせているのは間違いなく、周瑜はすぐに手紙を書いて、孫策に一連の出来事を説明した。孫策はすぐに返事を書いた。
『これは誠にめでたいことである。我が孫氏一門にまたひとり大人の男を迎えるのだ。公瑾よ焦る必要は無い。仲謀はまだ幼いことに過ぎない。この自然の理を知らないのだ。おまえがあいつに話してわからせればいいのだ』
 返事を受け取って、周瑜は泣き笑いの顔になって困った。こういうことは自分で孫権に話せよ!と。すぐさま又手紙を書いた。
『きみは仲謀の兄なのだから、仲謀にひとつ手紙を書いてくれ。そうして仲謀も安心させてやってくれ。きみはそんな風に面倒がらずに、わたしに用事をおしつけないように。仲謀は幼いといえども恥ずかしいのだから、わたしが口を挟んだら、つらいだろう?』
 孫策は快く返事をしてきた。
『アイヤー、公瑾こんな小事、戦場の勝敗にかかわるのでもあるまいし、両軍対峙し、なんぞ軍を動かして衆人を驚かす。何が幼くて恥ずかしいだ。オレは幼いときなんにも恥ずかしくなどなかったぞ?そうだな。中に手紙を一通付けるから仲謀に渡してくれ。オレが手紙で仲謀に説明する。我が孫氏の子弟がこうも成長したというのだから、成人の礼を欠かすわけにいくまい。申し訳ないが公瑾には仲謀のためにいいこを選んで、よくよくあいつに一度教えてやってくれ。オレのものぐさは生まれつきだから、公瑾に頼むな。じゃバイバーイ』
 周瑜はこの手紙を見て、瞬間啞然とし無言となった。反論しようとしたが、この手紙をやりとりするのに、何日もすでに浪費していた。また孫策の気性を考えて、ついにあきらめた。
 いわゆるいいこを得ようとするところの意味を、周瑜孫策の考えを理解して、周家の家令を呼んだ。
「外で一人の女子を探して欲しい」
と命じた。
「歳は若めで、十七、八歳くらいがよい。気質は優しくて大人しく、容貌は整っていて麗しいのがいい。閨房の内のことに精通していて、また口が瓶のごとく堅いのがよろしい」
 その家令は周瑜が奥様に内緒で浮気しようとしていると思い、笑ってしまった。
「ぼっちゃま、もしこのようなものをお探しになりたければ、なにも特別探すことはありますまい。自分から門を叩いて志願してくるものが絶えないでしょう……」
「この恥知らず!」
 周瑜は腹も立てたが笑って言った。
「これはわたしのためではない。孫家の弟君のために探しているのだ」
「えっ……」
 家令は訝しんで言う。
「おぼっちゃま。孫家の弟君の房事のことまで面倒を見なさるので?」
 周瑜バツが悪くて言いよどみ、モゴモゴど呟いた。
「頼まれたからやっているにすぎないんだよ」
 それから、家令は周瑜の言いつけを守り、人を探しに行った。
 一方、孫権周瑜の手から孫策の手紙を受け取った。部屋の中で開けてみると、絹地の上で龍が飛び鳳凰が舞うが如き字が目に飛び込んできた。
『仲謀、おまえのおねしょのことはオレはもう知っている。これは男子ならば普通のことである。心配するな……』
 いきなりこの言葉を読んで、孫権は驚いて気を失いそうになった。どうして軍営の中にいるはずのお兄ちゃんがぼくのおねしょのことを知っていると書いているの!額を抑えて気持ちを落ち着け、孫権はつづきを読んだ。孫策が予想外にとても詳しく書いていて、おねしょの症状を説明していた。孫権ははじめは何かの病気と疑っていたのだが、孫策は自由自在に、淡々と書いていた。本当に頼りとなる慰めだった。不治の病ではなかった。
 けれども細かく考えてみると、周家の使用人のあれやこれやがみな周瑜に報告したのは疑いなく、周瑜もまたお兄ちゃんに話して、そしてお兄ちゃんが手紙をよこしたのだ。自分がこんなに隠していたことを人に口伝えにされ、孫権はひどく恥ずかしくなった。
 けれども、不治の病では無いとわかった喜びは恥ずかしさを上回り、孫権は額にういた汗の粒を拭き取り、リラックスした微笑みを浮かべた。
 続けて読んだ。手紙の末尾に、孫策はまた書いていた。
『仲謀は成人となった。兄として頗る安心した。今もう、公瑾に弟のために素晴らしいひとときの成人の礼を頼んだ。公瑾はきっちりやってくれる。弟よ安心して受け取るべし』
ん……?成人の礼?孫権はここの部分を繰り返し読んだ。突然理解した。お兄ちゃんが言っているのは……あの白い絹本の言っていた房中術のこと?
公瑾に頼んだ?
公瑾はきっちりやってくれる?
孫権の頬は沸騰したみたいに赤くなった。夕焼けの空みたいに赤かった。こ、これはどうしたことか!お兄ちゃんがついに公瑾お兄ちゃんにぼくに房中術を教えさせようとしているの!本当に恥ずかしい人だ。
 孫権の心臓はドキドキと早く脈打った。やっぱり公瑾お兄ちゃんに断りに行かなきゃ。夜の間、孫権はベッドの上で輾転反側して眠れず。考えて考えて、少々お兄ちゃんが恨めしかった。こんなに恥ずかしい目に合わせて。かと思うと、憧れも忍びがたく、これらの淫らな行いは確実に孫権には理解しがたいのだが、心の中ではこっそりちょっと痛切に慕わしかった。
 もし公瑾お兄ちゃんが教えてくれるという話ならば、だめというわけでもなく……。
 孫権は布団を頭まで被り、夜中まで結論を考えたが出なかった。いったい断るか?それとも受け取るのか?最後にはウトウトと睡魔に襲われて、口の端に微かな笑みを浮かべて眠りについた。

よちよち漢語 三十五 需要愛先生「思為双飛燕」

十五章 人之初 ひとの初めて

 孫策は次の日には周家から出発していった。それから長いこと、孫権はお兄ちゃんに会わなかった。ただ孫策から送ってくる手紙の中から、大体のことは知ることができた。孫策袁術の下でしばしば戦功を立て、袁術もみんなの前では褒めているけれど、口先だけで実の伴わないものだった。孫策はずっと本当の自分の抱負を実現できていなかった。父の元部下達を取り戻し、拠って立つ土地を得ることを。
 孫権のほうでは、これらの手紙の中のことは遥かに遠かった。舒城と寿春の間はそんなにも遠くないが、軍営と周家では雲泥の差があった。
 幼いころから戦争、忙しない生き方を見慣れていて、現在孫権は二つの世界がはなはだ離れていると感じられた。
 居心地の悪いいっときを過ぎて、孫権も落ち着いてきた。あの書房の外で聞いたことはもう思い出したくなかった。ただ周瑜にくっついて先生の四書五経の講義を聞いたり、練武場で周家の武術の先生について教わったりした。もともとは孫権は武術の練習は好きではなかった。けれど、あの日からまじめに練習した。そもそも、孫策が言った、身体が丈夫だから耐えられる、というのが孫権には深い印象を与えた。孫権は突然意識した。いまは周瑜は見たところお兄ちゃんの孫策よりも背が高く、さらに体型は少年の頃の繊細でほっそりとしていたころより丈夫になっている。
 あの日書房の外で聞いたお兄ちゃんの言った、周瑜はプライベートでは人を殴るのが好き、と言う言葉。自分の貧弱な身体に考えがいたり、孫権はちょっと悲しくなった。転ばぬ先の杖、災いは未然に防ぐもの。もし、将来周瑜お兄ちゃんとプライベートで自分もお付き合いするのなら、強くて健康な身体がなくてどうする?ぼくだって耐えてみせる。このような考えでもって、孫権は毎日剣術を練習して、以前より成長した。
 
 たちまち数ヶ月瞬く間に過ぎた。孫権はさっぱりと忘れてしまった。まるで昨日周家に来たばかりみたいで、すべてがまだ新鮮で面白く、日が経つのが早かった。
 しかし、一大事が発生した。孫権は言い知れぬ恐怖に襲われ、びくびくと一日を過ごした。
 事件はある普通の早朝に起こった。いつもと同じく孫権が身を起こして、洗顔、歯磨きに行こうとして、布団をめくろうとしたとき、手は突然空中で止まった。身体の下の敷き布団になんだかしめっぽい箇所があり、孫権は驚いて思わず叫び出しそうになった。
 もう十二歳なのに!おねしょを?手で撫でてみるとほんの少しの大きさのシミで、パンツにもあり、孫権は目を丸くし口も呆けてシミを見つめた。侍女が戸をノックしたのにも気づかなかった。幸いにもシミは大きくない。孫権は内心思った。
(湯飲み茶碗をひっくり返して、侍女にきれいに洗わせに持っていくよう命じればいいのだ)
 その事件はそれで終わった。
 しかし、三日後の早朝、孫権は布団にまたわからないシミができているのを発見する。何度も続いて、孫権はひどく恐ろしくなってしまった。
 自分はなんの不治の病にかかってしまったのだろうか?幼い頃を思い出せば、周囲には道半ばで夭折していった幼馴染みを見てきた。孫権は鳥肌を抑えられなかった。この病は夜間知らないうちに発生する。まったく不思議でならない。その上、起こった場所もまたなんとも他人に恥ずかしくて言えないのである。
 孫権は一時ぼうっとしていた。考えれば考えるほど気持ちが悪く、苛立ち、軽率に他人に言えない。数日間悲惨な状況で、食欲さえもなく、ついにはたちまちひとまわり痩せてしまった。
 周瑜はこの何日か外を駆けずり回っていた。屋敷に戻って静で空いた一日ができて、孫権の様子をちょっと見てみようと思い立った。
 しかし、見ると孫権は両眼が落ちくぼみ、顔の表情はひどく暗く、ぼーっと窓辺に座っていた。
 周瑜が部屋に入ってくると、目を向けてきた。
 やっと十二、三歳の頃である。小さな顔は今にも泣きそうで、目には悲しみと絶望が見え隠れしていた。
 周瑜はこれにはただ事ではないと驚いた。孫策が弟を自分に預けたのである。ここ数日気にする暇も無かったのだが、その間にいったい何がおこったのか?!
「仲謀、きみどうしたんだい?」
 周瑜はあわてて孫権の側に座り、優しく訊いた。
「なにも」
 孫権はぼーっとしていた目線を周瑜にぴたと止めて、何か言いたげだった。その後も周瑜がいろいろと尋ねたにも関わらず、孫権は歯を食いしばって絶対口を開かなかった。周瑜は何度も尋ねたけれど効果はなく、そのまま終わった。

よちよち漢語 三十四 需要愛先生「思為双飛燕」

十四章 □□ (伏せ字でわからず)

 書房の中は静まり返った。孫権は戸を開けようかどうか迷っているとちょうど、宝剣が鞘に戻される音がした。続けて孫策の低く囁く声がする。
「公瑾、おまえはやろうとして決断せず、臨んで決断しないのは兵家の大いに忌むところだぞ……や、やめ、やめろ……」
二言三言叫ぶと、孫策は又、言う。
「このように奇襲をするとは、逆に正を以て合し、奇正相い輔けるの理……おおぅ……」
「義兄も奇正相合すをご存知でしたか?わたしは義兄は奇法しか知らないのではないかと。いつも正しくないですし」
「なんのことだか、オレは奇、公瑾は正、まさにピッタリじゃないか、エッチすれば無限の快楽……」
孫策!きみはデタラメなことをいうなよ!」
「わかった。デタラメはなしだ。まじめなことだけ話そう」
 孫策は黙った。
 しばらくして周瑜は堪らず尋ねた。
「まじめなこととは?」
 孫策は大きいため息を一つついた。
「ホントのことを言うとな、オレはおまえが新婦を娶って義兄のことをわすれるのではないかと心配していたのだ」
 部屋の中はまた一陣の沈黙が降りた。孫権周瑜がまたこの話を聞いて怒るのでは、うちのお兄ちゃんを殴るのではないかと思った。
 図らずも、しばらくの沈黙の後に、周瑜は意外なことにとてもまじめな調子で語り始めた。
「伯符、大丈夫が世に出るのに、父母妻子、親友知人、それぞれ本分というものがあるのです。わたしたちはすでに義兄弟となりました。一生同心です。どうして妻を娶って変わることがありましょうか?」
「おのおの本分があるというのは、オレは好きじゃないな」
 孫策は落ち着いた様子で語った。
「もし本分があるのなら、オレは公瑾を弟としてみていいのか、それとも妻としてみていいのかわからない。そんな細かい決まりにどうしてこの孫伯符が縛られようか……」
 書房内から孫策のうめき声がしばし聞こえ、その後低い声で続けた。
「公瑾は外見は温雅で優しいのに、内ではこんなに暴力的で良くないぞ、オレは身体か丈夫だから我慢できるけどな。おおぅ、うっ」
 何の痛みにか我慢しているのかわからないが、孫策は言う。
「オレは弟か妻か同輩か大臣か知ったことではないが、今日来たのには公瑾に言っておきたいことがあるからだ」
「ふんっ!」
「その話はふんっではすまない。周公瑾は永遠に孫伯符を愛すということだ」
「恥知らず!」
「孫伯符は永遠に周公瑾を愛す」
「この……」
 周瑜は突然声が出なくなった。
「早く、オレは言ったぞ。おまえも早く言え」
 孫策は催促した。
 孫伯符は永遠に周公瑾を愛す。
 孫権は部屋の外で聞いていて笑い出しそうになってしまった。お兄ちゃんはいつも冗談が好きだと言っても、孫権はそんな可笑しい話を聞いたことが無いと思った。孫権は内心思った。
(五歳以降こういう神にかけて誓うだとか幼稚な遊びはしなかった。きみとぼくは永遠にいい友達だとか、永遠に奴を許さないだとかのたぐいだ。これらに何の意味がある?考えが変わってきれいさっぱり忘れられるのに)
 孫権は密かに思った。
(公瑾お兄ちゃんは言わない。公瑾お兄ちゃんはうちのお兄ちゃんみたいにそんな悪ふざけはしない)
「周公瑾は永遠に孫伯符を愛す」
 孫権は考えていたら、周瑜の言っているのが聞こえて、にわかに座り込んでしまった。
 周瑜が本当に言っちゃった!しかもはっきりと、語気も丁重そのものに!
 孫策は喜んで言った。
「すでに宣言したからな。一生忘れるなよ。無論今後何事があっても、オレの話はおまえは忘れるな。自分が言ったことも忘れるなよ」
「義兄はいつからオバチャンみたいにうるさくなったのですか」
「成功して偉業をなすものは大事を遺さず、小事に拘らず。公瑾を得て偉業の一つを成し遂げた。ちょっとオバチャンくさくなっても気にするものか」
「義兄、まともなことを言ってください」
「もうおまえがオレを殴りたいぶん殴ったり、オレに話したいことを話したりすでにした。そうだな、義兄とは呼ぶな。伯符と呼べ」
「申し訳ないのですが、伯符の手を放してください」
「もう永遠に愛しているのだから、どうして手を放す必要がある?」
「まっ昼間から、わたしの屋敷には百以上の人が部屋の外にいるのですよ。きみ!」
「ああ、そうか公瑾は聞かれるのが心配なのか。それなら叫ばないように我慢すればいいだろ」
「放せ!」
「離さない」
「放せ」
「離すもんか!」
「あぁ……」
 何かが倒れる音がした。そして、唇と歯の絡み合う濡れた音とだんだん重く荒くなる息づかいが聞こえた。
 孫権はやけどしたみたいに両眼を見開いた。あわてて頭を仰け反り、じっとまっすぐにきっちりと閉められている戸を見つめた。しばらく驚き果てていた。孫権は再び耳を戸にくっつけようかためらっていると、全身をぶるっと震えさせるような抑えた□□な声が聞こえた。その微かに震える声音は語尾まで魅惑的で、掠れていて甘ったるく、いつもとは全く異なっていた。ただし、孫権にはこれは公瑾お兄ちゃんの声だとわかった。
 お兄ちゃんは何かを低く囁いているようで、孫権には聞き取れなかった。頭の中でワーワーとなっているのは、彼らのきっと今していることのせいだった。二年前記憶がふつふつとよみがえり、孫権は踵を返して逃げた。
 自室に逃げ戻り、戸を閉め、閂をかけた。孫権は戸を背にペタンと座り込み、両手で膝を抱えた。孫権にはわからなかった。どうして彼らはいつもあーなんだ!あの恥ずかしいことに何の意味があるのか。ずっとおしゃべりしたほうがまだましだ!本当にまったく理解不能だった。さらに公瑾お兄ちゃんが最中楽しんでいるみたいなのも。
 突然、孫権は自分の部屋の隅に、目をやった。持っている袋の中には絹の巻物が入っていた。それは以前、学堂で一人の同窓生が贈ってくれたものだった。その同窓生は学堂で一人に一つと言って、孫権にも押しつけてきた。孫権はどんなにか珍しい手本なのかと思ったが、開けてみると字は乱雑で、文章も不明瞭なので投げ捨てようかと思った。その同窓生はこれはいいものだといい、捨ててはならない、そして孫権によく読んでその良さをよく味わえとも話した。孫権は細かく一通り読むと、様子がわかってきた。書いてあるのはどうしようもなく汚らわしいことのようである。
 もらった当時の孫権はちゃんと読んでいなくて、袖の中に突っ込んで、その後どういうわけか、ずっと持っていた。
 孫権は内心ドキリとした。昔、この絹本を開いて見なかった。そして、今よくよく読んでみると、つまりは何の珍しいことでもなく、公瑾お兄ちゃんもたびたびふけっている快楽だった。
 白い絹本を取り出し、ベットの上で広げ、孫権は這って我慢しながら読んだ。思いもよらず読まなかった方が良かったかも。ちょっと読んで孫権の小さな顔はたちまち赤くなったり、白くなったりした。しばしば孫権の眼は絹本の上を動き、見るに堪えなくなってもまた我慢して続けて見た。昔も良いものと感じなかったものだが、今日はあの時と同じではなかった。孫権は初めの間のちょっとした会話、自分でも非常に具体的に連想できたさっきの書房の外から聞いた声、それとかつて遭遇した画面、当然それらは孫権が想像もしたこともないことで、さらにもう一歩進んだ……。

 夕方、正庁の食事どきに、孫権は俯いて、碗をかっ込み、三口、五口で平らげてしまった。
 孫策孫権の忙しない様子や、食べ終わった後何も言わずに立ち上がって去ろうとしたのを見て、調子が悪いのかとすぐさま訊いた。孫権はウンともスンとも答えなかった。孫策は前に立ち塞がり捕まえたが、手を振り払われた。
「ん?がきんちょが!」
 孫権は突然思った。お兄ちゃんの孫策ともまったく居たくないし、周瑜とも話したくないし、彼らふたりとも見たくもなかった。ついに呻いた。
「兄ちゃん、暑いよ、引っ張るなよ」
 孫策は鼻で笑って孫権が自室に戻るのに任せた。
 孫権は部屋に戻った後、再び白い絹本を開いてみた。そして、その苛立つものを巻いて袋に戻した。小刀を取り出して、竹簡に刻んださっきの見たことの一文を刻んだ。それは孫権にすこぶる深い印象を与えた。
『寂しさに耐えかね、ついに淫らな行為をなす』
 刻んだあとに孫権はちょっと考えて、またその一文の先に二つ文字を加えた。
『公瑾』

よちよち漢語 三十三 需要愛先生「思為双飛燕」

 孫策孫権が手紙を出した四日後に現れた。
 早朝、周瑜は早馬の手紙を受け取った。手紙には孫策孫権の様子を見に来たい、とあった。
 正午、周瑜が出かけようとするとき、太陽の真下で馬から降り立った孫策に出会した。
 孫策周瑜を見るなり、たちまち大いに喜び、声を上げた。
「ハハッ、ちょうど逢ったな!公瑾!オレは仲謀の様子を見に来たぞ!」
 周瑜は屋敷から出て、階段を降りようとしたところに、よく知ったやかましい声を耳にした。顔を上げると、一人の青い着物に白い袍を羽織った影が飛び込んできた。周瑜孫策がまだ軍営中にいるもので、きっと何日か後に来ると思っていたので、一瞬目にして、ひどく驚き自分の家の階段でつまずいて転びそうになった。
 孫策は影のように、周瑜を見るや、急いで腕を伸ばして支えた。
 気づかうように言った。
「公瑾、脚がなぜこんなにもしっかりしていない?」
 周瑜は目を見開いてじっと見た。目の前にいるのは疑いもなく孫策で、にわかに驚いた。
「きみどうしてここに?」
「おう、最近軍営中もヒマでな」
 孫策は口先では不真面目に周瑜の話に答えていたが、孫策の目は周瑜の脚を見つめていた。にわかに疑いの目が下から上に移り、周瑜の顔を見つめ細かく確認し始めた。
 周瑜はなぜ見られているのかわからず、ゆっくりと体勢を整えてから思い出した。前回二人がどのようにしてケンカ別れしたのか、そこで顔色が暗くなった。腕も孫策の手から抜き出して、冷ややかに言った。
「義兄、仲謀なら中庭にいます……」
 言い終わる前に、背後から澄んだ子どもの声がかけられた。
「お兄ちゃん、ぼくはここにいるよ!」
 もともと孫権はお昼寝しようと思っていたが、中庭で周瑜がお出かけするのを見てついて出てきたのだった。周瑜は後ろにいることを知らず、急ぎ足で、孫権は子どもで脚も小さく、追いつかなかった。孫権が正門近くまでやって来たときに、ちょうど孫策周瑜を支えているのが見えた。
「仲謀!」
「お兄ちゃん」
 兄弟の再会は特別仲良く、周瑜は家僕に命じて二人を大広間に案内させた。周瑜は自身は用事があって出かける、終わったらすぐ帰る、と。
 大広間に入ると孫策は側に他人がいないことを確認して、孫権に向かってため息をついた。孫権は変に思って言った。
「お兄ちゃん、なんでぼくをみてため息をついたの?」
 孫策は首を振った。
「仲謀、オレはおまえに対してため息をついたんじゃない。公瑾にだ……」
「公瑾お兄ちゃんがどうかしたの?さっき逢ったんじゃないの?」
「今さっき門のところでな、公瑾は段を踏み外して、転びそうになったんだ」
「ぷっ……」
 孫権は思わず笑ってしまった。
「おかしくない!」
 孫策は少し心配そうに呟いた。
「おまえにはこのことの酷さがわからんだろう。公瑾は幼いときより武術を習い、武芸は普通レベル*だが、からだを強くし、健康を保つくらいには充分だった。それが何日か会わないうちに下半身がしっかりしていないとは。仲謀の言っていたことも嘘ではないな」
「ぼく……?」
 孫権は驚いた。
「お兄ちゃんは何を嘘ではないと言っているの?」
 孫策は落ち込んでなにも言わなかった。
 しばらくして、周瑜がやっと帰ってきた。大広間に入り、孫家の兄弟と挨拶した。孫策は相談したいことがあるから、書房で少々話したい、と。孫権孫策に中庭に追い出されて、心中大いにむかついた。
「ぼくの様子を見に来たと言いながら、十五分も会わないうちに公瑾お兄ちゃんと書房に行っちゃった……」
 孫権は落ち込んで戻ろうとした。顔を上げて大広間の内外を見ると、書房に通じる廊下までずっと人の気配もなく静まり返っている。
 もともと、この時はまさに夏の暑い盛りで、昼過ぎだった。周家の人はいわずもがな猫も犬も、ひんやりと冷たい場所を探して休んでいた。孫権は遠くにきっちりと閉められた書房の戸を眺めて、思わずドキリとし、ややもしてから抜き足差し足で進んで行った。
 頭を傾け、耳を書房の戸にくっつけた。孫権は大声どころか呼吸さえも抑えて、集中して中の様子を聴こうとした。
 孫策の声は時に高く時に低くなり、孫権はお兄ちゃんのつまらない型通りの挨拶や、公瑾が弟の面倒を見てくれてありがたいなどの類をいっているのが聞こえた。孫権は聞いてつまらなくなり、離れようとした。まさにそのとき図らずも孫策の舌鋒が鋭くなり一転した。突然。
「公瑾、おまえは新婚の身であるが、身体には注意しないとだめだぞ。過度の欲望はよくないぞ」
 そのあと、孫権は茶を噴く音が聞こえたような気がした。続いて周瑜の詰まって声にならない返事があった。
「き、きみ、きみなにをバカなことをいっているんだ!」
「おう、いわずもがなだろ」
 孫策はため息をついた。
「なにがいわずもがなだ!」
 周瑜は叫ぶ。
「オレはおまえの足元がしっかりしていないのと、顔が青白いのとを見た。これらは以前にはなかった。大体はしすぎない……」
 話の声も途中で、孫権は書房の中から何かが床に投げつけられる音がした。すぐに周瑜の抑えられない怒りと罵りが続いた。
孫策!前はわたしの結婚の時に、きみは相談があるといってやって来た。わたしは軍で緊急事態が起こったのかと思って、きみと出かけたら、なんときみはわたしの婚宴を故なく邪魔をしようとした。き、きみ!」
 孫策の声は明らかに虚ろだった。
「前回はオレはただ公瑾に会いにきて……」
「わたしはきみが破った服のままで屋敷に帰って、夜盗に遭ったというしかなかったんだぞ!」
「あの日はほんとはオレの気分が良くなかったんだ。一時焦って、公瑾許してくれ。言うなら、おまえもオレの顔をぶん殴ったろ。何日も腫れがひかなかった。十歳以後オレは至近距離で誰にも殴らせたことなどないんだぞ」
「それじゃあ、わたしは義兄に殺さなくてくれてありがとうとでも言わなければないとでも?」
「ちがうちがう。公瑾誤解だ」
 孫策はせわしなく言った。
「おまえの一噛みだってまったく酷かったぞ、今でもオレの口の端の傷はまだ癒えてないぞ。信じないなら見てみろ……」
孫策!」
 周瑜の声はだんだん昂って高くなっていった。
「きみの結婚の時を思い出してみろよ。わたしがいかに尽くしたか。きみは恩を仇で返すのか。嘘を最初について。今日来てから後に、また嘘をつく!」
 宝剣を鞘から抜くような音がした。加えて周瑜のあのひどく怒っているさまから、孫権周瑜の書房の壁に架かっている鋭い剣を思い出した。思わず寒気がして、書房の戸を押し開けようと手を伸ばした、まさに声高く叫ぼうとした。
(うちのお兄ちゃんを殺さないで!)
 思いがけなく孫策の次の一言が孫権に尻もちをつかせそうになった。
 孫策の声は孫権が聞いたことがないようなものだった、極めて珍しい。ちょっと強引でちょっとわがままな、どこかいつもの孫策らしくない語調で話していた。
「公瑾がついにオレに剣を抜いて向かうのか、あぁ、おまえはオレを斬り殺すといいさ」
 部屋の中はいっとき何の音もしなかった。
 孫権は驚いて書房の戸を見つめた。心の中で思った。
(お兄ちゃんはいつも公瑾お兄ちゃんととっても仲良しなのに、今日はどうしてこんな状況になってしまったの。ぼくはこの事態を混乱させないようにしなければならない。二人の行き違いを解消するには、中に入っていって止めた方がいいのかな?)


*公瑾の武術レベルは普通。孫策の主観です。のちのち全然フツウじゃないことが判明します(笑)

よちよち漢語 三十二 需要愛先生「思為双飛燕」

十三章 兄弟

 孫権は周家の屋敷で最初にしたことは、荷物を整理整頓することではなく、周瑜のお母さんにご挨拶することでもなくて、屋敷の内から外から一周して回ることだった。
 ここは公瑾お兄ちゃんの書房、あっちは武道の修練場、奥は中庭、公瑾お兄ちゃんの臥房はこっち、孫権は見るからに嬉しくてたまらない様子だった。周瑜孫権がこんなに興奮しているのは、小さな子どもがうちの屋敷の造りに面白みを感じたのだとしても、ちょっと不思議だった。
 しかし、孫権のしたいようにひとまわり見物させておいた。
 一方、孫権が見たところでは、周瑜が成長し、暮らしているところを一遍見まわるのは、非常に心躍る出来事であった。以前舒城に住んでいたときには、そのような機会はなかった。
 中庭に戻ってきたとき、孫権周瑜の結婚したばかりの夫人にであった。周瑜の側に立つその女性は痩せてちんまりとしており、見るからにちょっとひ弱そうだった。孫権は孫氏一族の一連の姉妹達が日頃豪快で武芸を好む気風の持ち主達であることから、周夫人をちらと見ただけで相応しくないと感じた。彼女の話しかたは小さな声でか細く、行動はゆるゆるとしていた。
 自分の部屋に戻ってから、孫権は竹簡を取り出し、次々と刻んだ。周夫人は体が弱い、おそらく多病、天命も長くはないだろう。などと書いておいて孫権ははっと意識した。自分でどうしてこんな話を書いておいて、自分の義理の嫂の天命も長くはないとは、大変礼を欠いている!
 小刀を持ってこの部分を削りとろうとして、また手を止めた。心の内にこっそりと何とも言いがたい気持ちがあふれた。孫権は心の内で思った。どうせこの竹簡は自分の身の回りの品である。周瑜は孫家の人である。すでに孫家のひとであるなら、身内である。あの周夫人はただの遠方のお客さんである。いささか周瑜と孫家の間が多少疎遠になったみたいだった。これは孫権に心中ひそかに憤らせた。さらには、あの周夫人は街にドライフルーツを買いに行きたいと言って、周瑜と一緒に連れ立って行った。
 孫家の女性陣でそんな些細なことで夫を連れて行くことはありえない。言わずと知れた孫堅は長年戦続きで不在で、呉夫人は一人で孫権達兄弟を苦労して育ててきた。そして、孫策の妻は孫策と外におでかけしたことがあるのだろうか?
 このことは孫権に不満を抱かせた。それから突如として思い立ち、お兄ちゃんは孫権が周家に到着したら、平安無事を手紙で知らせるようにいいつけていたのだった。
 ちび孫権は筆と墨を取り出し、手紙にすべて平安と書き、ちょっと考えて、屋敷でぼくが見た周夫人のことを書いた。我ら孫家の女性陣とはすこぶる違い、ぼくが密かに思うにこの人は甚だ婦徳が無い、と。
 書き終わると、孫権は少々気がとがめて左右を窺った、書簡を巻いてしっかり括ると、心もやや落ち着いた。
 孫策の返事はとても早く返ってきた。まず真っ向からぐっさりと孫権を二、三罵り、孫権は周家の客なのだから、決してそこの奥さんに失敬なことはしてはならない。もしこれらの行為をオレの前でやらかしたら一発ぶっとばすからな。罵り終わると、孫策はまた二言三言言いつけた。孫権に外に出かける際は何事も注意深く自分で考えて行うこと、呉夫人が心配している、とか云々。終わりに、孫策は付け足していた。甚だ婦徳が無いとはどういうことなんだ?
 お兄ちゃんのこの書簡を受け取るやいなや、孫権は筆をふるってさっと書いた。自分が周家で見た周夫人がいかに自分の夫に纏わり付いているのか、いかに一時といえども夫に離れない様子なのかをすべて書いた。書き終わって孫権は足りないように思えた。また、周家は来客が多く頻繁で、色々いて、周瑜の同窓で学んだものは、周瑜ととても仲が良すぎる。その中のもっとも仲良しが蒋幹といい、常に公瑾と手をつないだり、はては榻を同じくしている。孫権はまた考えてから、重ねて強調することにした。昔のお兄ちゃんといえどもこんなに公瑾と情愛が過ぎることはなかった、と。

捜神記のお魚ちゃんと同人誌の宣伝。

捜神記から、雑な訳でご紹介。
「南州の人が使いで(交州?)犀の角の簪を孫権に献上しにやってきた。船は宮亭の廟(周瑜と程普が調練した場所だ!)で安全祈願をした。神は命じて『おまえさんの犀の角の簪をくれないか』役人は恐れてできなかった。突如として犀の角の簪が前に現れた。神はまた言われた『石頭城についたら返すから』役人はやむを得ず、ついに捧げた。自分が簪を失い、死罪になると思った。石頭城に着くと、たちまち大きな鯉が現れた。長さは三尺ほどもある(72㎝くらい?)。躍り上がって舟に乗ってきた。これを捌くと、中から簪が出て来た」

不思議な話ですね。神様も律儀。
この鯉というのが、魚(ユ)から瑜を連想させるのです。

このネタと『古今刀剣録』の韓信の剣の話を絡めた同人小説がありまして、掌編なのですが、とても小ネタを煮詰めたいいお話となっております。

晋江文学城 大胖桃子先生「還剣」
http://www.jjwxc.net/onebook.php?novelid=1908824
瑜権…というところが…いや、別に魚だからいいのですけれど。

ついでに宣伝。
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わたしの書いた孫権×周瑜孫策×周瑜三国志・BL小説『流離 弐』が出ました。
これで完結です。
この表紙のお魚は金魚(リュウキン)ちゃんですが、この捜神記のお魚ネタを思い出してデザインに入れてもらいました。
一冊目同様、しまや出版さまのデザインです。繊細なレインボー箔の水草がきらきらして美しいです。
えっちなBLのみならず、中国後宮ドラマのエッセンス、呉の歴史をわたしなりに解釈して濃厚にブレンドしております。
どうぞよろしくお願いします。
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