策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

RINGDOLLさんの周瑜人形が届きました。

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昨年の十月か十一月に注文して三月末に届きました。(注文から届くまで結構かかるので有名らしい。人形本体が遅くて、服や小物などパーツ類だけの注文は早く届きます)

すごく雰囲気のあるお顔だちです。
わたしの小さなおサイフを空っぽにして買ってしまったのですが、悔いはないですね。

そもそも、進撃の巨人の時にものすごく美しいリヴァイ兵長を出していたメーカーさんだと記憶していました。ドールに興味のないわたしでもひきこまれるような美しさと陰鬱なお顔のお人形でした。
それが、今回、誅魔令というRINGDOLLさんオリジナルストーリーに基づいて、三国志のお人形を出して、孔明せんせいの次に周瑜が出たんですね。あと荀彧が発売されました、ストーリーの冊子を読むと陸遜もでそうです。(呂蒙さんは?)

二パターンでているのですが、軍服バージョンは、「かわいいな」としか思わなかったのですが、わたしが今回買った赤の長袍の上に透ける白の羽織のバージョンは、思わず「欲しい!これだ!」と一目惚れでした。
ポイントは巫覡のイメージ、巫女さんぽくて中性的なのです。
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『秘本三国志』『江南行』に影響を受けているわたしにとっては、周瑜はシャーマン的な存在でもあったのではないかと考えているのです。
赤壁の時の謎の説得力。
正邪をききわける耳。
美しい容姿。
神が降ってくるのではないかな、と。
呉ってバリバリ捜神記の国ですからね。
そんなわけで、シャーマンぽい周瑜人形さんに一目惚れでした。

でもね、はじめてボールジョイントドールに手を出すのに70㎝オーバークラスを買うのは無謀でした。重い!手軽に服が無い!
周瑜くん、他の三国志人形はみなでかい!
胸板厚い←服が入らない原因
太ももしっかり、肩幅がっちり。
男らしいのであります。
支えるのに真剣です。

日本のメーカーさんが三国志人形出すならもっと小さめで…

ぶつぶつ言いながらもお人形遊びを楽しんでいます。
三国志にはまるきっかけとなった川本喜八郎先生の「人形には人形の世界がある」を大事に遊びたいと思います。

よちよち漢語 三十一 需要愛先生「思為双飛燕」

 そこにきて、孫策をもっとも憂鬱に悩ませたのは、焦る毎日で手紙が届き、周瑜が舒城で結婚するという話だった。孫策は家人に命じて結婚のお祝いを用意して舒城に送らせた。
 そして、ついに孫権はお兄ちゃんの幕舎に誰もいないことを発見してびっくりした。孫策の傍に仕える兵士に尋ねてみても、兵士は口ごもりながら言った。
「孫校尉は着換えて、軍営地からおでかけになりました」
 孫策は三日経ってやっと軍営地に帰ってきた。戻ってきたとき口の端に傷があり、右眼も鬱血ができていた。
 孫権は目が飛び出るほど驚いた。
(お兄ちゃんは常日頃自分の顔を惜しんでいるのに、どこの見知らぬものが孫策の顔に挨拶をくれたのか)
 孫権は思った。
(そいつはたぶんもう首と体が別々になっているのだろうか?)
「お兄ちゃん。山賊にでも遭ったの?」
 孫権は明らかなことを訊いてみた。
「お、おう。オレはおまえの公瑾お兄ちゃんのお祝いを送りに行っただけだ。帰り道で山賊に遭ってな。おまえの言うとおりだ」
 孫策孫権に指を突きつけた。
「なんでまだ勉強しに行かないんだ。軍営地で何をしているのか」
「え、ぼくはそれじゃあ行くよ」
 孫権はぷんぷんしながら出て行った。孫策はいつもなら孫権の勉強など気にもかけないのに、今日はどうしてか思い出した。
 次の日の早朝、孫権孫策が一人の側仕えの兵士に手紙を持たせて行かせるのを見た。
「お兄ちゃん。お母さんに手紙を書いたの?」
「ちがう。公瑾あての手紙だ」
「お兄ちゃんは公瑾お兄ちゃんのところから帰ってきたばかりじゃないの。またお手紙を書くの?」
「シッシッ、あっちいけ。勉強しろ」
 三日後、あの兵士は帰ってきた。そのものが云うには、返事は無いと。孫策はまた手紙を書いた。
 さらに三日後、兵士は戻ってきた。相変わらず返事は無かった。
 舒城からの返事は無かったが、一方、曲阿の呉夫人から手紙が来た。手紙では、何度も孫権の軍中でのことを心配し、折を見て学堂に通わせたほうが、衣食や暮らしも適当な世話が受けられるのではないか?と。また孫策に言いつけて、自分の軍務にかまってばかりではなく、孫権はだんだん成長しているのだから、少しでもよい先生について学べるようにしなさい、と。聞けば、袁氏一族の学堂は悪くないそうだから、孫権の入学を申込みしてやりなさい、云々。
「袁氏の子弟にお坊ちゃま方は多い。鷹狩りや犬レースで遊びほうけている集まりだ。行かないほうがいい」
 孫策は納得いかない様子で母からの手紙を押しやった。
「見聞を増し、学識を増す。これらはオレと過ごすこととは同じではないが……」
 孫策の話し声は突然止まった。なにかを思いついたようで、視線がじろりと孫権を捕らえた。
「お兄ちゃん、なんでぼくを見ているの?」
 孫権は自分の小っちゃい顔を擦った。なにも汚れはついていなかった。
 孫策は上半身をやや屈めて、顔にきらきらとした微笑みを浮かべた。
「仲謀、オレは覚えているぞ。ちょっと前に、おまえがオレに言ったよな。おまえはとっても公瑾が好きだって」
「えっ?」
 孫権は俯いてもじもじして言った。
「ぼく言ったっけ?」
「オレが思うに、袁氏の学堂に行くよりも、おまえを公瑾のところでしばし遊学させるほうがいいと思う。おまえの考えはどうだ?」
「そ、それは」
 孫権はもじもじして言った。
「ぼくもそれほど嬉しいわけじゃないけど、どこでも一緒だし、でも、どうせ……お兄ちゃんは……」
「それじゃあ決まりだな!」
 孫策孫権が話し終わるのを待たずに、太ももをパァンと叩いて決めた。
 呉夫人に手紙を書いて、孫権を舒城の周瑜の先生に付かせると書き、呉夫人も了承した。
 五日後、孫権は十数名の随従する護衛と舒城に着いた。周家の屋敷に名乗りでると、青い袍に身を包んだ周瑜が中から出て来て、馬車の前に立つ小さな影を見て満面に驚きを浮かべた。
「仲謀、きみどうして来たんだい?」
 孫権は顔を上げて訊いた。
「お兄ちゃんは手紙でぼくが来ることを知らせてないの?」
 周瑜は首を振った。
「ないよ」
「え、それでももう来ちゃったよ」
 孫権は馬車の方へうろうろとした。
 周瑜はため息をついた。家僕に客房の準備を言いつけ、走り寄って孫権の小さな手を握った。
「太陽の真下に立っていないで、真夏で乾燥して暑いよ。中に入って話そう」
 孫権はぴったりと周瑜にくっついて中へ入った?。歩きながらぶつぶつ呟いた。
「ちがうんだ。自分で来たいと言ったわけじゃないんだ。ぼくもお兄ちゃんに公瑾お兄ちゃんが好きだとかなんとか言ってないんだ、完全にお兄ちゃんの考えなんだ」
「わかった。」
 周瑜は俯いた。
「じゃあ、仲謀は何のために来たんだい?」
「ぼくは遊学に来たんだ」
 孫権はちっちゃな手を周瑜の手のひらにのせて言った。
「お母さんが、公瑾お兄ちゃんは義兄だから、ぼくを少なくとも半年、一年遊学させるって。お母さんが言ってた」
 周瑜はちょっと微笑んで、少し考えた後に言った。
「謹んで義母の教えに従います」

よちよち漢語 三十 需要愛先生「思為双飛燕」

十二章 附袁 袁術に付く

 周瑜の付き添いがあり、孫権はまるで気楽で簡単に二張を訪問する任務を成し遂げたと話した。数日旅程を遅らせた周瑜が帰った後、孫策は自ら二張を訪ねてあいさつした。
 しかし、曲阿に戻った後、孫策は明らかに悶々と憂鬱そうであった。
「お兄ちゃん」
 孫権孫策が庭で眉をしかめているのを見て、内心わけがわからなかった。
「今回のおでかけはうまくいかなかったの?」
「いいや。とても順調だ」
 孫策は振り返って、孫権の頭を撫で撫でした。
 孫策は普段は簡単に落ち込んでいるような人ではない。孫権はなにかしら不吉なことが起ころうとしているのだと感じた。
「じ、じゃあどうしてうれしくないの?」
 孫権がいうのを聞いて、孫策は笑った。
「仲謀、オレはうれしくないわけではない」
 ぐいと孫権をつかんで、膝の上に抱き上げた。
「オレはただ他の人の意見について考えているんだ」
「他の人……?」
 孫権はちょっと考えてみた。
「お兄ちゃんが言うのは張昭殿、それとも張紘殿?」
 孫策は答えず、からかうように訊いた。
「あの二人に面会しただろう。おまえは子布または子綱どちらが好きだ?」
「す、好きっていうなら」
 ちび孫権は顔をちょっと赤くして言った。
「ぼく、ぼくはやっぱり公瑾が好き」
 孫策は聞いて喜んだ。
「公瑾は身内だ。オレはその二人と身内を比べてくれとは言ってないぞ」
「あ……」
 孫権は突然に自分の失言に気づいて、小っちゃな顔を更に赤くした。
「子布殿はぼくにやや優しくしてくれたかな。でも、この二人では、ぼくはどっちが好きかはないよ。お兄ちゃん。彼らのどちらか、ぼくたち孫家を助けてくれるほうをぼくは好きになるよ」
「よくいった!」
 孫策は軽くぽんと孫権の肩を叩いた。それから、ため息をついた。
「仲謀はよく道理をわかっている。どうやらこの兄も己の意見に固執すべきではないようだ、数日後、オレ達は寿春にいくぞ」
「寿春にいくの?ぼくたちはまた引っ越ししなきゃならないの?」
「オレ達は袁術を頼る」
「えっ?!」
 孫権はさっと立ち、急いで言った。
「お兄ちゃん、言わなかったっけ、袁術は野心は大きいけれど才能はないって。むかし、お父さんの兵糧と資金のピンハネもしたし、ぼくたちは永遠に相手にするべきではないんじゃないの?」
「大事をなすものはささいなことにこだわらないのだ。ましてやささいなことではすまないがな」
 孫策も立ち上がった。
「オレは父上の部下たちを取り戻しにいくんだ!」
「返してくれると思う?」
 孫権孫策の袖を引っ張って尋ねた。
 現実で証明された。孫堅の遺した人馬を返してもらうのは容易ではなかった。孫策が家族と百余りの私兵を連れて寿春に向かった後、袁術孫堅の長子としては待遇しなかった。明らかにいささか無理を承知で、昔のよしみで孫策と彼の百余りの兵をなんとか受け入れてやってやる様子だった。この後、兵士達を編制する際には、さらに百余りの兵から老人、虚弱者、病人、身障者を選んで孫策に与えた。あってもなくてもいい人間扱いだった。
 ちょうどその頃、袁術の妻の弟が粮草を護送中に荊州軍に奪われた。袁術は大いに驚いた。孫策は助勢にいくこと志願した。袁術は許さなかった。言うことにはたかだか数百人の荊州軍に孫公子の手を煩わす必要も無い、と。麾下の副将を派遣したが、またやられて敗走した。孫策は私兵を率い、好意でしているふりをして、袁術はすでに軍営にむかう許可をしていると、隊長を騙すと、駐屯地を出発して現場へ疾駆した。
 星降る夜、山道を通って帰るばかりのつもりだった荊州軍は夜陰に、突然、山あいの窪地にブチ切れている少年校尉が襲ってきたのを見つけた。その後ろには十数騎の軽騎兵と百余りの歩兵がいた。同一色の兵の装備は明らかにレベルがショボかった。まるで山賊みたいだった。とうとうあるものがこの一行の人馬を指差して大笑いした。
「どこからきた盗賊だ?オレ達を阻むとでも?」
 しかし、そのものは知らなかった。祖郎に一敗した後、一年ずっと、丹陽郡でも袁術大本営でも、孫策は昼夜人馬を訓練し、戦法を研鑽し、わずかな時間も怠らなかった。さらにここ数日来寿春でストレスを溜めるばかりで、心のなかは発散できない怒りでいっぱいだった。
 宝刀を鞘から抜き、山林を血で染める、孫策はついにはじめて思うさま 敵を屠る機会にありつけた。殺し合いは一時間足らずで、最後の敵の鮮血の血飛沫が孫策の白袍に飛んだ。孫策は目をきらきらさせて刀を収め、手を挙げた。
「戻るぞ!」
 この一戦のあと、袁術はやっと信じた。孫策は無駄飯喰らいではなく、戦いに来たのだと。
 しかし、この少年に対しては気がかりがあった。袁術の謀臣は袁術に言った。
「以前の孫堅の遺した部下が一千あまり、まだおります。各部隊に所属はしているものの、孫堅に長く従ってきたこれらの者達は、多くは勇猛果敢で統制がとれません。そのうえ、各部隊の隊の頭痛のタネとなっております。彼らをことごとく孫策に与え、孫策が彼らを扱えるか見てみましょう。もしダメなら、厳正に軍を統制できていない罪で追い出しても、遅くはありません」
「それは……」
 袁術はちょっと迷った。もともと袁術は愚かであったけれども、完全にはバカではなく、孫堅のあの一千あまりの旧部下は人数は少ないといえども、歴戦の古強者どもで、はじめ編制した後、各部隊の戦力を充実させるのに補充した。つねに袁術に従っていた孫策の従兄弟の孫賁、おじの呉景らには、袁術は古強者どもを分け与えなかった。孫氏が強大になるのを恐れたからである。
 そこで、孫策孫堅の長子で、都合が悪いのではないかと恐れた。
「そうだな、あとで改めて相談だ。あとでな」
 この数ヶ月後、袁術は朝廷に上表して孫策を懐義校尉に任命した。しょっちゅう多少の人馬を与えて孫策を駆り立てた。袁術軍が各地で攻城戦をするのを助けた。
 しかし、孫策は始終彼が欲しがっているあの一千あまりの孫堅の部下たちは与えられなかった。もちろん当時の父の麾下の部将たちもである。
 孫権はこの時、自ら率先して孫策の軍に随っていた。学堂にもいかなかった。現在の孫権には、学堂は母の呉夫人を安心させるためだけのものに過ぎない。一日中忙しくあくせくしている孫策を見ていて、ちび孫権は敏感に意識した。自分の未来を決めるのはお兄ちゃんの傍の人や物事で、役に立たない本や無用の学識ではないと。
 孫策に随ったこのころは決して恵まれなかった。孫策の機嫌も良くなかった。彼は表立って言わなかったが、孫権にはわかった。出発前に言っていた父の元部下は、一人の影も見えず、彼らは袁術の部隊の中でも重んじられていなかった。されども、孫策の戦勝の知らせが届くたび、袁術は孫家の兄弟にさらに礼遇して重んじるようであったが、それらは空々しいものだった。さらに恨めしいことには、経験が増すごとに、お兄ちゃんの孫策もだんだん成長してきて、勝ち戦も増えていったが、逆に袁術孫策達に対する監督はますます締めつけてきた。死んでも放さない具合だった。兵権も与えず、人もつかんで放さない。孫権は竹簡にどれほど「老いぼれめ」と書いて鬱憤を晴らしたかわからない。

よちよち漢語 二十九 需要愛先生「思為双飛燕」

 張昭の屋敷は宿駅から遠くもなく、名乗って名刺を差し出すと、孫権は自分がここに来た目的、課せられた責任を思い出し、脳内でお兄ちゃんの孫策に細かく言いつけられたことを一通り回想した。
 張昭は十歳の子どもが自分を訪ねてきたと聞いて、とても怪しんだ。
 また、名刺上に故破虜将軍孫堅の子孫権、孫仲謀とあり、さらにわけがわからなくなった。張昭と孫堅は面識がなかった。面会するほどでもないかと思ったが、考えを変えてみた。十歳の子どもが訪ねてきて面会を求めることなんて、平素ないことだ、そこで、会ってみることにした。
 着ているものは小さな孔雀のように見映えするもので、儀容は端正で一糸の乱れもなく、もみあげもすっきりとした小さな孫権が、張昭の屋敷の庁堂前に現れたとき、張昭は思わずこっそりと頷いていた。少なくともこの子どもは正装して訪ねてきて、とても礼に則っている。
 乱世は早熟する人も多い、以前も張昭は地方のちょっとした神童を見たことがないわけではなかった。幼い子が立て板に水を流すかのように話し、小さな大人のようであった。ただし、この孫権はそこらの子どもと同じではない。
 孫権はそこに座り正々堂々と話し、自分の家の兄の素晴らしさを吹聴した。これは珍しくもない。張昭をして珍しいと思わせたのは、ちび孫権の口の端に意味深な笑いが浮かび、口角がやや持ち上がり、視線は幻に迷ったが如く、一種年齢に似合わないおかしな感じがあった。その笑みは嘲りのようであり、考えにふけっているようであり、回想しているようであり、からかっているようであり、表情は極めて変だった。
 張昭は心中密かに叫んだ。
(奇人だ!)
 彼の深く考えている表情は何の意味を含んでいるのか?こんなに幼いのに警戒心はすこぶる深く、明らかに後日きっと凡人とは異なる人物となるだろう。
 一方張昭が孫権を見て震え上がっていたのに対し、孫権はお兄ちゃんの孫策にいいつけられたことを残らず話そうとしていた。そのとき脳内では自分でも制御不能で、昨晩周瑜孫権の目の前で衣を寛げ帯を解いている情景が浮かんでいた。早朝の優しく孫権の服を撫でてくれた手、それらがずっと思い浮かび、孫権は自分の表情としゃべっている内容とすでにもう甚だしく一致しないことがわからなかった。話しているのは、好漢、広大な天下、輝かしい未来、しかし、表情はかえって秘密めいてはかりがたく、様々に変化し、しばらくもすると、孫権は口の端を擦った。
心中密かにドキリとした。
(ぼくはけっして張昭殿の面前で体面を失うわけにいかない。もし、よだれが流れてきたら、お兄ちゃんの面子をぼくが丸つぶれにしちゃうよ!)

よちよち漢語 二十九 需要愛先生「思為双飛燕」

 張昭の屋敷は宿駅から遠くもなく、名乗って名刺を差し出すと、孫権は自分がここに来た目的、課せられた責任を思い出し、脳内でお兄ちゃんの孫策に細かく言いつけられたことを一通り回想した。
 張昭は十歳の子どもが自分を訪ねてきたと聞いて、とても怪しんだ。
 また、名刺上に故破虜将軍孫堅の子孫権、孫仲謀とあり、さらにわけがわからなくなった。張昭と孫堅は面識がなかった。面会するほどでもないかと思ったが、考えを変えてみた。十歳の子どもが訪ねてきて面会を求めることなんて、平素ないことだ、そこで、会ってみることにした。
 着ているものは小さな孔雀のように見映えするもので、儀容は端正で一糸の乱れもなく、もみあげもすっきりとした小さな孫権が、張昭の屋敷の庁堂前に現れたとき、張昭は思わずこっそりと頷いていた。少なくともこの子どもは正装して訪ねてきて、とても礼に則っている。
 乱世は早熟する人も多い、以前も張昭は地方のちょっとした神童を見たことがないわけではなかった。幼い子が立て板に水を流すかのように話し、小さな大人のようであった。ただし、この孫権はそこらの子どもと同じではない。
 孫権はそこに座り正々堂々と話し、自分の家の兄の素晴らしさを吹聴した。これは珍しくもない。張昭をして珍しいと思わせたのは、ちび孫権の口の端に意味深な笑いが浮かび、口角がやや持ち上がり、視線は幻に迷ったが如く、一種年齢に似合わないおかしな感じがあった。その笑みは嘲りのようであり、考えにふけっているようであり、回想しているようであり、からかっているようであり、表情は極めて変だった。
 張昭は心中密かに叫んだ。
(奇人だ!)
 彼の深く考えている表情は何の意味を含んでいるのか?こんなに幼いのに警戒心はすこぶる深く、明らかに後日きっと凡人とは異なる人物となるだろう。
 一方張昭が孫権を見て震え上がっていたのに対し、孫権はお兄ちゃんの孫策にいいつけられたことを残らず話そうとしていた。そのとき脳内では自分でも制御不能で、昨晩周瑜孫権の目の前で衣を寛げ帯を解いている情景が浮かんでいた。早朝の優しく孫権の服を撫でてくれた手、それらがずっと思い浮かび、孫権は自分の表情としゃべっている内容とすでにもう甚だしく一致しないことがわからなかった。話しているのは、好漢、広大な天下、輝かしい未来、しかし、表情はかえって秘密めいてはかりがたく、様々に変化し、しばらくもすると、孫権は口の端を擦った。
心中密かにドキリとした。
(ぼくはけっして張昭殿の面前で体面を失うわけにいかない。もし、よだれが流れてきたら、お兄ちゃんの面子をぼくが丸つぶれにしちゃうよ!)

よちよち漢語 二十八 需要愛先生「思為双飛燕」

 彭城から曲阿までの距離はそれほど遠くなかった。ただし、道行きには威儀が必要だった。馬車の中に座っていくのは、早馬に笞をくれるよりは速くなかった。孫権は馬車のカーテンをめくって、頭を出した。傍で馬に騎乗している周瑜に言った。
「公瑾お兄ちゃんも馬車に乗りなよ」
 午後になり、一行は道端で休憩をとった。周瑜は傍に作りたての蒸し菓子を売っているのを見つけて、孫権に一個買ってあげた。孫権は小っちゃい手でちぎって、蒸し菓子を半分にすると、周瑜に半分に差し出した。
「公瑾お兄ちゃん、ぼくたちはんぶんこしよう」
 旅の途中、孫権はとても快活だった。周瑜は十歳の幼い孫権が周りに身内もいなくて、こんなに活発で人を喜ばせたりするので、とても安心していた。
 夜に彭城につくと、周瑜は宿駅を探した。翌日早朝に孫権を張昭の屋敷にあいさつに行かせるつもりだった。
「ぼくと公瑾お兄ちゃんが同じ部屋、その他の人に部屋一つね」
 孫権は宿屋の主人の前で飛び跳ねるようにして大声で呼ばわった。
 その実、孫権の考えはとっても単純で、公瑾お兄ちゃんと夜に灯りの下でちょっとおしゃべりして、一緒に寝るつもりだった。この時の孫権はもはや先の大いなる屈辱のことはきれいさっぱり忘れていた。公瑾お兄ちゃんは依然として孫権に優しい隣のお兄ちゃんだった。周瑜のつまらぬアイディアはもうどうでもよく、孫権には、家を離れ、お母さんから離れ、この一路管理するものもおらず、自由自在な旅が孫権を異常に興奮させていた。
 しかし、予想外のことに二時間後、孫権はまるで逃げるようにして自分の部屋から飛びだしてきた。
 ことの原因というのは~。孫権はベッドの上でのんびりと座り、壁に寄りかかって読書していた。部屋の扉がそっと押し開かれ、外側から周瑜の声がした。
「持ってきてください」
 しかる後、孫権は駅站の雑用係が二人して大きな木桶にお湯を運んで、ハァハァ言いながら部屋に入り、湯桶を置いてでていくのを見た。
 周瑜は部屋の戸をしっかり閉じて、くるりと衣桁の前に歩き、着ている物を脱ぎ始めた。
 孫権は目を丸くし口をぽかんと開けて、周瑜がするすると袍を脱ぎ、冠を外して、黒髪が解けて滝のように流れるのを見ていた。周瑜は袍をパッと打ち払い、衣桁にかけた。また、ついでに下駄も脱いでしまい、裸足でそこに立った。頭を下げて、中衣の帯を解き、中衣が半分脱げかけたところで、周瑜はドスンと音がして、驚いて振り返った。すると孫権が知らないうちにベッドから転げ落ちて額を床に打ちつけていた。
「仲謀!」
 周瑜は焦って孫権の傍により、手を差し出して助け起こした。孫権はこのとき床にちょつと隙間があればよかったのにと思った。隙間があったらもぐりこめたのに。
 ずっと前の記憶が脳内に鮮やかに浮かんだ。その時の周瑜はさらに繊細な少年の身体で黒々とした髪、薄紅い頬、艶々として涙がこぼれてきそうな眼、孫策の頬を撫でていた細くて長い指、それらが孫権を落ち着かなくさせた。焦ってドキドキする場面…… 。
 細長い指が伸びてきて、孫権の腕に触れた。孫権はやけどしたみたいに後ろに縮み上がった。そっと顔を上げると、周瑜の中衣の襟が大きく開いていて、胸のきめ細やかな白い皮膚が見えていた。周瑜は自分のことには意外に不注意で、きらきらとした眼で孫権をみつめていた。
 孫権は床を見ながら言った。
「な、なにするつもり?」
「うん?」
 周瑜はちょっと驚き、そして、笑った。穏やかに言う。
「一日中走ってきたから、仲謀、きみも疲れたろう。一緒に湯浴みしたほうがいいよ。わたしは家からちょっと珍しい石けんを持ってきたから……」
 周瑜の話がまだ終わらないうちに、孫権は即座に言った。
「自分だけ入れば!」
 起き上がって寝室の戸まで走り、閂をあけ、出る、くるりとバンと戸をしっかり閉めた。一気呵成だった。孫権は小さな手で自分の胸もとを撫で、心臓が速く脈打つのを感じた。周瑜がどうしてこんなに気ままなのか。湯浴みの時の遠慮というものをあろうことか知らないのか!孫権はそう考えながら、一方では自分の挙動にちょっと悩んだ。
 仲謀は他人と同室でいることに慣れていない、孫権が部屋から逃げ出して行った後、周瑜はそう結論を出した。
 それから、最後、孫権はその晩周瑜が沐浴した後、人に盆にお湯を持ってきてもらって足をゴシゴシ洗った。そして、服を脱がずに眠りについた。
 次の日の早朝、周瑜孫権の子ども用の錦袍をだしてきた。自ら孫権に着せかけ、また、細々と風采を整えた。孫権は窮屈さを感じたにもかかわらず、周瑜の温かい手のひらが身体の上をゆっくりと撫でていくのにはとても満たされた気がした。
 襟から、袖口からすそ、周瑜は……手で一通り撫でつけた。孫権はかすかに小さな顔を赤くして、微動だにせず座っていた。宿駅の門から馬車に乗り、周瑜に手を振って「いってきます」と告げた時、孫権はなおもちょっとぼうっとしていた。

よちよち漢語 二十七 需要愛先生「思為双飛燕」

十一章 求賢 賢才を求む

 孫伯符と周公瑾は同じ穴の貉だ!
 あの夜、孫権は悲しみと憤りを抱えながら、そう記した。どうして早くにわからなかったのか?彼は周瑜のあの立ち居振る舞いが穏やかで優雅な外面に騙されちゃっていたのだ。周瑜は彼の代わりにお兄ちゃんに忠告してくれると言い張っていたのに、その時になると、孫権周瑜はお兄ちゃんより大言壮語して恥とも思っていないと感じた。
 もっとも怒ったのはこれ!孫権がお兄ちゃんの代理として、あの二人の張という名士にあいさつに行くことになったこと!なにが仲謀が小さくて早熟でとっても可愛いだ。二張は必ずや断れないだ。なにが古の甘羅(*甘寧の先祖)が十二歳で使者になっただ。今仲謀は十歳で使者となる。
 使者がなんだ、お兄ちゃんは経済的にも窮して、文化的にも……で、もう使者に行くしかないよ!
 さらにもっと頭にきたのは、話が終わるなり、周瑜はお兄ちゃんに筆と硯を用意させて、さらさらさらとお兄ちゃんの孫策はいかに英明で武勇に優れているか、素晴らしい人材をいかに欲しているのか、まるで大智は大愚のごとくと思えそうな一篇の文章を書いた。書き終わると、二人は近寄って読んで出来を褒めた。一方は自分がどんなにうまく書いたかといい、もう一方はオレはなんてこんなにカッコイイのだといった。
それから、この文を孫権に渡し、よく読んで暗唱しろと!
 お兄ちゃんはさらにうちの侍女を呼んで、孫権の髪を改めて梳き、成年の髷に結い上げさせた。また、自分のつけている白玉の冠を載せてやった。その冠は大きく傾き、載せると頭の上がひどく変な感じだった。
 周瑜も知らないうちに従者のもとの荷物から一匹の手の込んだ錦織の生地を引っぱり出してきた。言うことには、お兄ちゃんに孫権の新しい袍を作らせると。

 三日後、頭には白玉の冠をいただき、体は錦織の袍を纏い、足は下駄をはいた孫権は自分の家の大堂でぷりぷりと怒っていた。孫策は何人かの家僕と軍のなかの随従に命じて、孫権を彭城につれていくようにと言いつけた。出発前、呉夫人がまた心配を始めた。孫策がいくら自分が十歳の時には一人で遠くに出かけていたといっても、従者が孫権を保護してきっと平安無事だといっても、呉夫人は安心できなかった。さらに孫策に言った。
「権はあなたとはくらべられないわ。権は小さい頃からわたしに付いて家の中でお勉強していたのよ。家人で面倒を見るものがいなくて、あなたは権にひとりで彭城に行かせて、心配ではないの?」
 孫策はなすすべがなく、自分が抜け出して孫権についていこうとして、周瑜に止められた。
「きみがもしいったら、ひとの笑いものにならないか、孫氏の兄弟が共に彭城に行って、孫伯符は自分で張昭にあいさつに行かないのに、弟を先行させるなんて、だめだよ」
 周瑜は顔を俯けて少し考えた。
「わたしが仲謀と行ったほうがまだましかな」
 周瑜がこの話をしたとき、孫権は机の所に座り、自分の着物の帯を引っ張っていた。話を聞くなり、ふくらんでいたほっぺたもへっこみ、帯も止めず、口先の尖りもなくなり、しゅっと立ち上がった。澄んだ子どもの高い声で叫んだ。
「公瑾お兄ちゃん、一緒に行こう!」