策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生7

「余香」

 孫権は一晩寝付けずにいた。兄上が帰ってこない。空の色がまだ明るくないうちに自分で衣冠を整え、袁家のお兄ちゃんを訪ねに出かけた。
 屋敷に入る前に、侍従に阻まれた。言うには、時間はまだ早く、袁耀はまだ酒が抜けず起きない。客に会うことはできないと。もし用事があるのなら、袁耀が起きるのを待って、孫家の二公子に知らせるように人をやろう。 
 孫家の大公子はどこへ行ったのか、訊ねてもみな首を振って知らないという。

 孫権はいかんともしがたく、駅館に戻るしかなかった。つき従う者達が小公子に再び横になるようにすすめた。ただ、どうしても安心できない。
 彼は寝台に横になり、帳についている飾り房を数えていた。考えて明るくなったらまた探しに行こうと思った。
 お兄ちゃんは思い通りに動く。舒城にいる頃にも夜中まで帰らず、深夜壁を乗り越えて家に出入りするのが日常だった。でも、父上が亡くなってからは、毎日みずから弟や妹が寝入るのを見守っていた。
 孫権はあるとき夜中悪夢を見て、全身鮮血に塗れた孫堅の姿を夢見た。夢で泣いた。泣いて喘ぎ、お兄ちゃんが手で軽く手中を叩いてくれると、ゆっくりと落ち着いてきて、また眠れた。

 外では馬の嘶きが聞こえた。孫権は寝台から飛び下りた。靴も履かずに外まで走った。門を入って間もないお兄ちゃんの懐に飛び込んだ。
孫策の衣服はかすかな湿り気があり、冷たかった。髪には水が滴っている。
 孫権は彼の眉のあたりの水跡に触れた。
「お兄ちゃん?」

 孫策孫権を抱き上げて寝台に座らせた。
「権弟はまた寝られなかったのか?」
 孫権は目尻がちょっと紅くなった。
「今はもう寝られるよ。お兄ちゃんが戻ってきて、何でもなかったから」
 孫権孫策の袖を引っ張った。
「お兄ちゃん、今日は誰かに会いに行くの?」
 孫策は手をぶらりとすると、頭を振った。
「行かない。今日は誰にも会わない。兄ちゃんが一緒に寝てやるよ。ひどく疲れた」
 
 孫策はしっかりと孫権に布団を掛けてやり。兄弟揃って横になった。部屋の中は音もなく静かだった。
 孫権はごろりと寝返りを打ち孫策の懐に近づいた、息を吸う。
 孫策は寒いのかと思って抱き締めた。
「権弟よ、どうした?」
 孫権は小声で言った。
「お兄ちゃんの身体、なんか匂いがする」

 孫権は兄の動きが止まったように思えた。それから孫策は勢いよく後ずさった。すぐに寝台に座り直した。
「どんな匂いだ?」
 孫権はびっくりして泣きそうだった。
「ん、……なんでもない、ちょっと香りがした、その……とてもいい匂い」
 話し声の最後の方は、ほとんど聞こえないほどだ。

 次の瞬間彼の頭はお兄ちゃんの胸にぎゅっと押しつけられていた。孫策の顔はみえなかった。彼の手がゆっくりと自分の髪を撫でているのがわかった。自分の頭の上で声がした。一字一字言い含める。
「権弟、よく聞け。これからは、オレの話以外誰の言うことも聞くな。誰も信じてはならない。わかったな?」
 孫権は訳もわからす、ただ頷いた。

 孫権は幼く、安心したら、すぐに眠ってしまった。
 孫策は目を開けて、身を固くして、身動きもしなかった。


 彼はついには袁術を殺すことができなかった。
 彼は目覚めたときまだ手に力が入らなかった。
 首を絞めて殺すには力が重要で、袁術は気絶しただけだった。
 彼は寝台を降りて、中衣を着込み、袁術が放ってあった剣を拾った。
 ここで彼を殺したら、どうなるだろう?

 帳の上の明珠はかすかに発光していた。彼は剣をその顔に向けて見ると、突然吐き気がした。
 馬に笞をふるって袁家を飛びだした。空がまだ暗いのに乗じて、近くの川に潜り、身体の汚れを洗った。
 川の水は沁みるほど冷たかった。だが、これでいっさい権弟に知られることはなくなった。

 彼は懐の幼い弟を守り抱きながら、頭は混乱してはっきりとしなかった。彼は思い至った。一緒に連れてくるべきではなかったのではないか。一緒に寿春を離れようか。
 袁術が目覚めて、孫氏を殺害すると決めたら、どうしたらいいのか?
 あるいはもう命をかけているのだから、ほかに何を恐れることがあろう?

 孫権は門が叩かれる音で目が覚めた。こっそりと寝台から滑り降りて戸を開けた。袁家の公子がいらっしゃったと知らせに来た。
 孫権は戻ってお兄ちゃんの腕を押してみて、彼の額の熱の温度にひどくびっくりした。
 焼けるように熱い。

 孫権は仕方なく、他に方法がなくて服を着て、袁耀に会いに出ていった。
 袁耀はまぁまぁいつもの親しさで笑っていた。孫兄は昨日もひどく酔ったのではないかな?まだ起きないとは。

 孫権は大人みたいに振る舞って、袁家のお兄ちゃんに御用はなんですかと訊ねた。
 袁耀はバツの悪い顔色をして、袖から書簡を出してきた。父親の親書だという。

 袁術孫堅の元部下を返すはずがない。
 孫氏を丹楊に行かせて、呉景を頼らせた。