策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 四十七 需要愛先生「思為双飛燕」

二十四章 望瑾 瑾を望む

 陽羨県について間もなく孫策が人を寄越してきて秘密の手紙を送ってきたのを孫権は受け取った。手紙には孫権に母上によくお仕えして、孫家の家族一同を陽羨に落ち着かせて、どこにも行かないようにとあった。孫権は内心ちょっとおかしく思った。お兄ちゃんは日頃こうは言い聞かせてはいなかった。孫家のものは広く豪傑侠客と交際し、地元の人と付き合うのではなかったか?この手紙は字の間、行間から殺気がそっと透けて見えていて、孫権は三回繰り返し読んでみた。突然わかった。お兄ちゃんのこれは一気に翼を広げるときが来たのだ!
 なるほど、自分が家族を連れてここに来たとき、従兄の孫賁が特別に人を遣わせて護衛させていた。必ず孫賁は早くに孫策の次の行動を知っていたに違いない。そして孫策の次の行動は必ずや平凡なことではないだろう。
 そう考えた孫権はすぐに座ってもいられず、孫策がもし重要な行動を起こすのなら、どうして自分がここにいていいだろうか。自分は孫策の血を分けた弟なのだ!
 孫策の手紙での陽羨にいるようにとの言いつけを顧みることなく、孫権は、旅の支度をして、昼夜兼行で急ぎ、慌ただしく歴陽の孫策の陣営に駆けつけた。
 自分が勝手な行動をしたらお兄ちゃんはきっとムッとして怒るかと思いきや、歴陽に着いてみたら予想ははずれて、孫策孫権を見ていくつか尋ねて、家の中が無事であるならいい。孫権はお兄ちゃんの気持ちに叶うように手筈は整えてきたと答えた。孫策は二言、三言叱ったが、それ以上はなかった。いつもの孫策の気性からしてらしくない!
 このとき月は柳の枝の先にあり、天の河は混沌としていた。孫権は軍営の大門のあたりからお兄ちゃんが軍営から出て、闇夜に全身白の戦袍と披風をひらひらと風にはためかせているのを見た。右手は腰の佩剣にかけ、顔は空を向き、寂しげな表情で、眼にはかすかに焦りが浮かんでいた。
 孫権はずっと長いこと自分のうちのお兄ちゃんがこんな薄暗い表情をしているのを見たことがなかった。前回見たのは、お父さんが亡くなった時だった。
「お兄ちゃん!」
 孫権は心の中でびっくりし、まさかお兄ちゃんのこの度の計画は上手くいっていないのか、大事は成功し難いのか?
「仲謀よ」
 孫策は少し顔を向けて言う。
「おまえの見たところ我が軍の治軍はどうだ?」
「お兄ちゃんの軍は規律は厳しく公正で、将兵は精鋭揃いです。もちろん天下無双だ」
 孫権は胸を張って答えた。
「うん。ホントのことだ!」
 孫策は笑って頷いた。
「じゃあ、おまえは我が軍に何人の兵がいるか知っているか?」
「それは……知らない」
「六千三百二十一人」
 孫策はため息をついて顔を振った。
「六千三百二十一人だ。オレが寿春を出発したときには、袁術はオレに一千人と馬しかくれなかった。オレは道中、兵を募集して馬を買い足しながらきた。今日の規模にするのは容易なことではなかった……」
「まさか……まさか袁術はお兄ちゃんの兵糧と資金をピンハネしたとか?」
 孫権はあわてて訊いた。
「頭がいいな、さすがオレの弟だ」
 孫策は顔を振った。
「確かに秣や兵糧の問題だ。しかし、あの袁術さえもオレのはピンハネしない。しかし、この一千人分の兵糧と秣だ。いかに六千人に配分できるというのだ?オレ達は途中、金のある豪族たちから兵糧を借りてきたが、依然として行き渡る数には足りない、今曲阿を目の前にして、戦いの準備をして、兵装を整え出撃を待とうとしているときに、軍中の兵糧、秣が残り少ないときている」
「じゃあ、お兄ちゃん良策はあるの?」
「オレは待っている」
「何を待っているの?」
「待っているのは一人」
 孫策はこの話をしているときにはいささか勢いがなく、焦りの色がさらに強くなった。
「七日前、オレは手紙を送った。軍中の事情を知らせて、オレのためになんとか軍事物資を調達してくれるように頼んだ。ただ、七日経ったが、まだ返事は受け取っていない」
「誰のこと?」
 孫権は薄々気づきながらも訊いた。
「おまえの公瑾お兄ちゃん」
 孫策は言ってから黙ってしまった。
「あっ」
 孫権はそれでわかった。なるほど孫策がこれほどまでに落ち込むのは、周瑜からの返事が得られなかったからだ。孫権は思わず笑ってしまった。
「お兄ちゃん、そんなに悩まないでよ」
「チビが、何を言ってる」
 孫策はぷんぷんしながら孫権を見つめた。自分の心配事を弟に聞かせたのに、まさか孫権はわかっていない顔をしている。
「公瑾はきっと来るよ。お兄ちゃんはまさか公瑾のことを疑っているの?」
 孫権はあわてて付け加えた。
「彼は我々の身内だよ」
「ほんとに生まれたての仔牛は虎をも恐れぬというが」
 孫策は教訓を垂れる口ぶりで言う。
「おまえは知っているか公瑾は叔父さんについて丹楊にいるんだ。目下オレはただの校尉の職、彼の叔父さんは丹楊で兵を率いている。行かせてもらえるかはまだわからない。兵糧軍資金を充分に調達できるかもわからない」
「それはぼくは知らなかった。でも」
 孫権はいったん言葉を切り、また言う。
「公瑾のことだもの、いつもなんとかしてくれるよね?お兄ちゃんは公瑾の能力を疑っているの、それとも……」
「オレは公瑾に対してなにも疑ったことはない!行け行け、あっち行け」
 孫策は脚を伸ばして孫権の尻を蹴飛ばそうとした。
「それからな、年上をないがしろにして、いちいち公瑾と、お兄ちゃんの文字は省くのか?」
 孫権はちょっと口を噤んだが、ぼそぼそ言う。
「公瑾は先生であり、友であり、兄でもあるから、字で呼んでもいいんだよ」
 孫策は口先では孫権を叱っていたが、顔ではむしろ孫権の言った言葉で笑みがこぼれた。腰の剣の柄を握り言う。
「しかしなあ、オレが思うにこの二日程度で公瑾も来てもいい頃なんだがなあ」
「そうだね」
 孫権は啄木鳥みたいに頷いた。
「将軍!」
 二人が話をしているところに、孫策の側仕えの兵が飛ぶようにやってきた。
「丹楊からの手紙です!」
 親兵は両手で手紙を差し出した。孫策は急いで月光の下で開いた。飛ぶように数行目にすると、顔にはすぐさま喜びの色が浮かんだ。
「誰かある!」
 孫策は大声で怒鳴った。
「程軍団長を呼べ、後方の軍営をちょっと整理整頓させろ、兵糧と秣と人馬を置く場所を確保しておけ、それから、オレは巡営してくる」
「将軍、もうすでに夜中ですよ。こんな時間に巡営ですか?」
 親兵は驚いた。
「だめなことがあるのか?」
 孫策は笑って大きな眼を細めて言いながら、大股で歩いて軍営の後ろの厩に行ってしまった。
「お兄ちゃん、え、お兄ちゃんどうして行っちゃうの。ぼくは夜はどこに行ったらいいの?お兄ちゃんはまだ寝床も確保してくれてないのに!」
 孫権は一瞬反応できないうちに、孫策はもう影すら見えなくなっていた。二、三歩追って諦めるしかなかった。