「丹楊」
袁術はかすかにその思いを漏らすと、たちまち門客がその意を汲んで、呉越の地から美しい少女達を捜し集めてきた。
腰はほっそりと、足は霜の如く白く、袁術を数日喜ばせた。
その中の鄭という少女は、肝っ玉が大きかった。
彼女は髪が烏の濡れ羽色で、目は大きく活き活きとして、自称鄭旦(古の美女)の末裔だと名乗り、とても愛らしく、剣舞が上手かった。
袁術はどうして鄭旦の末裔だろうがなかろうが気にせず、十分可愛いと、格別に何度か褒美を与えた。寵愛された少女は少し自惚れてきた。
ある日の朝方、袁術は寝台に横たわっていた。まだうとうとしていると、突然身体の上に何かが覆い被さってきた。誰かが跨がってきた。胸元もぐっと重みを増した。呼吸がつらい。
彼は怒って目を開けた。手を伸ばすと一振りし、鄭氏を転ばせた。
事理を弁えないその女子は、ひたすらに纏わり付いて、オウオウと泣き出し媚びを売った。春葱のようなしなやかな手が袁術の下半身の布団に潜り込み、尖った爪が彼の太ももを突いてひどく痛がらせた。
袁術は大いに怒り、彼女を寝台から蹴飛ばした。侍衛を呼ぶと、鄭氏を追い出した。
彼女は半裸で髪は乱れて地面に付き、狼狽えた顔には満面涙が流れ、掠れた声で泣き叫んだ。もう一度寵幸を賜りたい、殿はなんと残酷なの。
彼は泣き叫ぶのを聞いて太陽穴がぼんやりと腫れた感じになり、どきどきしてとまらなくなった。身を横たえ、頭を枕に乗せたが、また熱くてたまらず、絹の布団を脇にどけた。
一人を下がらせて、もう一人呼び寄せる気持ちもなかった。彼は片手でゆるゆると首を撫で、片手は下の方へ伸びた。
彼はすでに何年もこの行為をしていなかった、極力あの日彼が腰の上に乗り上げたのを思い出そうとした。滑らかな太ももの内側が彼の朝勃ちしたものにこすれるさま。あの燃えるような両眼が見つめてきたとき、彼の下半身は火が点き、それから死にそうなほどの窒息に襲われた。快感がじわりじわりと積み重ねられ、船は峰の頂点へと押し上げられ、再び谷底へと落ちた。
饕餮は飽きることなく貪り、終わってほどなく、満たされない虚しさがやってきた。
あの味わいを思い返すに、こうも思い出が蘇り、初めての躰というものは何とも柔らかで、力にあふれ、皮膚の上の汗の粒でさえ活力にあふれた熱がこもり、混沌とした苦しみの中眉を寄せる様すら感動を呼び起こす艶めかしさだった。
彼はふーっと息をつくと、一人でひとしきり喘いだ。それから側仕えを呼ぶと、手洗いと更衣に行った。
空模様はごく普通、だがカササギが鳴いたので、ある謀臣は今日は必ず良いことがありますと申し上げた。
そして、各公文書、戦の知らせが送られてきた。一件も嬉しくなるようなことはなかった。
ある侍従が一通の書簡を運んできた。言うには、丹楊の呉景から送ってきたものだという。袁術は内心ドキリとして、すぐに広げて見た。
彼はかつて呉景と孫賁に涇県の山越を掃討せよと命じていた。その地の頭目は、大帥と称し、祖郎と名乗った。
孫策は兵を率いたが、祖郎には敵わず、数百人の兵を失い、幸いにも逃れて、命は無事だった。
袁術はこれを見て、しばし眉を顰めたが、すぐに微笑んで、表情は七変化した。側に控える者はその意を察することができなかった。彼が読み終えると、ハハと大笑した。得意に机を押しやり、顔色は喜色を浮かべた。手紙の使いの肩を叩いた。
「今日はやはり良いことがあった」
手紙の使いは汗だくになり、また戦々恐々とした。明らかに敗戦なのに、どうして良い知らせだろうか。
花が二輪咲き、一枝にそれぞれついていた。
孫策は丹楊にいて、銅の灯明の下で顎に手をやり、片手は一つの駒を捻っていた。考えているようだ。
だれかが戸を叩いた。リズムがあるようで、三長一短、それが三度繰り返された。
呂範が立ち上がり、戸を開けた。
進み入ってきた人物は初冬の夜の寒さを身に纏っていた。漆黒の外套に身を包み、眉も目もしっかりと隠していた。
呂範は急かすように言った。
「モノはもってきたか?袁術をすでに数日待たせている。これ以上延期できない」
訪ねてきたものは数歩前に進み孫策に向かってお辞儀をした。袖の中から取り出す。
彼の指は五本ともすらりと長く、腕は細くて優雅、肌の色はごく白く、あの白玉の魚が彼の手にあった。手と互いに比較してもその活き活きとした様は劣らない。
孫策は唇をややつり上げ、美しい笑顔を見せて手を伸ばして相手の手を握った。
呂範がまだ驚きの声をあげる前に、二人は素早く手のものを交換した。孫策はその双魚玉佩を手の上で放り投げた。
「お前の手は遅い」
また言う。
「モノを届けるくらいのことで、わざわざ自分できたのか?」