策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生2

春分

 袁耀は孫策と矢の的当て比べをしたが、ほとんど勝ったことがなかった。
 しかし、このことで言い争うこともなく、年が近いもの男の子同士一緒に遊び、とても愉しかった。
 ただ、近々故郷に帰ること思い出し、袁譚と袁熙に会うと思うと、内心不快感でいっぱいだった。
 孫策に負けても、父上は罵ることもないが、堂兄弟達に負けたら、いい顔をしないだろう。

 孫家が袁家に近づいてから、孫堅は寿春の家にいるより外征に出ている方が多い。袁術はことのほか孫策を気に入り、しばしば家に泊めて食事をともにすることも多かった。孫策と袁耀は同じ寝台に休み、自分の家の兄弟の話や父の南北の戦場を駆け回る話をし、袁耀は孫策に『山海経』の話をし、深夜まで騒ぐのがいつものことだった。
 しかし、この度はいつも通りでなく、春分の日に袁家は汝陽に帰郷する予定で、孫策は晩の膳が終わると帰ると挨拶した。袁術はただ言った。
「少し待て。耀児と少し遊んでいなさい。それから事情を話そう」
 袁術がそう言うからには、孫策は命令に従うのみだ。

 待っていると、案内しに侍女が孫策の前に来た。夜はすでに深かった。踏み入れた部屋には華麗な家具が陳列され、錦織の帳の色は濃く鮮やかで、複雑で、白玉が吊り下げられていた。銅鏡の中にはいくつもの灯火が照り映え、立派で温かだった。
 メッキと象嵌を施された博山炉の中から煙が緩やかに立ち上り、室内は遮られることなくほのかな白粉の香りも漂っていた。
 袁術は寝台の上に座り、側に女を跪かせていた。孫策はちらっと見て、あの日彼がパチンコ玉で驚かしたあのひとだとわかった。内心いささか申し訳なく思った。
 袁術の姫妾といえど、年頃をみると、自分とそれほどいくつも変わらない。

 孫策は初めて袁術の私室の中で立っていて、少し大人しくなっていて、まず袁術に向かって挨拶した。
「袁叔叔?今日はまだなにか用事が?」
 袁術は微笑んで口の下の短い髭を撫でた。
「策児が初めて我が家に来たとき、わたしは軽んじていた。そなたを雨に濡らせてしまった」
 孫策も笑った。
「袁叔叔何を仰います。わたしは幼くて無礼をし、驚かせて……こちらのご夫人を驚かせてしまいました」
 その女もそれを聞いて、頭を深く垂れて、頭の黒髪の上の金の小鳥の歩揺がかすかに揺れた。

 袁術は彼女を見つめ、言った。
「なにを縮こまっておる。持って参れ」
 彼女は小さな声で応じて、立ち上がって去り、帳の後ろから戻ってくるといくつかの盆を捧げもってきた。
 孫策はちらっと見て、振り返り袁叔叔を見つめた。
 袁術は言う。
「あの日そなたを全身濡らして、また泥で汚してしまった。今日は叔叔がお詫びをしよう」
 彼はその女を指さし言った。
「新しい衣装はこの劉氏自ら裁断して服とし、刺繍もした。みな基本がなっている。ここ数日急がせてやっとできた。もし他のものに預けたなら、安心できぬからな」
 孫策は何も言わずにいたが、袁術は怒鳴った。
「さっさと立って、孫公子の着換えを手伝わぬか?」

 その劉氏は畏まって、孫策の目の前に差し出した。膝をついて、彼の帯を解き始めた。
 孫策は彼女の顔が真っ赤になって、ふるふると唇を震わせているのを見ると、袁術に向かって笑った。
「袁叔、自分でやってもいいですか?」
 袁術やや考えると、手を振って劉氏を下がらせた。

 いくつかの盆に並べられたものは同じではなく、深紅の鳳凰の尾、草色の巻雲の模様の上着だけでなく、白い薄衣に紅い縁がついた中衣、紫と緑の二色の腰帯でその上には金の辟邪の獣の頭もついてあるものもあり、赤烏の靴下、雲を登るような靴も揃っていた。

 少年の皮膚は白く滑らかで、やわらかなみずみずしい光を帯びていた。
 袁術は手許の象牙の酒杯撫でていた。手のひらはやや熱がこもっていた。

 孫策は歳十四、すでに将門虎子らしい顔をしていた。
 彼は容貌で子どもらしい丸みとつやがのこり、眉のあたりには少年の英気があり、両方が混じり合い何とも不思議な鮮やかさを感じさせた。彼は自分で帯を解き、衣服と佩玉とを寝台の上に置き、少しも恥ずかしい様子はなかった。
 咲き初めた春の花が誇るようでもある。
 惜しいかな、この種の美しさは長くは持たない。袁術は内心感動した。
 花が咲くのは数時間、またその数時間が素晴らしい。それが散るのを見ても、なすすべもない。

 彼は手招きをし、孫策を近寄らせ、立っていては靴下と靴が上手く穿けない。
 少年は丸みのある踝を柔らかな錦織の布団の上に載せ、袁術は後ろに少し下がらせた。
 着せ終わると、彼は孫策の手を携え、銅鏡の前まで連れてきて、劉氏を呼んで髪を梳かせた。束ねた髪にはいくつかの鮮やかな紅い血のごとき珊瑚珠がぶら下がっていた。

 孫策は笑った。
「まさか袁叔は憶えていましたか」
 袁術は残りの一つの盆を指さした。
「一つ選びなさい」

 盆の上には各種の玉佩が盛ってあった。青や白やいろいろあり、細やかな彫琢がなされている。
 袁術は一つ虎の青玉を選び「これが策児にはとても似合っている。色も透き通っている」
 孫策はしかしながら盆の中の白玉の双魚の佩玉を見つめていた。
 袁術は彼の視線を追って見た。「それも良い」

 その白玉の魚を手にするとほのかに暖かく、魚の縁や鰭がほんのり青みがかり、口から水の泡が吹き出していてとても精緻である。
 袁術は自ら孫策の腰に結んでやり、彼が立って数歩歩くのを見ると、自然と得意な顔になった。
 花を見るのと花を摘むのと、どちらが更に風雅だろうか。もっと知りたい。