策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 六十五 需要愛先生「思為双飛燕」

四十二章 思為双飛燕 思う、双飛燕となりて(下)

 孫権の表情は厳粛そのもので、態度もとてもまじめだった。かすかに前のめりになり、両手は膝に置かれ、目線はごくごく優しかった。
「公瑾、あなたは最初お父さんがお兄ちゃんを結婚させるのに、どれだけ挫折に見舞われたか知っていた?」
 周瑜は知ってはいたものの、ただ首を振った。なにかまずいことが起きそうな気がした。
「二十以上の家、少なくとも十数の家からお父さんは拒まれたんだよ」
 孫権は感慨を込めて言った。
「あなたも当時うちのお父さんがよく怒るのを知っていたでしょう、どれほど悔しかったと思う?」
 周瑜は口を尖らせたが、黙ったまま、首を振った。
「いつもはそれらの家の者達はぼくら孫家に対して遠慮したりするのに。あぁ、肝心な時に人の心ははっきりするものだ。彼らはやっぱりぼくたちを見下して、軽蔑しているんだ。ぼくたちと結婚してよしみを結ぼうとはしないんだ。ああいういわゆる豪族富豪は、権勢と利益が大事なんだ。それからお父さんが硬軟両方の策でもって迫り、やっとお兄ちゃんにある名門の人を娶せることができたんだよ。しかし、この新婦もぼくたち孫家と心が一つになるかはまだわからなかった。公瑾考えてもみてよ。もし出身も気立てもよくてぼくたち孫家にたいしてもよくしてくれる女の子がお兄ちゃんに嫁いでくれたのなら、お父さんが強引に名門の人と結婚させるかな?するかな?」
 それは明らかにしないだろう、周瑜は首を振ることすらしなかった。
「だから、新婦が嫁いできても、お父さんは心中面白くなかった。お父さんはお母さんに言ったんだ。『もし、公瑾が女の子だったら、まるで天から降ってきたかのよう素晴らしい嫁なのに。世間でも珍しい美談だ』公瑾怒らないで。顔を赤くしないで。ぼくはあなたが女の子とは言っていない。お父さんももちろんあなたが女の子ではないとわかっている。これはお父さんのとても大きな後悔していることなんだ。あなたはお父さんの人となりを知っているでしょ?恩も仇もはっきりと報いる、豪快さは人並み優れていて、心中に面白くないこと、後悔があれば、つつみ隠さずにいる。それで、本来新婦に送る結納の贈り物も贈らなかったんだ。その古錠刀は孫家に伝わる宝物で、家を安泰にしてくれるかわからない女の子には、どうしてこの結納品を受け取る資格があるだろうか。お父さんの意中の人は終始あなたなんだ公瑾。それでその後宝刀も公瑾に贈ったんだ。残念な気持ちを慰めるためにもね。あなたはぼくたちの一族の人ではないけれど、さらに言えば、お兄ちゃんの妻でもないけど、升堂拝母の礼をした関係だし、ぼくたちは嘘偽りなく結婚したわけじゃないけど、当時ぼくは思ったんだ。お父さんはなぜこのような大事なものを託したんだとね。後々わかったよ。お父さんがぼくたち兄弟に申しつけたことを。公瑾はうちの味方だ。新婦よりもずっと頼りになる。公瑾、言ってみて、ぼくの言っていることは違う?」
 反論するすべもなく、周瑜は聞きながら驚きの連続だった。
「でも……」
「公瑾考えてもみてよよ。お兄ちゃんもとてもよくお父さんの言いつけ守っていた。お兄ちゃんとあなたは間に入る隙もないほど親密で、新婦よりも大事にしていた。いつもあなたのことを考えあなたのことを思って、贈り物をし、軍中ではいつも手紙を交わしていたね。お父さんが亡くなってからは、他の人とは付き合いも低調になってしまったけれど、そのときも公瑾あなたは雪中送炭してくれて、お父さんの目の付け所が正確で、言いつけが賢かったをさらに証明した。ぼくたち兄弟はすこしも忘れないよ。あ、公瑾どうしてまた赤面するの 」
「……」
「惜しいことにお父さんは早くになくなってしまった。あなたとお兄ちゃんが天下を共に駆け巡る大業のその時を見ることはなかった。けれども、お父さんに言うのなら、それは一生でも大きな快事だと思う。だから、公瑾、あなたはぼくの気持ちが根拠のないものだと言わないで、一時の思いつきではないんだ。お義父さんの遺憾。それをぼくが補う、それは子孫として当然のこと」
 周瑜は苦心惨憺した。この話は正しくないな、穴がある、隙もある。だがどうやって反論する?
「お父さんの遺憾は話し終わった。今度はお兄ちゃんの話をしなきゃ、これは多くを語る必要も無いね。公瑾とお兄ちゃんとは深く結ばれていて、世間の人にもよく知られている、惜しいことには天はお兄ちゃんには寿命を与えず……」
 明らかに馬鹿げた話だったが、ここまで聞くと、周瑜はなぜか目の縁が赤くなるのを感じた。さっきまでは孫権の話のあら探しをしていたのに、『天は寿命を与えず』の言葉を聞くと、突然ひどく絶望感に襲われ心も灰の如くなってしまった。失意の余り黙ってなにも言わなかった。
 孫権周瑜を一目見て言った。
「お兄ちゃんが亡くなる間際に公瑾に嘘をついた、と言っていたんだ。ぼくはお兄ちゃんが何の嘘をついたのかしらない、けれど……」
「主公!」
 周瑜は少し滾る気持ちを無理やり抑えて、淡々と言った。
「討逆将軍が仰せの嘘とは、もちろん江東の大業が未だ完成していないことを指しています。破虜将軍が古錠刀を託したのもまた同じ意味で、それゆえわたしは戈を枕に常に自らを励まし、将軍お二方に報いようとするつもりです。主公はすでに父兄の遺志を継ぎ、さらに力を尽くして、大業を果たさねばなりません」
「公瑾の言うことはもっともである」
 孫権周瑜に向かってうんうんと頷いた。
「しかし、功を建てることと結婚して家をなすことは矛盾しない」
「主公はもう結婚しておられます」
 周瑜が指摘した。
「あ、わしは曖昧だったな。わしの言いたいのは、功を建てることと公瑾とお近づきになりたい気持ちは衝突しない」
「主公、あなたさまはまだお若い。事業はまだ安定しておらず、どうしてそこにこだわるのですか」
「でも、お兄ちゃんも当初はとても若かったよ。お兄ちゃんと公瑾が仲が良かったときは、いまだ功を建てずにいて、寸土を争うとこまでいっていなかった」
「討逆将軍とわたしが知り合ったのは総角の年頃、また兄弟の仲でもありました。ましてや将軍は付き合いは広く書物を読みあさり、生まれつき豁達で、友人は天下にあまねくいました。わたしはその中の一人にすぎません。主公は言い過ぎです」
「公瑾はどうしてそんなにぼくを拒むようなことをいうのかな」
 孫権はちょっと悲しそうに言った。あなたと、お兄ちゃんは、兄弟の仲でも、また特別に親しくて、ぼくは小さい頃から見たり聞いたりして、どうして知らないでいると思うの?」
 見たり聞いたり?周瑜は少し驚いたが、ただ孫権が弱々しく言うのを聞いていた。
「ぼくは言い出したくなかったけど、でも公瑾がこうまで言うなら、ぼくも言わざるを得ない。公瑾ねぇ、あなたは知っていた?お兄ちゃんとお互いに慕い合っていると告白したとき、ぼくがそばで聞いていたのを」
 周瑜はやや落ち着かなくなってきた。
「主公はそのとき幼くて、聞き間違ったのでしょう。あるいは他人の讒言は、真に受けないでください」
 孫権周瑜のそばに近づいて、座った。目は真っ直ぐに周瑜の顔を見つめていた。
「ぼくも当時は自分が聞き間違ったと思ったよ。それからお兄ちゃんと公瑾のやっていることは赤児の心みたいに純真で、その他はないと思った。公瑾は知るべきだよ。当時もうひとりの男子も公瑾とお兄ちゃんの真似をしたかったんだ。ぼくは年少で無知で、お兄ちゃんの後をつけて部屋にいった……」
「仲謀!」
 周瑜はこれを聞いて非常に驚いた。頭をあげてぼうっと孫権の悲しみをこらえている顔を見た。
「きみ、きみは……」
 孫権周瑜の耳元に近づいた。小さな声で囁く。
「淫らな声が絶えず続いて聞こえたよ、公瑾……」
 周瑜はふらふらしながら立ち上がり、うしろへ二歩よろめいた。
「大丈夫?あ、ボクのことを心配しているの?安心してぼくはなんでもないよ。どうしてなにかあるのさ。公瑾ぼくは当時幼いことを自覚していたけど、あなたとお兄ちゃんは全然ぼくに気づかなかったよね。ぼくも心に常に苦しみを抱いて、夜に訴える相手もいなくて、でももうすぎてしまったことだ。昔のことは雲や煙のようなものだ言ってもしょうがない。ぼくは今日公瑾に迫りに来たんじゃないんだ。ぼくはただ胸の内を知ってほしかった。公瑾に本心を表明したかったんだ。公瑾はぼくを拒んでもいいけど、もうぼくに嘘をついてはだめだよ」
「わたしは……」
 周瑜はこの時よく考えた言葉が脳内で砕け散ってバラバラの枯れ葉となり風に吹かれていくのを感じた。一時どうしても拾い集めることもできない。
「当然もし公瑾がぼくを拒んでも関係ない、孫家の人間は困難を恐れない。好男子が一度失敗したからといってなんの妨げがあろうか。でも、公瑾、ぼくはあなたにぼくが若くて軽率だと言われるのは怖くない。あなたがぼくに私心に捕らわれているというのは怖くない。ぼくがこわいのは……」
「なにが怖いと?」
 周瑜は我慢できずに口に出してから、すぐ後悔した。
「あーー」
 孫権は長いため息をついた。目の端でちらりと周瑜を一瞥した。
「公瑾は覚えているかな、ぼくのために探してきた赤い服の村娘のことを?」
 村娘?周瑜はなんとか自分が孫権のために探してきた村娘について思い出そうとした。考えることしばし、どの村娘!孫権が言うのはまさかあの成人の礼のときに探してきた女の子のこと?あの女の子は赤い服を着ていた?周瑜の記憶ははっきりとしなかった。自分もちらりと見ただけで、人に連れていくよう言いつけただけだった。それが今になって、孫権はなぜその女の子のことを口に出すのか!
 孫権は意味深長に言った。
「公瑾、ぼくはあなたがおもっているようなのとはちがうんだよ」
 見たり聞いたりして、赤い服の女の子、反抗的な男子、淫らな言葉、おもっているようなのとはちがう、これらが一気に織りなして、恐るべき光景の輪郭を描きだした。周瑜は耐えがたく小刻みに震えた。それからゆっくりと顔を上げた。ぼうっとした目線は孫権の熱量があふれ出す表情にぶつかった。周瑜は立っていられず、ばたんと座り込んでしまった。
 なんと孫権が今まで跡継ぎがいなかったのは、なんといつも周瑜孫権の行動がおかしくて理解しがたいと思っていたのは、なんと彼がいつも自分にまとわりつくのは、すべて一切これが原因だったのか!
 周瑜孫権が小さい頃いったい何を聞いて何をいったいみたのか知らなかったが、かれはここまで聞いて、孫権はすでに深みにはまっているようだった。女の子とのおつき合いする上での問題には関わっていないが、まだ何もわかっていない時期に淫らなことに心を持って行かれて、自ら抜け出せなくなっている。昔のことの事情は完全にはわからなかったが。
 周瑜が呟いた。声音はやや震えていた。
「仲謀……」
 孫権は思いを込めて返事をした。
「公瑾……」
「仲謀……」
「公瑾……」
 孫権はとても満足した。周瑜のこの二回の仲謀と呼ぶ声はとても美しい響きだった。周瑜を見ると目の縁を赤くしていて、ぼうっとしていて、受けたのが大きな打撃だとしめしていた。孫権は内心良い兆候だとして、今日の成果は悪くないぞと思った。少なくとも周瑜は関係を断つとか言わなかったし、見たところ周瑜も完全に脈がないわけでもなさそうで、安心した。
 自分の言ったことに答えが出るのは、もっとゆっくりゆっくり待とう。孫権は急いではならないことを知っていた。自分はもう正直に話してしまったし、周瑜には考える時間を少しあげないと、おちつかないだろう。
 そこまで考えると、孫権は満足して立った。
「公瑾、今日話したことは、ゆっくりと考えてくれ。ぼくは返事を待っているよ。あ、そうだ。さっきぼくが言ったおさないころのことは、あなたも真に受けないでね」
 孫権はさっさと外へ飛びだしていった。
「仲謀!」
 周瑜孫権の背後で叫んだ。孫権は振り向いて周瑜を抱きしめたいという衝動を抑えるのがむずかしかった。
 我慢!我慢!孫権は自分に語りかけた。そんなに焦っちゃだめだ。もう十数年待ったんだ。あと十数日くらい待てるだろう?
 口の端をつり上げて度量も大きく、豁達な微笑みを見せた。
「公瑾、以前あなたはしらなかったかも知れないが、今は知ったね。ぼくは急がない。あなたはよく休んで。また後日話そう」
 都督府を出発した時、孫権は空を見上げて、自分はほんとうに成長したなぁ、こんなに成熟して落ち着いたなぁ、公瑾に告白するのだって道理にかなって余裕があった。これから公瑾はいったいどうするだろう?ぼくを避ける、それとも違った目で見てくる?孫権は今日の成果ののちどうなるかこれから見定めて、そのときどきに応じて、公瑾がいかなる反応をしたとしても、自分は易々とはあきらめることなんてできないんだ!