策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 五十九 需要愛先生「思為双飛燕」

三十五章 奔喪 葬儀に駆けつける(下)

周瑜の姿はついに霊堂に現れた。彼は喪服に身を包み慌ただしく進んできた。霊堂に着くと急に足を止めた。目はぼんやりとして位牌を見つめ、口は閉じたまま、涙は止まるところを知らず、しばらくすすり泣いてから、一声叫んだ。
「あにうえーー!」
 そして、再び無言になった。
 その瞬間孫権はつよく手の中の印綬を放り出したいと思った。目の前の周瑜は目を赤く腫らしていて、表情は悲しみでいっぱいで、からだはぐらぐらと揺れて今にも倒れそうだった。どこにもかつての世間の束縛を受けない瀟洒な様子は半分もみられなかった。周瑜の悲しみがわからないとでも?まさかこの瞬間に公瑾お兄ちゃんの心を探ろうとでも?
 しかし、やるべきときが来てしまった。孫権はぐっとこらえて印綬周瑜の方へ押しやった。ずっと涙で前が朦朧としていた周瑜はびっくりした。信じられないという目で孫権を見た。その目はつらく、驚いてもいた、かすかに怒りも含んでいた。
 周瑜の目を見て、孫権は自分が間違っていたとわかった。周瑜は口を開いて彼を責めることはなかったが、孫権はわかった。あの目はまるでこう語っているようだった。仲謀、きみはどうしてこんな手段をわたしに対してもちいるのか?必要か?
 周瑜はきっぱりとふりかえって外へ出て行った。そのとき孫権周瑜の袖をつかんで大声で叫びたかった。
「公瑾行かないで、ぼくが悪かった。ぼくはあなたを疑うべきではなかった。行かないで!ぼくたちは初めからやり直そう!」
 しかし、孫権は元の場所に座っているだけだった。このときなにが江東か、なにが公瑾お兄ちゃんは孫家の人で身内だとかみななにも浮かばなかった。心は悲しみと苦しみでいっぱいで、無限の寂しさが襲ってきた。周瑜のあの傷ついた表情は孫権自身も痛くてたまらなかった。
 軽蔑された。それからたぶん捨てられた。だれのせい?
 孫権がぼんやりとしてあたりをみていると、ほどなくして、周瑜が武将たちを率いて霊堂に向かってきた。孫権は飛んでいた意識から醒めてきた。自分を討伐しに来たのか?それとも忠心を示しにきたのか?まぁいいや、公瑾がそうしたいのならそうすればいい。とても疲れたよ。孫権は寂しげに床を見つめた。
 にわかに、黒山のような武将たちが孫権のほうへ向いて跪き、周瑜に合わせて唱和した。
「心を一つにして、少主を補佐いたします。死んでも悔いはございません。江東よ永遠なれ!」
 孫権は我慢できずにまた涙を流した。彼はここ数日泣きすぎだとわかっていた。人の主としてふさわしくない。けれどもどうして、泣かずにいられようか。がまんしても泣いてしまう。両手で周瑜の手を支えたとき、跪いているこの人はまるで石像になったかのように感じた。こんなに磐石のように落ち着き、堅固で壊すことのできないような石像に。でも、孫権はある種の幻覚を感じた。この石像が次の瞬間粉々に壊れて、無数の破片となって風に飛んでいくのではと。お兄ちゃんの後を追うように。
 孫権の心中はつらくてたまらなかった。武将たちに意思を表明してから、小さな声で周瑜に向かって言った。
「公瑾、内堂で相談にのってくれ、お兄ちゃんの臨終の話もあなたにしなくては」
 目の前の石像がちょっと震えた。人々が下がっていき、周瑜はゆるゆると孫権の後をついて内堂へ来た。
「主公……」
「やっぱり仲謀とよんでよ、内堂では礼に拘る必要はないよ」
「君臣の礼は内堂でも怠るわけにいきません」
 周瑜は無表情だった。
 孫権は無理にちょっと笑顔をつくった。
「でも、前にはこっそりとお兄ちゃんを伯符と呼んでいたよね」
「……」
「公瑾、ぼくは自分が悪いとわかっている。お兄ちゃんが亡くなる前にあなたを兄と思えと言ったのに、ぼ、ぼくはとても若すぎて、ゆるしてくれるかい」
「先主公……」
 周瑜は話を止めて、表情はやや和らいだ。鉄板のようではなくなった。
「伯符がそう言っていたのですか?」
「そうだよ」
「彼、彼は他には何か言っていませんでしたか?」
「お兄ちゃんがぼくに言ったのは」
 孫権は息を吸った。
「伯符は嘘をついた」
周瑜はこの話を聞いた途端、急に魘されたように、目はうつろに、顔はぼんやりとして、ついにはバタンと音を立てて倒れた。
「公瑾ーー!」 
 孫権は驚いてそばに走り寄った。
 周瑜がゆっくりと目を覚ましたとき。目を開けると将軍府の見慣れた帳だった。この鮫人が織ったかのような薄い絹の帳はもともと周瑜が選んだものだった。頭を巡らせて見ると孫権がぼーっとベッドで座っていた。場所は変わらない。けれども人は替わった。物は人にあらず。周瑜はもぞもぞと身を起こそうとした。孫権は慌てて彼を抑えて言った。
「公瑾、遠くから葬儀に駆けつけてきたし、悲しみすぎて、一時的に気絶したんだ。疲れすぎだよ。まずは一休みして」
「このような小さなことに、主公を煩わせてはなりません。わたしは屋敷に帰ります」
「あぁ」
 孫権はため息をついた。
「公瑾はやっぱりぼくをゆるしてくれてないんだ」
「……主公が臣下を御する道をよくおわかりのことは、これは江東の福です。わたしがどうして一人の得失でとがめだてしたりしましょうか」
「本当に?あなたはそう思っているの?」
 孫権は慌てて言った。
「でも、あなたを臣下とは思えないなぁ、あなたは現在ぼくを見てどうなんだろう、誰を臣下としても、公瑾、あなたはぼくの苦しみを……」
「主公!」
 周瑜孫権の話を止めた。語気はいささか厳しかった。
「人の上に立つ身となったからには、話すべきこと、話すべきではないこと、あなたは以前のように振る舞うことはできません。思ったらすぐ口にするようなことは!」
「で、でも、公瑾はすでに、ぼ、わしを認めているし、わしもなにも話してはいけないようなことは……」*
「主公にはしっかり君臣の分を心に刻んで頂きたい」
 孫権の目に涙がたまってきた。
「お兄ちゃんはあなたを兄と思えと言っていたあなたを臣下と思うとは言ってない。お兄ちゃんの話を聞き間違っていたから、あなたも弟とみてくれないの?」 
 周瑜は眉間にしわを寄せて厳粛な表情をしていたが、孫権のその話を聞くと、気が抜けたようにくたりとベッドに横たわった。
 孫権は好機とみるや、慌てて言う。
「お兄ちゃんはあんなに突然に亡くなってしまったんだ。ぼくは呉侯になるなんて思いもよらなかった。公瑾、ぼくを助けてよ」
 周瑜は厳しい表情に戻ることはなかった。ただ顔には失意の様が残っていた。
「仲謀、さっきの話は、無論誰に対しても、持ち出してはいけないよ。それから一つお願いがある」
「なんのお願い、公瑾言ってみて」
「わたしは伯符にもう一度会いたい」
「あぁ、公瑾。何のお願いでも聞いてあげたいけれど、これは無理だよ」
「どうして?」
 周瑜の声は震えた。
「お兄ちゃんが亡くなる前に言いつけていたんだ。顔を怪我していたから、お棺に安置しろ。もし人が会いたいと言っても、みんなに見せるなって。お兄ちゃんは世間の人の心の中で完美な印象を残したいと望んでいたんだ。お兄ちゃんの棺桶はすでに遺言通り開けられないように釘で打ち付けられている。この前お母さんが悲しみがつらすぎて、棺を開けて見ようとしたけれど、棺桶を傷つけて終わったよ」
 孫権の話を聞きながら、周瑜は歯を食いしばり、一声も声をださなかった。
「そうだ、お兄ちゃんが亡くなる数日前、建業に絵の大先生が来て、お兄ちゃんが彼を召して似顔絵を描かせたんだ。絵は十分に似ているよ。もし欲しかったら、もってこさせるよ」
 周瑜は俯いて無言だった。しばらくしてやっと口を開いた。
「ありがとうございます。主公。主公、明日わたしと一緒に驍騎、虎騎の二営を視察に行くのはどうですか?」
「行かない」
 孫権はあっさり断った。周瑜は驚く。孫権周瑜に向けて笑った。
「もし公瑾が今晩ここで休んでいくならぼくも行こう。公瑾が将軍府を出たり入ったして疲れるのを免れるし、明日視察に行こう。どうだろう」
 周瑜はまず断ったが、孫権が何度も頑張るので、仕方なくそうした。
 夜には孫権は一緒に寝たいと言った。周瑜も反対しなかった。
 二人が静にベッドに横たわった。まもなく孫権は眠気に勝てず、こんこんと寝入ってしまった。眠った後は手足はばらばらになり、手と足が周瑜の身体の上に投げ出された。周瑜は ただただ頭上の帳を見つめ続けていた。四時間後やっと眠れた。


孫権の一人称が我と孤(諸侯などがもちいる)と混じっています。今後は孤です。わし、老けて感じますな。