策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 七十一 需要愛先生「思為双飛燕」

四十八章 問情  気持ちを問う

「主公はまだいい足りないことがあるのですか?」
 周瑜は無表情で机の所に座った。
「わしは公瑾が怒っていることをわかっている。これはもっともだ。わしは大事を誤らせる寸前だったのだからな。しかし、公瑾、あの日の江沿いでの酒宴で、わしははじめて見た、あなたがお兄ちゃんが亡くなってからあのように思う存分気ままにふるまい風情のあるさまだった。あなたは蒋幹を騙すのにほかならなかった。けれども、まさかこんなにも楽しそうな公瑾は長いことみたことがなかったのではないか?」
「主公はいったい何を話したいのですか?」
 周瑜は冷笑した。
「わたしが子翼を特別な目で見ているとでも?孫家のものは子翼を特別な目で見てはいけないとでも?それとも主公自ら駐屯地に侵入してくるのは不変の道理とでも言うのですか?」
「ちがう」
 孫権は前のめりになった。目はきらきらと周瑜を見ていた。
「ぼくが思ったのは公瑾は昔のようにふるまってもいいんじゃないかとね。もう気鬱に悩まなくてもいいと思うんだ」
「……」
 周瑜はやや眉をひそめると言った。
「わたしは鬱々となんてしていません」
「あなたは他人を騙せても僕を騙すことができるのかな?わしは小さい頃から公瑾を知っている。昔お兄ちゃんが存命の頃、あなたたちはふたりでなんと楽しくすごしていたことか、いまはあなただけ残されひとりぼっちで、当然淋しいわけだ」
 周瑜は目の縁を少し痙攣させた。
「私の家は家族も多くて、どうしてひとりぼっちといえるでしょう。主公はそろそろお帰り下さい」
「そんな追い返そうとしないでくれよ。わしはまじめな話をしている。公瑾見てみろいまのあなたは眉をよくしかめている。以前はめったになかったのに。こんなに大きい都督府もこんなにひっそりとして、小喬夫人を除くと侍妾を何人も囲っていないのではないか。あ、わしはそのたくさん侍妾を囲えといっているわけではないぞ。わしはただ公瑾が□□に無関心で、眉間に寂しさを漂わせて、わしの目から見て、至急助けたいことなのだ」
「……」
 周瑜孫権を中に入れたことを後悔し始めていた。そして、孫権が話し終わるや、テーブルから茶碗を取り、水を飲んだ、ちょっとの時間では離れないぞという様子である。
「主公はお話は終わりましたか?終わったのなら、わたしは休もうと思います」
 周瑜はさっと立ち上がった。もう孫権と同じ所にはいるまいと決めた。
 孫権は水を一口飲んだだけで、お腹いっぱいに話したいことがあった。まさか周瑜が突然立ち上がるとは、孫権は急に挫折してがっかりし、ひどくいらだった。毎回こうなのだ。いつも孫権があと一歩の所で、周瑜は泳ぐ魚のように尻尾を振って逃げてしまう。孫権だけがひとりで水面に残った波紋の輪をみつめるはめになる。
 周瑜は上半身をやや傾けて、片脚を踏み出そうとしたとき、突然鼻に何かぶつかった。一目見てびっくり飛び退いた。目の前には孫権のどアップの顔があった。近すぎて表情ははっきりとはしないが、耳元に孫権の歯ぎしりする音が聞こえた。
「公瑾わしの話を最後まで聞いてからにしなさい」
 周瑜は一瞬固まった。ここ数年来孫権はいつも休みなく悶着を起こして、しつこくこだわってきた。しかし、まだまじめに話したことはなかった。このような命令的な話しぶりは、本物の主公が家臣に号令を下すようで、周瑜の第一の感覚は居心地が悪いというものだった。第二にはぼうっとした。第三にはまだ感じないうちに、突然腕で抱きしめられた。孫権が腕を伸ばして周瑜のことをかき抱いたのだ。きつくとてもきつく。周瑜は手が体の側面に張り付き、抱きしめられてからは、ぜんぜん動くこともできない。
「主公!」
 周瑜が慌てて顔を背けると、鼻息が交わることはなくなった。
 孫権は話さず、しばらく黙っていた。周瑜の心は慌てて混乱し始めていた。長いこと二人の接し方はいつも周瑜が建議し、孫権が頷く。あるいは周瑜がお説教して、孫権がふてくされる。周瑜はもはや不変の道理と思い慣れてしまっていた。そして、孫権が頷きもせず、ふてくされてこのようになる日がくるとは思いもよらなかった。孫権が主公の威厳を示して自分を圧迫してきたら自分はどのようにしたらいいのかも考えたことがなかった。根本から起こるのが不可能なことだと考えていた。
しかし、孫権は長いこと声も出さず黙っていた。あたりには心臓がどきどきする緊張感がみなぎっていた。周瑜は待っていた。孫権が再び口を開くのを。彼のこの語気、この動作、いったいなんのためか?
 孫権は口を開いた。声は掠れて、情欲が透けて感じられた。
「わしは明日朝議に出ない」
 周瑜は大いに衝撃を受けた。
「なりません!主公!」
 できない!この二人では不可能だ!周瑜は溜めていた力で藻掻き始めた。孫権が突然こんな話を言い出して、周瑜は驚きの余り心は麻の如く乱れた。そして、思いもよらない力で藻掻いたので、ばたんと床にひっくり返った。
 孫権はすでに開放していた。周瑜は転んでから、ぼうっと起き上がって、孫権と向き合った。不意に孫権の目に知らぬうちに涙がたまっていたのに気づいた。苦しげな顔で、非常にかわいそうに周瑜を見ていた、声は嗚咽しながら掠れていた。
「わしは江東の主なのか?公瑾、あなたはわしをなんの江東の主だというのか?」
 孫権は続けて言った。
「あなたはわしの話を聞く我慢する気持ちさえ持っていない。わしが朝議にでたとて、本当に主公だとおもっているのか!わしがもし間違ったことをしたり、間違ったことを言ったら、あなたとぼくの間で、なんの気兼ねもなくまっすぐにはなすだろう。あなたがわしにこんな風にするとは、わしをなんだと、おもっているんだ?」
 周瑜は言葉に詰まった。完全に何と話していいものかわからず、ただただ立っている足元を見つめた。
「あなたがもしわしに完全に気持ちがなくても、又どうして気持ちがあろうがなかろうがわしがあなたに頼るのは、いつもわしにいろいろと優しくしているからで、公瑾あなたはとても狡いよ」
 孫権の語気はまるであまえるようでもあり惑わすようでもあった。
「あなたの心の半分でもわしを受け入れないのに、一方ではわしのあなたに対する依存や夢中になる気持ちを受け入れている。清く正しくいたい姿勢をとることで、結果わしを輾転反側して眠れなくしている……公瑾、あなたはそんなに聡明なひと、どうしてわしに諦めさせる方法を考えつかないんだ。その実、考えたくないんだ、そうじゃないのかーー」
「わたしは」
「その実どうして逃げる必要がある?公瑾わしを真っ直ぐ見るんだ、この世であなたと心が通じるものがいるとしたら、あなたのあらゆる苦しみを理解できる、それはわししかいない。ほかにわしのように深くあなたを理解して、過去現在にこだわらない。子敬はあなたの親友だが、ただし永遠に理解できないだろう、周公瑾は永遠に孫伯符を愛すの言葉を」
 周瑜の目は急に大きく見開かれた。ひどく驚いて孫権を見つめた。その言葉は一生心に刻みつけて忘れられない誓いの言葉だった。ひそかに孫策との間で誓ったのを、どうして孫権が知っているのか!
「あなたはどうしてぼくがしっているのか知りたいよね?ぼくは部屋の外にいたんだよーー」
 周瑜はちょっと思い返してみて、顔色がにわかに一変した。後ろにふらふらとよろめいた。
「うん。思い出したかな。ぼくはあなたが忘れていないと思うよ。違いない。そのときぼくも部屋の外にいたんだよ。公瑾覚えている?そのときぼくがいくつだったか?」
 周瑜はいきなり座り込んでしまった。
 孫権の顔色は粛然とした。
「公瑾、あなたは恐れなくてもいい。これは孫家のプライベートだ。わしとて口には出さない」
「仲謀……」
 周瑜の声は少し震えていた。
「公瑾、あなたはわしに借りがずいぶんあるよね。でも気にしない。わしが一つ要求するのは……」
 周瑜は沈黙した。
「一つの小さな取るに足りないな要求だ。わしもあなたと同じベッドで眠りたい」
 孫権はちょっと考えて付け足した。
「前みたいな感じでいいんだ」
 その夜、孫権は気持ちよさそうに都督府のベットに横たわっていた。となりには布団に包まった周瑜が背を向けて、声もたてずに静かにしていた。
「公瑾?」
 孫権は小声で言った。
「公瑾わしは知っておるぞ。あなたがねむっていないって」
 周瑜は声をたてなかった。
「公瑾ぼくらは布団をいっしょに被ろうか」
 周瑜は動かなかった。
「公瑾あなたは自分をぐるぐる巻きにして蚕の蛹みたいにする必要があるのかな?」
 ついに口を開いた。
「主公、夜も更けました。お休み下さい」
「あなたがわしのそばにいてくれて、わしは眠れないのだよ」
「……それでは、わたしは他に行きます」
 周瑜は身を起こそうとした。
「わしは冗談をいったのだ。あなたが去って行くならわしは明日の朝議に出ない!」
 暗闇の中、孫権はかすかなため息を聞き取った。しばらくして孫権がまた言った。
「わしの布団も取られた。わしは風邪をひいてしまう。公瑾の布団をわしに貸してくれ」
「主公」
 周瑜はちょっとためらってから口を開いた。
「わたしは□□するつもりはございません。さらに主公を冒涜したくもありません。主公は早くお休み下さい」
「冒涜?」
 孫権はちょっと驚いた。
「何が冒涜だ?ねぇ、おかしくないか」
 周瑜は答えなかった。ただうつらうつらした呼吸が聞こえた。
孫権は急いで、がばっと起きた。ごろっと周瑜の方へ向きをかえると、目線が周瑜と重なった。やっぱり周瑜の目は見開いていて、目は明るく表情も落ち着いていた。
「わたしは主公を犯すことはできません。主公は別の方を探してください」
「ぼくを犯す?どうしてあなたがぼくを犯すことになるんだ?」
 孫権は口を大きく開けた。
「まさかぼくがあなたを犯せないとでも?」
「主公のおっしゃる通りです」
 周瑜の声は淡々としていて、口では主公のおっしゃる通りといいながら、完全には賛成しかねる様子であった。
「待て待て」
 孫権はしばらく間を置いた。そして、一字一句ずつ言った。
「あなたが言っているのは、つまり、わしにーーその能力がないと?」
「わたしはそこまでは言ってません」
 周瑜は眉をひそめた。
「そこまでは言ってません?あなたが言っているのはそういう意味じゃないか!」
 孫権は驚いた。
「違うんだ。公瑾あなたはなにを考えているんだ!わしは正常だ!わしだってできるんだあ!あああああ!」
 真夜中に、大都督府の寝室から呉侯の悲鳴が聞こえた。続いて殴る蹴るの音、何かが投げつけられる音、物が落ちる音がし、最後に部屋の扉がばたんと閉められる音がした。
 周泰が慌てて見に来ると、寝室の中にいるはずの孫権がなぜか寝室の外に立っていた。扉は閉じられており、孫権は悲しみでいっぱいの表情をしていた。
「なるほど、そうだったのか!」
 周瑜はかたくなにわしに病気があると信じているのだ。なるほど相手にしてくれないわけだ!かれがときどき哀れそうにぼくを見るわけだ。
 孫権は手を伸ばして周瑜とのケンカで乱れた髪を整えた。
「幼平、そなたはもし大都督とガチでやるなら、どちらが勝つと思う?」
「それは!」
 周泰は困った顔を露わにした。
「それがしには恐れ多いことです」
「もしわしがどうしてもやれと言ったらどうだ?そうだ。大都督は毛ひとすじほども傷つけてはならぬぞ。生け捕りにするのだ」
「あーーそれがしはだいたい七、八分理解しました」
「それなら良し」
 孫権は寝室の扉を指した。全身が震えるほど怒っていた。
「そなたは今すぐ、わしに代わって周瑜を捕まえよ!」