策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 五十八 需要愛先生「思為双飛燕」

三十五章 奔喪 葬儀に駆けつける(上)

 張昭が内殿にはいってきたとき、孫権が霊堂で跪いたままぼうっとしているのが見えた。顔にはまだ涙のあとが乾かずに残っている。
「アイヤー。主公、いったいいつだとお思いですか。あなたはまだここで泣いているのですか」
 張昭は話し方も急で、礼にも適っていなかったが、手を伸ばして孫権を引っ張った。
「なにがいつだって?」
 孫権はぼんやりと顔を上げて張昭を見た。
「城の内外では、いたるところで人心は不安で、民は恐れ慄いております。主公は軍を閲兵なさり、威儀を示して江東は乱れることはないということをお示しになるのです!」
 江東が乱れる、と聞いて孫権は震えた。一気に目が覚めてきた。
「主公、先に顔を洗ってはどうですか」
 張昭はため息がちに言った。
 銅盆が運ばれてきた。孫権はかすかに揺れる水面を見て、なかには悲しみで気落ちした、まだ若い顔が映し出されていた。お兄ちゃんの活き活きとした威厳にみちたいつもの姿が思い出された。誰がこんな顔の主に付き従いたいものか!未知なる恐怖と同時に巨大な使命感が混ざっていた。孫権は全身を震わせていたが、無理やり落ち着かせようとしていた。ぶるぶると震える手で盆の水を掬い顔を洗う。繰り返し擦ってから、地下室から氷の塊をいくつか持ってくるように命じた。腫れたままの目では出て行けない。
 そのとき、孫権はついに意識できた。彼が本当の江東の主になったのだと。それまで、お兄ちゃんの後ろに立って、お兄ちゃんが風を呼び雨を降らせる神様のように眺めていた、みんなに愛され、押し上げられていたのをずっとみていた。孫権は一日とて考えたことはなかった、お兄ちゃんが立っていたところに自分も立ちたいとは。しかし、自分は孫権で、孫策ではないからなぁ、どうしたらいいのだろう?自分はどうしたら別の神様のようになれるのだろうか?戦功も、名望も乏しいし、誰が自分に心服するだろう?
 冷たい氷が孫権の痛む両眼を刺激した。お兄ちゃんの遺言が耳のあたりで繰り返し響いた。一字一句刀で刻み込んだように孫権の心中にあった、一生だ。竹簡は要らない。心の中で繰り返した、死んでも忘れない。
 宦官が孫策の兜を取ってきて、孫権に被せるのを手伝った。内殿の外には棗色の背の高い大きな馬が新しい呉侯の巡営を待っていた。馬の背に跨がったとき、孫権は周りを見渡した。わずかな人が自分の側に立っていて、彼らは切なる願いがこもった目線で自分を見ていた。
 孫権は歯を食いしばり手を振った。
「出発!」
 数日来、孫権は自分でも完全に情緒をコントロールできていると思っていた。しかし、周瑜がやってくると知り、まるで小さい頃に戻ったかのようになった。あのお兄ちゃんの着物の角を引っ張って離さないでいたチビ、遊び友達もなく、ひとりぼっちで、部屋の中で読書するのが好きな、こんな自分を周瑜は認めてくれるだろうか?
 張昭は話した。周瑜は巴丘から一万の重歩兵を連れて千里を戻ってくるのだと。一万の重歩兵ですぞ。これらはみなお兄ちゃんの麾下の精鋭だった。さらにいうまでもなく建業にいる武将たちは、多くがお兄ちゃんをいつも補佐してきた周瑜に心服していて、孫権にではなかった。
 周瑜はお兄ちゃんと過ごしてきた情というものがあったけれど、しかし自分にはどうだろうか?彼は補佐することを承知するだろうか?孫権は細かくいままでのことを数えてみた。認めたくはないにもかかわらず、認めざるを得なかった。周瑜は今まで自分を気に入ったことはなかった。少なくとも特別好きなことはない。彼はお兄ちゃんに比較的似ている三男の阿翊のほうが好きみたいだし、妹の尚香はさらにあれこれと可愛がっていた。自分に対しての笑顔や親しみは今考えると普通のことで、子どもにたいするのと何一つ変わらない。
 孫権はだんだん気落ちしてきた。考えれば考えるほど望みがないと思えてきた。喪に服して間もない辛くて悲しい呉侯の位への恐れにさらに落ち込みと絶望が加わった。もし周瑜が自分をお兄ちゃんのあとを継ぐものに相応しくないと思ったらどうしたらいいのか?
 孫権は思わず深く恨み始めた。いつもは周瑜に自分を敬服して慕って欲しいと願っていた。しかし、一度も成功したことがない。現在となっては、公瑾お兄ちゃんがどんな理由でお兄ちゃんと同様に自分を、敬い、慕い、自慢する目つきで見ることがあるだろうか。一度もそんなことはこの身にあったことはない。それでは、今後は?
 考えると頭が痛くなって思ったことも出てこなくなる。あるいは周瑜はお兄ちゃんの遺言を見て自分を助けようとするだろうか。それも周瑜のいつもの人となりには合っている。そうだとしたら、自分は兄の庇護を続けて受けられる。孫権は苦しみ悩んだ。どうして以前の自分は周瑜を孫家の人と見なしていたのだろう。彼は明らかに孫策の人だった……。
 慌ただしい足音が霊堂の外から起こった。孫権は霊堂で跪いていた。手には印綬を持ち。もうすぐわかるだろう、周瑜が自分を主公と認めるか否か。それ以降のことは、考えたくもなかった。もし周瑜が自分を補佐してくれるなら皆もちろん大喜びだ。もしかれがそうでないのなら、恐らく今後は平和な日々はこないだろう。
 お兄ちゃん、仲謀の努力がたりないのではないよ、お兄ちゃんが本当に突然に早すぎるからだよ。仲謀はあなたの公瑾を信じないわけじゃないんだよ。これは公瑾がじこの仲謀を助けるかいなか、実際はかりがたいんだ。
 霊堂には孫氏の百人の決死隊が埋伏していた。孫権はわかっていた。自分が周瑜を縛り上げても、彼の率いる配下が自分のいうことを聞かないと。今建業はほぼ手薄で、孫氏の外からの助けはまだ到着せず、一万の兵士に将軍府はぐるりと包囲されていた、とても厳重に。
 公瑾よ、これはあなたをこうしたいと望んでいる訳じゃないんだ。ただあなたがもしいままでのように忠節を尽くさないならば、お兄ちゃんの遺言に背くし、二代の心血をむざむざと捨てる訳にいかないんだ。それで、周公瑾と孫仲謀は一緒に、九泉のもとのお兄ちゃんに謝罪しようか!われわれ兄弟三人仲良く、前みたいにさ!