策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 五十三 需要愛先生「思為双飛燕」

三十章 剿匪 匪賊を討伐する
 
 孫策は一路南下してすぐに、昔住んでいた曲阿に攻め込んだ。重歩兵が守っているわけでもなかった曲阿はもとは孫策の叔父さんの呉景の持っていた地盤だったので、軽々と取ることができた。孫策はみなの意見を求めて、最後には江南で募兵し、応じてくる者を集め、ついには二万以上に膨れ上がった。将軍達も腕が鳴り、一気に江東を飲み込もうとするつもりだった。しかし、彼らの前には障害があった。呉郡一帯で厳白虎と呼ばれているものがあり、数万の人を集め、大変凶暴であった。
「厳白虎は恐れるに足りず!」
 孫策は大きなテントの中で強く叫んだ。
「これは山賊匪賊の類いです。どうして、賢く武勇に優れ、智勇双全の孫将軍と肩を並べることができましょう、みなさま心配することはありません」
 周瑜孫策の側に立ち目元に笑みをたたえながら、意気風発、なにも隠し立てすることなく孫策を褒め称えた。
「公瑾の言うことは正しい」
 孫策周瑜からの称賛を笑納した。
「オレもみなの心配は無用だと考える。戻ってよくよく休んでくれ、数日後にはなんとかして厳白虎を捕らえてみせるからな」
 孫策は天を仰いで大笑いし、周瑜は頷いて微笑んだ。主帥がこのように自信満々でいるのを見て、みなもやっとやや安心した。
恐れるに足りず?孫権は心の中で突然ちょっとドキッととした。自分もお兄ちゃんにくっついてこんなに長くいるが、まったく手柄を立てられずにいる。本来孫権は早くに自分の担当する陽羨に帰りたかった。さらに何日か前に周瑜の叔父さんの周尚が手紙を寄越して、袁術周瑜に対して勝手に兵を率いて孫策の江東を攻める助けをしていることをたいそう不快に思っているので、周瑜に速やかに丹楊に戻ってこいと書いてきた。周瑜自身も数日したら帰ると言っていた。
 孫権は自分はまだなにもことをなしていないのに、周瑜がもう去ってしまう!孫権は思わず少々焦っていた。ぼくの周瑜の心の中での印象はどうなるんだ?あの軍棍での刑罰の他、周瑜はまともに孫権を見ていないようだ。
 だめだ、絶対だめ!
 孫権の気持ちはすでに固まった。急に立ち上がって孫策に言い出した。
「お兄ちゃん、ぼくも兵を率いて匪賊を討伐するよ!」
「おまえが?」
 孫策はちょっとびっくりした。
「そうだよ。ぼくだって兵を率いて厳白虎を討ち取れるよ!」
「それはな……」
 孫策は眉根にしわを寄せた。
「このことは後でまた話そう」
 
 夜に孫権はまた孫策のテントにやって来て硬軟取り混ぜて作戦を語った。自分も成長したし、孫策はこのぐらいの年齢の頃には兵を率いてあちこちに戦に行っていたし、自分もたくさん鍛錬しなければならない、と。
「話していることはその通りだ」
 孫策は頭を振った。
「けどなおまえは小さい頃から勉強の方が好きで、戦でやりあうとかはおまえの得意なところではないんじゃないか、そうだろう」
「公瑾だって勉強とか好きだし、さらには音楽とか鼓吹がお気に入りだけど、彼だって兵を率いているじゃないか」
 孫権は納得しなかった。
「おまえはどうして公瑾と比べられるんだ」
 孫策はちょっと馬鹿にした笑い方をした。話の途中で、声がした。
「わたしがどうかしたと?」
 入口の垂れ幕が開かれ、周瑜が身軽な青い絹の長袍を着て入ってきた。孫権が振り向くと、思わずぽーっとなった。周瑜は長い髪を結わず、黒くて長くてつやつやとした髪を肩に靡かせていた。髪は端のところでふんわり結んでいるだけで、青色の長袍もゆったりとしていて、裾と袖口に鮮やかな湖藍色(ブリリアントブルー)の枝葉の刺繍がしてあった。周瑜がそろそろと歩くと、テントの中のぼんやりとした灯りに照らされて、はっきりと長身が美しく、ふらりと現れて目を引いた。
 やっぱり美周郎だなぁ。別人がこう呼ぶのはとてもぴったり合う。孫権は自分が幼い頃初めて周瑜に会ったときのことを思いだした。よだれがまたすぐに流れ出してきた。
「仲謀が兵を率いたいとな」
 孫策はあわただしく周瑜に向かって言った。
「おまえのことをなんとか言っているんじゃなくてな、おまえと同じように戦場を行き来したいだけなんだ」
「え?」
 周瑜は眉を上げ、孫権の方へ振り向いた。
「仲謀にやる気があるのはいいことだ」
 孫権は灯りに照らされたひどく美しい美周郎を一目見るなり、心臓が激しく脈打つのを感じた。
「ぼく、ぼくも公瑾と同じく……」
「伯符はダメだというの?」
 周瑜孫策の机にあった食べかけの砂糖漬けのドライフルーツを取り上げ、直接一口食べた。
 意外にもお兄ちゃんの食べかけたものを食べるんだ、孫権の目はまっすぐ見つめていた。
「だめだな」
 孫策は頭を振った。
「ぼくがどうしてだめだって」
 孫権は飛び上がった。
「ぼくだってできるよ!」
「きみ、仲謀ができるかどうかどうして試してみないんだ?」
 周瑜は後押しした。
「雛鳥がついに羽を広げる日がやって来たのかもよ」
「そうだよ」
 孫権はニンニクを搗くが如く頷いた。
「公瑾、あ、あなたがもし試したなら、わかるだろう、ぼ、ぼくが本当はお兄ちゃんと同じように、ぼ、ぼくもできるって」
 声はだんだん小さくなって最後は蚊が鳴くくらいのちいさなものになった。孫権の顔は更に赤くなり目は足元を見て顔も上げられなかった。彼は話しながら、突然この話は二つの意味合いがあると気づいた。自分が戦うことができるというのは、自分もお兄ちゃんと同様に公瑾を手中に収めて抱きしめることもできると……。
 ついには孫策は裁可を下し、孫権に一隊の人馬を与えた。大軍ではなく、あたりに逃げた少数の匪賊を討伐することになった。しかし、孫策は最後に孫権に少し注意を与えたが、孫権ははっきりとは聞いていなかった。彼はさっきの二つの意味の話から抜け出せなくなっていて、こっそり周瑜の方を見ると、周瑜孫権の方をみてかすかに気持ちが込められてにこにこと微笑んでいた。周瑜のゆったりとした長袍の袖から出た腕はすべすべと滑らかである。公瑾は中に深衣(体の線が出ないように着るワンピース)を着ないのだなぁ。孫権は思わず恥ずかしくなってきた。
 夜になり、軍営中の者達はそれぞれすでに安眠していた。孫権はベッドに横たわりながら輾転反側しながら眠れなかった。急にカーテンのめくられる音が聞こえた。入口が半ば開いて、月光が一条入り込んだ。周瑜がふらりと来ていた。まだあの青い長袍を着て、中に深衣は着ていなかった。孫権が足元を見ると、なんと裸足である。
 周瑜は裸足で孫権のベッドに近寄り、にわかに蹲った。淡い月光に照らされて、孫権は彼がじっと優しさのこもった目で見つめているのが見えた。
「仲謀、きみは自分もできると言ったよね。これは本当?」
「本当さ、公瑾、ねぇ、あなた試してみないの……」
 孫権は身を起こそうとして、かえって周瑜に押さえ付けられた。周瑜の声は風の音のようだった。
「きみは動かないで、わたしが上になるから……」
 長い髪が解けて広がり、青い長袍はばさりと落ちた、磨いた玉のような胸があらわれて……。
 空の色がようよう白くなり、おんどりが夜明けを知らせた。孫権は目覚めて、自分が布団を汚したことに気づいた。嗚呼、一瞬の春の夢だったのかぁ。
 こうして、匪賊の討伐に成功すれば、自分だってやればできると証明されるんだ!孫権は決めた。ちっぽけな山賊なんて恐るるに足らず、お兄ちゃんが言うとおりだ、匪賊すらやっつけられないなら、公瑾がどうしてぼくのことを認めてくれようか!