策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 二十八 需要愛先生「思為双飛燕」

 彭城から曲阿までの距離はそれほど遠くなかった。ただし、道行きには威儀が必要だった。馬車の中に座っていくのは、早馬に笞をくれるよりは速くなかった。孫権は馬車のカーテンをめくって、頭を出した。傍で馬に騎乗している周瑜に言った。
「公瑾お兄ちゃんも馬車に乗りなよ」
 午後になり、一行は道端で休憩をとった。周瑜は傍に作りたての蒸し菓子を売っているのを見つけて、孫権に一個買ってあげた。孫権は小っちゃい手でちぎって、蒸し菓子を半分にすると、周瑜に半分に差し出した。
「公瑾お兄ちゃん、ぼくたちはんぶんこしよう」
 旅の途中、孫権はとても快活だった。周瑜は十歳の幼い孫権が周りに身内もいなくて、こんなに活発で人を喜ばせたりするので、とても安心していた。
 夜に彭城につくと、周瑜は宿駅を探した。翌日早朝に孫権を張昭の屋敷にあいさつに行かせるつもりだった。
「ぼくと公瑾お兄ちゃんが同じ部屋、その他の人に部屋一つね」
 孫権は宿屋の主人の前で飛び跳ねるようにして大声で呼ばわった。
 その実、孫権の考えはとっても単純で、公瑾お兄ちゃんと夜に灯りの下でちょっとおしゃべりして、一緒に寝るつもりだった。この時の孫権はもはや先の大いなる屈辱のことはきれいさっぱり忘れていた。公瑾お兄ちゃんは依然として孫権に優しい隣のお兄ちゃんだった。周瑜のつまらぬアイディアはもうどうでもよく、孫権には、家を離れ、お母さんから離れ、この一路管理するものもおらず、自由自在な旅が孫権を異常に興奮させていた。
 しかし、予想外のことに二時間後、孫権はまるで逃げるようにして自分の部屋から飛びだしてきた。
 ことの原因というのは~。孫権はベッドの上でのんびりと座り、壁に寄りかかって読書していた。部屋の扉がそっと押し開かれ、外側から周瑜の声がした。
「持ってきてください」
 しかる後、孫権は駅站の雑用係が二人して大きな木桶にお湯を運んで、ハァハァ言いながら部屋に入り、湯桶を置いてでていくのを見た。
 周瑜は部屋の戸をしっかり閉じて、くるりと衣桁の前に歩き、着ている物を脱ぎ始めた。
 孫権は目を丸くし口をぽかんと開けて、周瑜がするすると袍を脱ぎ、冠を外して、黒髪が解けて滝のように流れるのを見ていた。周瑜は袍をパッと打ち払い、衣桁にかけた。また、ついでに下駄も脱いでしまい、裸足でそこに立った。頭を下げて、中衣の帯を解き、中衣が半分脱げかけたところで、周瑜はドスンと音がして、驚いて振り返った。すると孫権が知らないうちにベッドから転げ落ちて額を床に打ちつけていた。
「仲謀!」
 周瑜は焦って孫権の傍により、手を差し出して助け起こした。孫権はこのとき床にちょつと隙間があればよかったのにと思った。隙間があったらもぐりこめたのに。
 ずっと前の記憶が脳内に鮮やかに浮かんだ。その時の周瑜はさらに繊細な少年の身体で黒々とした髪、薄紅い頬、艶々として涙がこぼれてきそうな眼、孫策の頬を撫でていた細くて長い指、それらが孫権を落ち着かなくさせた。焦ってドキドキする場面…… 。
 細長い指が伸びてきて、孫権の腕に触れた。孫権はやけどしたみたいに後ろに縮み上がった。そっと顔を上げると、周瑜の中衣の襟が大きく開いていて、胸のきめ細やかな白い皮膚が見えていた。周瑜は自分のことには意外に不注意で、きらきらとした眼で孫権をみつめていた。
 孫権は床を見ながら言った。
「な、なにするつもり?」
「うん?」
 周瑜はちょっと驚き、そして、笑った。穏やかに言う。
「一日中走ってきたから、仲謀、きみも疲れたろう。一緒に湯浴みしたほうがいいよ。わたしは家からちょっと珍しい石けんを持ってきたから……」
 周瑜の話がまだ終わらないうちに、孫権は即座に言った。
「自分だけ入れば!」
 起き上がって寝室の戸まで走り、閂をあけ、出る、くるりとバンと戸をしっかり閉めた。一気呵成だった。孫権は小さな手で自分の胸もとを撫で、心臓が速く脈打つのを感じた。周瑜がどうしてこんなに気ままなのか。湯浴みの時の遠慮というものをあろうことか知らないのか!孫権はそう考えながら、一方では自分の挙動にちょっと悩んだ。
 仲謀は他人と同室でいることに慣れていない、孫権が部屋から逃げ出して行った後、周瑜はそう結論を出した。
 それから、最後、孫権はその晩周瑜が沐浴した後、人に盆にお湯を持ってきてもらって足をゴシゴシ洗った。そして、服を脱がずに眠りについた。
 次の日の早朝、周瑜孫権の子ども用の錦袍をだしてきた。自ら孫権に着せかけ、また、細々と風采を整えた。孫権は窮屈さを感じたにもかかわらず、周瑜の温かい手のひらが身体の上をゆっくりと撫でていくのにはとても満たされた気がした。
 襟から、袖口からすそ、周瑜は……手で一通り撫でつけた。孫権はかすかに小さな顔を赤くして、微動だにせず座っていた。宿駅の門から馬車に乗り、周瑜に手を振って「いってきます」と告げた時、孫権はなおもちょっとぼうっとしていた。