策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 8 亮瑜啊亮瑜先生「伴君左右」

 この頃では、諸葛亮はのんびり気ままに過ごしていた。しかし、他のところでは赤い顔(関羽)と黒い顔(張飛)と趙雲が苦労していた。この人達が荊州に鎮座している間は誰も荊州を攻めようとはしないだろう。だが、諸葛亮は毎日自分の部屋に閉じこもったきりで、将軍達は自分のうちの大事な軍師を心配していた。
 趙雲は部屋の内側からかつてあの周瑜が弾いていた曲が聞こえてきたあと、すぐに関羽張飛の二人の将軍と対策を相談した。
「軍師が毎日部屋の中で周郎が弾いていた曲を弾くのは、常軌を逸しているのではないか」
「しかし軍師の琴は相当上達したものだなぁ」
 赤い顔は自分の美しい髭を撫でていた。
「あぁ?おれは軍師がなにを弾こうがかまわん。この軍師は兄貴が何度も何度もお願いして戦争のために引っ張ってきたんだ。琴を聞かせるためにじゃねぇ」
 黒い顔はびっくりするような大声で話した。
「しかし、われわれは軍師を放っておけませんよ……それでは、今夜われわれと軍師と一緒に集まりましょう」
 というわけで……、のどかな時間は得がたく、「軍師とわれわれでちょっと呑みましょう。どうですか」
と子龍が声をかけることになった。赤い顔はまだ美しい髭を撫でていた。
「よーよー酒か。あの風にも耐えられそうにもない軍師がどれだけオレより呑めるのかね」
張飛は酒と聞いて興奮していた。あの風にも耐えられなさそうな彼がじぶんよりちょっと上をいくということを忘れていた。
「まあ良い。今夜は軍師を引っぱり出さなければならない」
 趙雲は自分の計画に相当自信があった。

「飲み会?」
 諸葛亮は怪訝な顔で嬉しそうな趙雲を見つめた。
「そうです。関、張のお二方の将軍とこの子龍となかよく集まって、いまは平和ですから、この機会にたのしく一杯やりましょう」
「でも、わたしは……」
わたしは周瑜とデートで、今晩は月見をすることになっているのだがなぁ。
「軍師お断りなさるな。しからずんば、この子龍があの二方の将軍にどうやって言い訳をすれば……では、このように決まりましたな」
 早々に諸葛亮が断るのを見計らい、趙雲は言い終わると早々と逃げて行った。
 苦笑してため息をついた。この子龍は好意といえど、あいにくの今晩に飲み会に誘うとは……それに赤い顔と黒い顔とか、自分はむしろ周瑜一人と向かってなかよく月見をしてのんびりと過ごしたい。しかし、二方の将軍に失礼になるし、趙雲の好意も無駄にしたくないし……諸葛亮は振り向いて帳の向こうの周瑜を見て、微笑んだ。自分がもし行ったら、周瑜ももちろんついて行くことになるのだ。周瑜もついでに飲み会の参加者になればいいだろう。周瑜は流れのままに流される性格で、その夜諸葛亮について大広間までついて行った。ぴったりとくっつくことなく十歩の内にいた。
「軍師が来たぞ、早う早う座りなされ」
 張飛は大きな目玉を見開いて、大声で呼んで諸葛亮を自分のそばに座らせようとした。
 諸葛亮も断らず、笑って趙雲のそばに座った。張飛関羽の顔は別として、趙雲の顔を見ると少し赤くなっていた。すでに三人は飲み始めていたらしい。そこで断れず、趙雲の差し出してきた酒杯を受け取った。目はこっそりと後ろの入口の方へ向けていた。
 周瑜がそこにいた。
 周瑜は静かに入口のところに立っており、月光がその身を透かして地面を照らしていた。夜にだけ、彼は部屋から出ることができた。しかし、諸葛亮から遠く離れることはできない。今夜は諸葛亮は自分を連れてきてが、この飲み会を邪魔したくはなかった。だが、周瑜が一人で月見をするのを妨げるものもなかった。
 諸葛亮はここで酔いたくはなかった。少し呑んだだけでもう呑まなかった。趙雲らはいささか酔っていて再度勧めはしなかった。自分で呑んで酔って倒れそうであった。
(*ここぬけあり)

「公瑾、わたしと一緒に呑みましょう」
 二人は後院の石卓のところに座った。諸葛亮は準備よく酒を持ってきていた……張飛が好む強い酒を。口に含むと強烈辛い味が茶の味に慣れた諸葛亮の舌を刺激した。しかし後口はかえってまろやかで濃厚な味と香りがする……まるで周瑜のように。
 顔を振り向いて周瑜の月光の下ではそんなに透明でもない顔を見た。ふふふと笑う。そして、また一口含んだ。その実周瑜と一緒に酒を飲むというのは生きている人と同じことにはならないということは船にいる頃から知っていた。願いとは違っていても、呑ませたくとも呑ませられないのだ。だから諸葛亮も一人で一杯ずつゆっくりと呑んだ。
「公瑾……」
 周瑜は振り返ると、諸葛亮は眼を細めていて、酔っているのがわかった。あまり構いたくない。
「公瑾……あなたは……知っていますか、この酒は……公瑾のようですよ……同じです」
 諸葛亮は笑って冷たい石卓の上に突っ伏した。手指はざらざらとした石卓の上を琴を弾くように撫でていた。こっそりと目を上げて周瑜を見た。
「人を誘うような酒の香りが漂い……人を知らずして、一口味わいたい……呑んですぐに……辛くて熱くて……」
孔明そなたは酔った」
「……しかし余韻は……馥郁として芳醇」
「明らかに踏み入ってはいけないと知りつつ……かえって我慢できずに手を伸ばしてしまう……欲しい、あなたを捕まえたい」
「でも捕まえられない……今まさに知る、わたしの愛の深さを……」
 周瑜は諸葛亮の悲痛な笑みをみて、だんまりを決めた。彼はこんなに悲しみを表して笑う人を見たことがなかった。いわんやそれが凡俗からぬけだしたかのような諸葛亮である。かれはこのような諸葛亮を理解できなかった。しかし、以前の洒脱な仙人の如き臥龍の彼もわからなかった。
 伯符は生まれつき勇猛で、豪快で率直。子明は人に優しく誠実な付き合いができる。諸葛瑾は真面目で実直な人柄だ。
 諸葛亮周瑜には見通せなかった。その微笑みが……人とは深みが違っていた。
 以前に諸葛亮がもつ自分への感情に触れたとき、自分は確実に驚いた。まさかあのいつも自分を揶揄うこの男が自分に恋しているなんて。恋しているのは自分と同様の男子で、呉国大都督の自分である。しかし、自分はもう死んだことも知っている。そして現在諸葛亮のそばから離れられないでいる。自分と彼とは始終親しくもなかった。彼はどうしてこのように自分に執着するのだろう。
孔明……わたしはどうしたらよいのだろう」
 周瑜は諸葛亮の薄目を開けた顔を見つめて問うた。彼に聞いているのか、自分に聞いているのかは周瑜にもわからなかった。
 探るように手が伸ばされ、諸葛亮が自分の顔を撫でたときと同じくそっと手を諸葛亮の手に重ねた。諸葛亮に触れられないものの人の温かさが伝わってきて、周瑜はふわりと微笑んだ。
 この時趙雲は尿意を催して、ふらふらと大広間から出てきた。ちょうど諸葛亮が酔って後院の石卓に倒れかかっているのが見えた。まず彼を先に送って行こうと、近づいていくと、諸葛亮がうっそりと目を向けて、口許にはずるい微笑みを浮かべていた。
 この笑い方は趙雲の酒を徹底的に醒めさせた。そこで、大広間に走り込んだ。酔っている二人の将軍を揺らして起こし、うちの軍師が何かに祟られている。われわれは道士を呼んだ方がいいのではないかとかなんとか。
 周瑜はこのことを知らず、しかも諸葛亮もしらなかった。だから次の日、諸葛亮が罪のない笑顔で趙雲に話し掛けた。
「子龍今日も早いですね。二日酔いで頭は痛くないですか」
 赤い顔と黒い顔は趙雲に飲み過ぎて見間違えたんだよ、と言った。