策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生13

「踏歌」

 孫策袁術に従い席につき、座ると俯いて何杯か酒を飲み、下がりますと告げた。
 袁術はいくぶん酔っており、彼の手を取った。
「何をそんなに急ぐことがある?」
 孫策は少し笑った。
「軍営を騒がせたものはすでに斬りましたが、それから処理しなければならないこともありまして」
 袁術は軽んじて言った。
「どうしてそこまで管理する必要がある。そなたはここにとどまり、事件は他のものに任せるがよかろう。今夜はきっと歓を尽そうぞ」
 孫策は彼の手を覆って小声で答えた。
「わたくしめの衣と鎧は血にまみれており、主公と太傅と同席するのに相応しくありません。今夜は歓を尽くせなくとも、
別の日に必ずやおわびしましょう」

 袁術もそれ以上はひきとめず、彼が去るのを見ていた。
 ある近臣はかれの不快な表情を見て取り、近づいて媚びへつらった。
「主公、今夜はわたくしが稀なる歌舞を特別に準備しました。ご覧に入れてもよいですかな?」

 舞姫達が雲の如くひょうと宮殿にはいってきた。長い上着と広い袖で、一身朱や翠といった出で立ちで先ほどと同じではなかった。
 簫や管楽器の音がささやかで鐘の類いの音も緩やかに変わった。漁師の家の女達の上着と笠を身につけ、顔の薄布の中には花の如き笑顔があり、薄紅色の中衣、蓮の青の袴、雪白の腕と赤裸々な脚が見えていた。俯いたり仰のいたりすると、脚や腕につけた金の鈴が軽やかに鳴っていた。
 まさしく呉の地の踏歌(古代の歌舞)である。

 袁術は俄然興味を持った。このとき酔いも回っており、鈴の音にあわせて手を打った。
 音楽が止まると、舞っていた女達は蛇の如く彼の懐に滑り込んだ。彼は大笑いして彼女の腰を抱きしめて、芳しい息と、胸の起伏を感じた。息はまだ整わず、足下からは金の鈴がリンリンと鳴っている。
 袁術は女を抱き、機嫌の良い笑い声をたて、舞姫は彼のために酒をたっぷりと注ぎ、口もとに近づけた。
「殿もう一杯いかが?」
 俯いて見ようとしない馬日磾は眉をしかめていた。

 孫策の住むところは袁術が褒美として与えたものだったが、袁術が来るのははじめてだった。
 庭は清浄で風雅、青緑の竹が手入れされていた。策は竹で、まさにぴったりだ。
 彼が来訪したとき使用人はびっくりして、急いで迎えた。
「孫郎はまだ軍営におりまして、まだ、帰っておりません」
 袁術は笑っていった。
「かくも勤勉とは、まぁよかろう」
 また特別に命令した。
「わたしが来たことを言うなよ」
  
 皆の者は唯々諾々と従い、外で警護にあたり、袁術は室内に入っていった。
 孫策はまだ妻を娶っておらず、家の中には人はいない。しかも、世話をする侍女たちもいなかった。袁術が見たところ、己に対して厳しすぎるように思えた。
 しかし、このようなのも悪くない。彼は大いに飲んだ。また冷風が吹いていたが、頭痛がして、気にならなかった。孫策の寝台で寄りかかり休んだ。ぼんやりと外で馬の嘶きと話し声が聞こえ、孫策が戻って来たのだと想った。身は起こさずそのままで、待っていた。
 暫く待っていたが、庭の方が静かになっても、孫策は入ってこない。袁術は待っていられずについに、寝台から起き上がり、部屋の半ばまで歩いたところで、戸が開き孫策が入ってきた。
 彼は髪を解き、靴を脱いで、白の中衣を着ただけで、身体からは温かみと湿り気、石けんの香りが漂った。さっき沐浴してきたばかりなのだろう。

 使用人はよく言いつけを守ったらしく、孫策袁術を見てびっくりした様子だった。すぐに揖礼した。
「主公はどうしてここに?」
 袁術は手を伸ばして孫策を助け起こした。
「わたしとそなただけであるのに、主公でもあるまい」
 彼は「策児」と呼んだ。そして、孫策の広がった髪を撫でた。
「身体についた血は洗い落とせたのか?」
 孫策は答えた。
「はい。さっき着換えました。袁叔叔は宴は終わったのですか?夜も遅いのに、なぜわざわざいらっしゃったのですか?」

 先ほどの孫策は鎧兜に身を包み、一挙一投足に凶悪さが満ちていた。駿馬の後ろには大勢の兵士を従え、かんかん燃える火の光の下、キリッとつり上がった眉ときらきら光る眼、整った面立ちに勇敢さを加えていた。さらには傲慢ささえ薄らと見えた。

 今では灯りもほの暗く、彼は袁術の前で薄物だけを着て、髪には湿り気を帯び、顔には沐浴後の淡い紅みさえあった。たちまち、家が没落して頼るものがなく、彼に身を投じてきて、安定しない立場にある少年に戻った。

 その問いは明らかにわかっていて訊いていた。
 袁術はその身が熱くなるのを感じた。
 片手を少年の肩に回し、もう片手で首のあたりをさすった。
 それから夢中で顔を近づけてきて、耳元で囁いた。
「今夜、歓を尽くそう」