策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生4

「白露」

 袁術は贅沢が大好きだ。贅沢をひどく味わったし、それに、恥とも思わなかった。
 どうせ彼は享受できるのだ。
 彼は生まれつき錦衣玉食の公子だったし、小さい頃から褒めそやされ、仕官の道も順調で、乱世の中でも易々と食い扶持を得ることができた。自分に対して十分自信がある。

 彼の寝室は、もちろん屋敷でもっとも華美な場所である。
 山吹色と深紫の薄い帳が張り巡らされている。室内で燃やされた香がやすやすと広がらず、香りはたおやかに濃く薫った。しきりには鍍金の銅のいろんな格好をした鶴が置かれ、長い嘴に銅の灯りを銜えていた。灯火はゆらゆらと揺れて定まらない。
 彼は寝台の錦織の布団をめくりあげ、俯いて寝台の上の人を見つめた。

 袁術の寝台はとても広く金の飾り玉の枕、水色の薄い布団の上には深紅の蓮の花たちが刺繍されていた。
 何本かの紅の蓮は乱れて一箇所にねじれていた。寝台の足に積み上げられていた。少年の丸みを帯びたつややかな踝は布団の小山の中に載せられていた。ひどく目を楽しませてくれた。
 どうしてこうも人の心を動かすことができるのか。

 彼のかかとの皮膚はひんやりとして、足や腹は引き締まって硬く、袁術の手指は膝のくぼみのところまで滑り落ち、そこは暖かった。
 少年は寝台に寝ていた。枕は一所にまとめられ、濃い紅色の長衣はゆるゆると緩められ、露わな腕が見えていた。解けた髪は墨を流したような黒さ。精巧な刺繍がなされた鳳尾紋が流れ、彼の横顔を隠していた。ぐっすりと眠っているのか、それとも酔っているのか。

 袁術は彼の片手を握り、指の関節に沿って、ちょっとずつ撫でていった。
 手背はすべすべとしていて、手のひらは内側がよりざらざらとしていた。
 明らかに長年武術を習ってきた成果で、袁術は彼と袁耀が腕比べをしているのをみたことがあるが、少し嘆き惜しむ気持ちを免れない。

 彼は身を屈めて、散らばった髪を少年の顔から払いのけた。甘い香りの酒気が熱い呼吸とともに薫り、顔をうった。
 酔ったとしても、白露酒は濃厚で、健康は害さない。
 その白い顔にほんのりと紅みが点していてずっと目の縁や耳の際まで触れると熱かった。
 唇にはほんの少し柔らかな湿り気があった。
 酒は人を酔わせず、人は自ずから酔う。
 
 睫毛は彼の手の縁に擦れ、小刻みに震えた。
 手を離した時に、その漆黒の両眼がこちらを向いていた。
 声音も前のような澄んだものではなく、更にあの霊堂前のような悲しみで少し掠れた声だった。
「袁叔」

 袁術は突然夢から醒めた。秋の朝方の寒さにもかかわらず、額にはいく粒か汗が浮いていた。
 目覚めたときには空がかすかに明るかった。外では烏がひとしきり鳴いており、心を苛立たせた。
 前回孫堅の霊前で、彼はすでに孫策とはっきりとした話をしたが、孫策は意外にも直接は応じなかった。何と言っても、まず母や幼い弟達を安心させるのが先で、他のことは後回しで、後から決めると。

 そのような焦りは去らず、珍しく彼を朝早く目覚めさせたほどである。
 目を通さなければならない公文書が毎日無数送られてくる。謀臣や文士たちがまず目を通して、目を通す価値のあるものを選び出していく、そして袁術に差し出す。
 袁術は自分で決定するのは好きだ。無論間違ったとしても、自分の意思である。
 あの従兄はことあるごとに下問し、謀臣たちはあくまでもそれぞれの意見に拘り、側近は主の意を図りかね、最後は一体誰の意見に従ったのかわからないありさまである。

 そう考えると、いささか得意な気分になった。あるいは今日は悪いことばかりではないようだ。
「故破虜将軍の子孫策が殿にお目通りを願っております」

 手のひらだけでなく、彼は心臓まで、みな熱くなってきた。


 孫策袁術に身を屈めてお辞儀した。彼は数日前に、江都で張紘と会っていた。
張紘は母を失い一人で暮らしていた。家の中は簡素で、孫策とは机の両端で座った。深く考えてから口を開く。
「お父君と袁公路の付き合いを考えて、まず彼に身を投じるのが、的確な方法でしょう。彼の力を借りて、基盤を固め、自立の道を探るべきかと」
 孫策は言った。
「父上の身辺の何名かの元部下は、わたしと叔父甥のよしみがあります。今のところみな袁公路の麾下にいます。わたし孫策は若いですが、心にひとつ偉業を成したいと思う心があります」

 二人の相談は滞りなく行われた。孫策は張紘の誠意を理解し、家族の大部分を江都に残し、彼に面倒を頼んだ。
 送別の際、張紘は馬を引いて孫策が街を出るのを送り、心中やや動揺した。
「このたび袁術に会いに行くのは、頼る意思を示すためです。将来のことはゆっくりと考えましょう。くれぐれも忘れずに。決して意気に逸って行動されませんように」

 孫策は少し考えて言った。
「子綱はまだなにか言うことはあるだろうか?」
張紘はため息をついた。
「袁公路のその人となりは大きな成果を喜びます。傲慢で意のままに振る舞います。彼の歓心を買うのは、その実難しくありません」

 分析すると四文字となる。
 投其所好。相手の好む所にあわせる。