策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生14

「金鈴」

 翟とは雉のことである。
 袁術の衣の上には鮮やかな雉の尾の紋様が刺繍されており、ほの暗い灯火の下でもきらきらと光っていた。

 袁家は四世三公といえど、彼は一地方に割拠していても、ずっと人からは家族の恩恵でと見られることが多かった。今回の封侯、封将は内心喜びを抑えることができない。自然と言葉になり、貪欲さも次第に膨らんだ。
 将来天下のものは、必ずやたやすく手に入るだろう。袁公路の人生はまさに得意満面、どんなことも不可能ではない。

 彼の話はもう理解していたが、孫策は彼の袖をつかんだ。眉のあたりがいささか気怠げだった。
「袁叔、わたしは戻ったばかりです。今日はまた事件が多かったし、とても疲れました」
 袁術は落ち込んだ顔をした。
「そなたは客を追い返せるのか?」
 孫策は俯いた。
「そんなことはしません」
 袁術は彼の顎に触れながら、顔を上げさせた。
「そんなことはしない?そなたはまだそんなことを言っているのか?もしわたしがそなたを寵愛していなければ、どうして我が面前で殺人に及んで血を見せることなど許そうか?」
 孫策は彼と眼を合わせ、目の中の灯火が揺れていた。
「袁叔がそう可愛がってくださるなら、どうしてこうなりますか。袁叔は今や東南を有し、名声は四方に届き、天下の美女美童が数え切れないほどいる上、誰もが喜び受け容れます」

 袁術は沈黙し、片手で腰を抱き、片手で孫策の両眼を塞いだ。ゆっくりと寝台の上にのせる。
 孫策は目の前が暗くなっても反抗せず、しゃべるのもやめなかった。
「だから、袁叔の今日の宮殿でのあの話は、まったく真心からの話ではなかったんだ」
 袁術は手を放した。孫策の話を途中で止めた。
「もしわたしがあなたの子どもであったなら……」
 何重もの滑らかな布が彼の目を覆った。この時やっと真っ暗になった。彼の思うところ、言うところと、外界を遮断した。

 袁術は腰帯の刺繍の粗さが気になり、特に気を遣って内側の絹の部分を中へ折り孫策の目を覆った。彼の表情にわずかに怯えを見て取り、心中いささか得意になった。
 情事の手段で、困ることはない。
 彼は俯いて孫策の耳元で囁いた。
「そなたがもし許しを請うなら、わたしを父上と呼んでごらん。さすれば、わたしはすぐに離してやらないでもない」
 
 袁術は手を襟元から探り入れ、少年の胸元の滑らかな皮膚を撫で回した。彼の呼吸する胸の起伏がすぐに急になったと感じた。手の下の心臓は跳ねるように速くなり、袁術自身の骨まで叩くように脈打ち痺れた。情熱は抑えられない。
 孫策は必ずや叫ぶこともできない。これも彼の意図のうちである。
 万が一にも、万が一にも、孫策が叫んだとしたらと袁術は微笑んで想った。もし彼をもう少し屈服させたなら、今後彼の障害となるものは何もない。

 孫策は目が見えず、ただ袁術の手が滑り降りていくのを感じた。そして彼の傷のついたあのくるぶしに触れた。
 少し冷えてつるつるとした彼の肌に触れて、くるぶしにまといつき、思わず彼を縮み上がらせた。
「これはなに?」
 彼はかすかに動くと、チリンと鈴の音がした。静かな部屋で十分軽やかな音色を響かせた。
 袁術の声色は暗くかすれていた。
「策児、もっと動け、たくさん聴かせて……試してごらん……」

 孫策は驚き、怒り、思わず身体が震えた。
 袁術は腕を伸ばして彼の肩を抱き、幼子をあやすようにトントンと軽く叩いた。
「あちらの呉の地の女子は、そなたを思い起こさせたが、どこもそなたに敵わなかった……そなたが去ったこれまでの日々、そなたは袁叔の心を焦らせたのだ。当然戻って来て欲しかった……」
 鈴の音の激しさが彼の体内の鮮血を滾らせた。あちこちにぶつかり、速やかに突破口を探すかのように。
 その時、突然誰かが戸を叩いた。あたかも頭から雪水をかぶったかのように目が覚めた。

 戸を叩く音は激しく急で、袁術は大いに怒って罵った。
「何者だ?なにかあったのか?」
 外のものの声の調子は様子がおかしかった。大声で話したいところを、声を抑えていた。
「主公、誰かが訪ねてきて、孫郎に面会を求めております」
 孫策は彼の手の下で少しもがいた。座ろうとして、却って袁術に肩と背を押さえつけられた。また袁術は外に向かって叫んだ。
「こんな深夜に、どこの常識知らずが、訪ねてきたのか。誰だとしても、孫郎はもう眠ったと言って追い返せ」

 外のものは一瞬沈黙して、答えた。
「主公、この方は……追い返せません」
 彼がまさに怒ろうとすると、外のものは答えた。
「来たのはその、来たのは馬太傅です」