策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 竟雲何先生『長河吟断』6

「いいぞ!楽しくなくてはな!」
 孫策は嬉しくて相好を崩した。周瑜は反対に真面目くさって座っていった。
「誓ってよ」
 孫策はちょっと驚いた。周瑜を見て本気だとわかると布団の中から出てきて、ちゃんと座り直した。そして言う。
「我、孫策は天に誓って、これから天下を駆けるときには、かならず周瑜を連れて行く!どこにでも連れて行く。絶対ひとりにはさせない!もし誓いを違えるようなことがあったら、我に無惨な死を与えよ!」
 周瑜孫策に向かって丁寧に言った。
「わたし周瑜は天に誓う。永遠に孫策に随う。その心に二心はない。孫策がどこに行っても、水火も辞さずわたしは付いていく、もし誓いを違えるようなことがあれば、天罰を受けよう!」
 二人は暗闇の中向かい合って座っていた。すこしも動かずに。まるで暗い中、天地神霊が彼らの誓いを聞いて形の見えない紐で二人の身体を結びつけているようでもあった。
 月光が窓から寝台まで照らしていた。彼らはお互いの目をじっと見て、眼から少年の澄んだ美しさを見ていた。
 中平二年、天下大乱、盧江郡の舒城のほんの小さな隅で、周瑜孫策の目線を追って、狼煙の煙が集まったり離れたりしているのを見た。天下に満ち広がる旗と馬を見、手を携え、肩を並べ、天下を駆け巡る未来を見た。

 夏暦四月。
 また一年で田植えをする時期になった。この一年、災いが続いたが、ただし、天の神様は補うように、人間たちに少し良天候を与えた。少し前には、春雨も続き河も増水した。水田も田植えをするのに十分な水位を得た。
 その日は周家で先に朝食をとり、太陽が出てきてすぐに車馬の用意をし、弓矢、弁当、馬の飼い葉、庭にはごちゃごちゃと拡げてあった。これは全て臨時の一族の主の周暉のためになされた。毎年の決まり通り、出かけて農業が順調か視察し、そしてお気に入りの巻き狩りをするのだった。農業の視察は二の次で、あまたの友達や一族の子弟と江淮が平静なのに乗じて欲しいままに巻き狩りをするつもりだった。
 周瑜孫策はこの日を長いこと待ち望んでいた。これまでは雨の日が長く続き、二人とも屋敷の中で退屈でたまらなかった。周暉は雨の後、彼のお出かけに着いていくことを許した。それで二人は毎日、日を数え、毎日雨が止まるのを待っていた。この日は二人も、猟に行く格好に着換えた。喜んで周家の膨大な隊列の後ろに立った。
 周暉は周忠の長子で、二十七、八の年である。孫策は一目見て好きになった。この貴公子は全身から野外の雰囲気があった。歩くのは風のようで、話せば雷のよう、笑えば雨が止み雲が開けていくよう、颯爽としていて快活だった。彼はみずから弓矢と刀剣の準備の具合を確かめ、使用人に虫が食った矢は片付けさせていた。馬を見に行こうとして、振りかえると周瑜孫策が後ろにぴったりとくっついていて、笑いを禁じ得なかった。
堂兄!今年、わたしは馬に乗っていってもいいですか?阿橋はわたしに半年も練習させてくれました!」
 周瑜は慌ただしく拱手して、質問した。
 周暉は笑って言った。
「お前はやっと十歳になったばかりだ。身長もやっと足りるくらいだが、まだちょっと早いな、おとなしく車に乗っていろ!」
 孫策は慌てて言った。
「女人達は車に乗るよ!男たちは騎馬に乗るよ!兄貴わかってよ!」
 周暉は真面目くさった顔を彼らに向けた。突然自分の頭をぽんと叩いた。
「思い出した。去年弟の馬の白練が秋に双子の馬を産んだんだ。茶色と白と、背も高からず低からず、ずっとだれも乗らずにわすれていたから、ちょうどお前達の乗るのにいいな!」
 言うなり、使用人に引いて来させた。
 二匹の馬が引いてこられ、孫策周瑜はやっと望外の喜びとはなにか知った。この二匹の馬はふつうの馬より背が小さかったが、温和しくてお利口で、すばしっこくてたくましかった。二人は厩で前から見ていてとても気に入っていた。いつもこっそりとマメかすをエサにあげていた。
「兄貴!弓矢は!」 
 孫策は周暉が言ってしまいそうになって慌てて叫んだ。
 周暉は振り返り、孫策の頭を弾いた。
「慌てるなよ。お前達は二人でおとなしくおれたちのあとを着いてこい。騒ぐなよ」
 言い終えると、大股で歩いて行ってしまった。
 初夏の田野、太陽が全てをきらきらと輝かせている。草むらの中の露が人の衣服を湿らせた。虫が鳴き鳥が鳴くこえが至る所から聞こえる。農民はすでに田野に集まり、裾を捲り上げ、田植えをしていた。老若男女のどかで伸びやかな民歌を歌いながら作業していた。歌は起伏に富み、あちこちで呼応し、空気が波打つようだった。
 農民たちは周暉の隊列がやってくるのを見て、続々と挨拶をしに来た。周暉は馬から降りて長老の者を助け起こし、ご苦労様と労いの言葉をいくつか述べた。また付き従う者に命じて酒食を与えた、農民たちは何度も礼を言い散っていった。
 周瑜は陽光に向かって眼を細めて田野のあれこれと忙しい様子を見ていて、孫策に言った。
「ねぇ、見てみなよ、あの子ども達はわたしたちよりもまだ小さいよ」
 孫策は心ここにあらずで頷き、愛おしげに子馬の赤いたてがみを撫でていた。
 付近の田畑の巡視は三十分たらずで終えて、周暉はぐずぐずしていられないとばかりに皆を引き連れて東南の林に行ってしまった。夏のキジバトやミサゴは交配の時期で狙えばあたり、運がよければ鹿やイノシシも狙えた。一族の子弟は腕をさすりながら弓をつかんだ。
 孫策はちょっと慣れない手つきで馬に鞭をくれ、周瑜の側によった。小声で話す。
「オレたちはみんなを追い越して前に行こうぜ!」
 周瑜は驚いた。
堂兄が……」
「ばか!彼らが前にいたら全部捕まえられちゃうだろ、オレたちが獲物を獲れるか?オレたちは深くまで探して大物を捕らえるんだ!」
素手で捕らえるって言うの?」
 孫策はこずるい笑いを見せた。腰から力を入れて太い縄を引っ張りだした。
「ついてこいよ!」
 周瑜孫策に何か考えがあるのだと思い、あまり考えずについて行き、大人数のところを迂回して林の奥へと馬で走っていった。
 周暉は今日はとても機嫌がよかった。運気もよく、さっきは指揮して皆を渓流の側に配置させ、野鹿の足跡を見つけた。跡をみると一頭に留まらず、子鹿を連れた母鹿のようであった。一行は渓流を溯り、追いつめ、四時間かけてついに獲物を捕まえた。周暉は手によく肥えた母鹿を手にして、子ども達をよんで見せようと思った。不意にしばらく周瑜孫策をみていないと気づいた。内心ドキリとした。すぐに命じてあたりで二人を探させた。しかしなんの跡もみつけられなかった。
 山のカジノキから涼風が吹き、満身に汗をかいた周暉はくしゃみをした。突然あたりからしーしーすーすーとした声音が近づいてきた。警戒して振りかえると、ひどく驚いた。

 林の中を進むほどに進みづらくなり、地勢も複雑になり、樹木も高く密になり、すぐに空が見えなくなった。周瑜たちは馬を下り、馬を引いて進んだ。
孫策、わたしは突然きみを表す言葉を思いついたよ」
「英明神武?」
「有勇無謀。きみいってみろよ。そんなぼろ縄で何を捕まえるのか。大物を捕まえるといっても、大物がそんなにおとなしいもんか。縄でおとなしくわれわれにひっぱられてくれるとでも?」
「へん!信じないのにオレについてくるのか!」
「わたしがついていかないと、芝居っ気も出せないのに、こっそりと出かけられないのに?」
 孫策は笑って振り返って周瑜を見ていった。
「我を知るものは瑜姫なり。うちの覇王を軽べつすんな。すぐにいいところ見せてやる!」
 周瑜は負けずに言い返そうとして、突然、ピラララと山風が葉を吹き落とす音が聞こえた。しかし、ここにはよく風のとおる林はなく、彼ら二人は緊張して見つめ合った。馬を引いて足早に林の中の空き地まで歩き、三本の木が絡み合った古木の後ろに身を隠した。探るように見てみる。
 何もない。
 孫策は考えがあって周瑜に言った。
「お前は馬を木に繋いで、ここでオレを待っていろ。出てくるなよ!」
「きみは?!」
「縄を使う出番が来たようだ!」
 孫策は言い終えるとこそこそと出て行った。周瑜は引っ張りたかったがまにあわなかった。
 孫策は機敏に林の中を行ったり来たりして、長い縄を林の膝の高さの所にくくりつけていた。周瑜はしっかりと馬を繋ぐと、あとを追って手伝いにいった。
 孫策は驚いた顔を上げて見つめて言った。
「来るなっていったのに!」
「そんなことを聞くとでも?」
 孫策ははっと気づいて言った。
「それでこそ我が瑜姫だな!そうだな、手伝ってくれ、縄をあの木の上に繋いでがっちりと結んでくれ」
 周瑜は言われたとおりにした。でも孫策の考えがどういったものかはわからなかった。しっかりと結んで手を打って振り返って言った。
「いいよ!次はなにをする?」
 孫策は幽霊を見たかのようにぽかんとしてこちらをみていた。口を大きく開け、ちょっと動かしたが、声は出なかった。
生臭い風が周瑜の首をかすめた。彼は振りかえると、ずっと光り輝く猛虎が高いところにいた。山澗の岩の上に立ちじぃっと彼らを見つめていた。
 孫策周瑜を背に隠しながら、懐からこっそりと持ってきた匕首を取り出した。左右をちょっと見て、細い木の枝を切り取り、なめした牛革の腰帯を解いて、木の枝に匕首をくくりつけた。
 「お前、お前が持っていろ!」
 孫策周瑜の手の中に押しつけると、周瑜の反応も待たずに出て行った。
「怖いもの知らずがやって来たな。孫の旦那がお前を懲らしめてやる!」
 孫策は虎に向かって大きく叫んだ。袖から石を取り出すと、バンバンと虎に投げつけはじめた。
 虎は冷ややかに彼らを見ていた。黄金の目は凝固した火のようであった。突然虎は長く吼えると、林に風が吹いた。虎の動作も風のように速かった。瞬間飛んできた。孫策は虎より機敏に転がり飛んだ。口汚く罵りながらくるくると回った。周瑜は汗を拭い、いつ飛びだして突き刺せばいいのか狙えずにいた。