策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よぼよぼ漢語 策瑜同人 nashichin先生 『蜜月』ニ

青梅

「きみが今飲んでいるこの梅のお茶、口当たりがその他の梅のお茶と違うところがあるかい?」
 周瑜はタバコを捻り消し、最初に語り始めたのは興味を引くためではなかった。
「美味しいことを除けば、なんと言うこともないだろう?」
 ありったけの言語能力を絞り出しながら、ガラスのカップをもう一口飲む。陸遜はまったく自分の表情が周瑜によって全て見透かされているとはわからなかった。
「口当たりがいいことを除けば、その実特別なことはないんだ。そうだろ?」

 笑いながら陸遜の代わりに丸く収めた。周瑜陸遜が口を開くのを待たずに話している。
「みな青梅を浸けたお茶なんだ。どこにも変わったことはそんなにない。またどうしてそんなに違う必要があるかい?飲むと酸っぱい中にも甘みがあり、香りが良くくどくない。これも大差ないことだ。美味しさを感じるときに他のものと異なっていると強調しなければならないとしたら、我々は梅の爽やかな香りを裏切ることになるだろう」
 グルメ編集者のインタビューでまずはずさないのは「あなたの店の料理の特別なところを語ってください」だ。この一点は陸遜はわかっていた。彼は予想外にも周瑜が彼よりわかっていた。

「瑜兄さんの言いたいのは?」
「青梅は、未熟の美だよ。もしこの梅のお茶に特別の風味があるのなら、それもわたしに孫策が語ったことさ」
 周瑜はよくわかっていないような顔の陸遜をちらりと見て、そっとトングでレモン水の中に二つ氷を足した。
 陸遜は彼がのんびりとグラスを揺らすのを見ていた。二つの氷は融けずにコロンコロンと音を立てた。
(ほんとうに変な人。こんなに寒い日に氷水を飲んでいるなんて)
 陸遜はこっそりと裏腹なことを考えていた。陸遜周瑜の声が低く小さなものになっていることに気づいた。影になった輪郭はさっきよりもなんとなく柔和さが増したようだった。

 

孫策!前には水たまりがあるぞ、逃げるな!」
 子どもの幼い声が広々とした林の中に響いた。春節の喜びに溢れたような格好の周瑜は懸命になりながら、遥かに遠い孫策を追いかけ、はぁはぁと息を弾ませていた。
「鍋ぷーと呼んでやろうか?」
 やたらめったらに走り回る孫策は突然足を上げた。前歯の抜けた彼が話すと息が漏れていささか言葉がはっきりしない。
「おいやめろ! 」

 六、七歳の子どもの頭の中では、このたった自分より一月年上という『舌っ足らず』のお兄ちゃんが天よりも甚だしい屈辱で、周瑜は強情にも思った。
(わたしの足はきみには及ばないが、口先でもきみに及ばないだろうか?)
「おい!くどくど言ってるな先に建物に着いたら鍋、お前は今は言わないが、呼ばれるのを待っていろ!」
 勝つことを信じきっている孫策はだるそうに息切れした周瑜の無駄話聞いていたが、背を向けてまた早く走り去り睨みつけてかんしゃくを起こしている子どもを放り捨てていった。
孫策!きみはうちでたくさんごはんを食べて一番広いベッドを占領している!どうしてわたしにひどいことを言うんだよ!」
 ひとこと惨めに叫んだ後、さっき孫策に注意したばかりの水たまりに周瑜はまさか自分が滑って転ぶとは思わなかった。
「ハハハ!お前が鍋と言わせなかったらこれだ!当然だ!見たところ泥だらけだな、お前今晩爆竹を見に行くのにどうするんだ!うちのパパが贈ってくれたばかりの服なのに!」
 数秒驚き固まっていた後、周瑜は俯いて泥にまみれた新しい服を見つめた。孫策に見られた後こんな風に揶揄われると思うと、膝の痛みも物とせず、立ち上がって帰ろうとした。
「動くなよ!」
 孫策の声が後ろからした。周瑜は振り返ろうともしなかった。彼の得意げな笑顔を見たくなかった。
(どうしてそんなに伸びる脚なんだ!誰よりも早くて、外国まで行くよりももっと早いんだ!)
「動くな、まだ逃げるのか!」
 周瑜が振り返ろうとしないのをみて、孫策周瑜の目の前に出た。
「転んだのか?」
「顔をぶつけた!きみは笑うだろう、その前歯を見せつけてね!」
 肩は孫策に強くつかまれ、周瑜は内心とは逆にその場で焦った様子も孫策に見られた。ひどく汚れた顔を孫策に近づけ、手を伸ばして彼の口元を引っ張り笑顔を作り言った。
「笑えよ、わたしはきみより足が早くないし、こんなに汚い!」
「笑えってか?ズボンを脱いで見せてみろ!」
 周瑜の膝の部分は他の所よりもっと汚れていた。孫策周瑜が手を動かす前にズボンを脱がせて、怪我をしていないか、赤くなっていないか見ようとした。
「きみは……」
 あるとき、子どもの涙は予想がつかない。お尻を十も叩かれても一粒の涙もこぼさないときもあれば、一つのあめ玉をあげるとにこにことキスされたときにわあわあ大泣きすることもある。まさかいつも他人の失敗を喜ぶような孫策がこの瞬間自分に怪我がないかどうかこんなに心配していて、周瑜は鼻の奥がツンとした。長いこと強く我慢していたが、「あ」と声が出た瞬間、大粒の涙が孫策の手の甲にしたたり落ちた。
「どこが痛いんだ?なあどこだ?ここかそれともここか?」
 いきなり周瑜が泣き出し、孫策は自分の手が強く傷口に響いたのだと思って、周瑜の紅くなったひざ小僧をそっと揉んだ。
「わぁーわぁー」

 ひざに孫策の暖かい手のひらを感じて、周瑜はますます激しく泣いたが、痛くはなかった。そして孫策の両親が仕事の都合で孫策を自分のうちに一年預けていることを思った。ベッドを半分占領されているのみならず、お風呂も半分こ、両親の愛も半分こ、周瑜は特に我慢を強いられていた。しかし、男の子は簡単に泣くものではなく、いつもは不快に思っても我慢してきた。しかし、今日はいつものようにはいかなかった。もう涙は流れてしまったし、この時とばかりに多めに泣いて、未来の分まで泣いてしまうのが一番だ!
「おまえ泣くなよ!オレはーオレはーあーー」
 今まで周瑜が泣くのを見たことがなく、孫策はひざを揉みながら突然一緒に泣き出した。
「きみなんで泣いているの?」
 孫策が泣くと周瑜の涙は止まった。彼はわからないといった様子で尋ねながら、泥と自分の涙にまみれた両手で、孫策の涙を拭おうとした。
「だから――お前が痛がるから――う――」
 周瑜の汚い手で触れられて、孫策の白い顔に幾筋もの泥がついた。両目を赤くして泣いている顔はまるで何日もごはんを食べていない物乞いのように見えた。
「ぷぷっー」
「お前はなに笑ってるの?」
 目の前の周瑜が泣き止み笑うと、孫策は少し呆然として彼を見つめた。
孫策の顔みっともないよ!ハハハハハ!どっかから来た物乞いみたいだ!」
 ついに我慢できずに大笑いし始めた。周瑜はこの時泥付きの孫策の顔が誰による傑作かきっと忘れていた。さらにはその実孫策の目に映る全身泥だらけの自分こそが本物の物乞いみたいであることに気づいていなかった。
「痛くないのか?」
 目の前の我慢していた子どもが笑って、孫策も自分を笑いものにしたことを気にせず、両手を広げて周瑜を懐に抱き締めた。
「これからはそんなにあせるなよ、オレとお前は年が違う、お前はオレより小さいだろ」
 まじめになった孫策は、話してもそんなに歯の隙間から息は漏れていないようだった。
孫策、わたしは――汚れている、堅おじさんが買ってくれたきみの新しい服を汚してしまうよ、わたしたちは今晩はこれから爆竹を見に行くんだから」
 不安げに孫策の懐に寄り添うと、周瑜は朝の孫策の一年も会っていない父から送られてきた新しい服に着替えている楽しそうな様子を思い出していた。心の中で少し申し訳なく思う。
「オレの小瑜児は汚くない!」
 ふさふさした頭を周瑜の首元に埋めて、孫策はもごもごと言った。
「きみはまたヒーローじゃないだろう……」
 周瑜は内心小瑜児という呼び方はひどく女の子っぽいと思ったが、孫策の熱い息を感じて反論できなかった。
「うん?」
「わたしたち呼び方を変えない?」
 孫策の肩に下あごをのせながら、周瑜はほど遠くない場所に騒がしい子ども達が林のほうから駆けてくるのが見えた。
「でもおまえはオレより小さいし」
 孫策はちょっとおもしろくなかった。
「たった一月だよ……」
 わずかな沈黙のあと、負けを認めた周瑜は言った。
「わたしを小瑜……か瑜児と呼んでもいいよ」
 耳元に孫策のフンというのが聞こえた。周瑜は仕方なくして小瑜、また瑜児になった。
「それじゃあオレを鍋と呼ぶか?」
 瑜児と呼ぶ許可を得て、感動した孫策の話し方はまた息が漏れていた。
「策策……わたしは策策と呼ぶのがいいな」
 自信なく孫策を押しのけ、周瑜は説明した。
「さっき走っていったあの二人の子どもが、前を走る子が後ろの子を嘉嘉と呼んでいたのが聞こえたから……わたしはその、重ね字で呼ぶのはとってもかっこいいなと思ったんだ。哥っていうのはどこでも使えるし、きみも弟妹ができたら、彼らもきみを哥と呼ぶだろうし、誰でもきみを哥と呼べる」
「おいおい!」
 周瑜を地面から立たせて、孫策はこの説明に満足したようだった。
「じゃあ瑜児は心の中ではオレを兄貴分だと認めるんだな?」
「……うん」

 孫策に引っ張られながら林の中へ進んだ。周瑜は兄貴分だと思ったから哥だと。これから小学校に上がってケンカの多数の助太刀も頼めない。
「オレたち今日ここで結拝して兄弟の契りを結ぼうぜ!」
 林の中の馬の石像の側で、孫策は突然俠客風に言い出した。
「あ?契りってどうやって誓うの?」
 寒い風が吹きつけ、周瑜は侠客の大物孫策が震えるのを見ながら、頭の中ではテレビで見たセリフを思い返した。
「山に棱が無くなり、天地合す?」(※詩経 上邪)
「おまえはバカだなぁ!それは結婚だ、オレたちがするのは結拝だ!」
 周瑜は『結婚』と聞いて両頰が赤くなるのを感じた。孫策はまたやくざっぽく笑って、周瑜を一緒に跪かせて、口を開いた。
「わたくし孫策……早く言えよう!」
「おうおう、来いよ来いよ!」
 孫策に引っ張られ地面に一緒になって跪いた。周瑜はやっと次の言葉がわかった。
「わたくし孫策
周瑜
「ここに兄弟となる同年同月同日に生まれることを求めず、同年同月同日に死なんことを求める!」
 誓いは終わり、孫策は素早く石像の馬によじ登った。
「瑜児、よし決まったぞ。約束を違えたらそれから一生馬にして乗ってやるぞ!」
「うん!」
 遅れを取らず周瑜ももう一匹の石像の馬に向かった。いささか労力を要したが、ついには馬に乗り孫策と肩を並べることができた。

 

「リンリンリン」またドアベルが鳴った。夕方近くになりスイーツ店は賑わってきた。孫尚香はメニューを持ってテーブルの間を行き来し、あちこちで客達に店の新しいスイーツを薦めている。陸遜はわからないという顔をして周瑜の優しい目元を見つめた。
「それが青梅の物語なんですか?」
「そう。いわゆる未熟の美だよ。でも二人の美なんだ。きみが今日飲んだ梅のお茶は、爽やかで甘い。それは蜜月のオリジナルではない。ただきみの心の中で甘いものがあれば、きみの生活はさらに若者の期待に満ちたものになる。ただそれだけさ」
 立ち上がり他のお客さん招く準備を始める。周瑜は青梅の物語語ったが、引きつけられるものではなかった上、捉えどころの無い尻尾をまた付け加えた。
「その瑜兄さん……あなたが梅のお茶を飲むとき、飲んだ後どんな味がしましたか?」
 周瑜を追いかけ、陸遜はあきらかに答えの見える問いを出して、自分の舌を後悔した。
「もちろんそれは……愛かな。遜くん」
 横顔の周瑜は笑うと優しく、陸遜は彼が振り返って今戻ってきたばかりの焦げ茶色の服の青年のもとへ行った。スイーツ店はだんだん来客が増えまたにぎやかになってきた。