策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生27

「同心」

 孫策が行ってから間もなく、あるものが孫権を呼びに来た。左将軍が孫家の二公子を招いていると。
 孫権は眠れなくて、心の中ではおかしいと思い、何事か尋ねたが、来たものは説明しようとせず、ただ公子が左将軍にお目にかかれば自然とわかるというだけ。
 孫河は押しとどめた。
「夜もすでに遅いのだし、二公子はまだ幼い。校尉がすでに屋敷に伺っているのだから、左将軍が何か仰りたいのなら、校尉を通じて伝達なさればよいし、あるいは明日改めてお召しに参上しても……」
 孫権は手を振った。
「いいよ。左将軍が今お呼びなら、きっとぼくたち兄弟二人に相談したいんだろう。ぼくはすぐに着替えて、お屋敷にお目にかかりに行くよ」

 袁術が遣わした人は馬車も用意していた。錦織の帳は華美で重々しく、しっかりと夜の寒さを防いでくれた。座布団も踏み台も揃っていて、車の中には小さな瑠璃灯も掛かっていた。きしる音と揺れは止まなかった。
 袁術の侍者と孫権は向かい合わせに座った。口の端、眉尻もやんわりとした角度で、揺れる灯りの下では十分におかしな笑みに見えた。
 車輪の音に変化があり、聞く限り石板の上を走っているか、きれいな細かな砂の上を走っていた。しばらくして馬車は止まり、あるものが帳を開けて、踏み台を出し、笑って言った。
「二公子車を降りて面会にどうぞ」

 袁術は主座に座って、酒を飲んでいるところで、部屋には暖かさと濃厚な香りが充満していた。孫権はちらと見て彼の後ろに何名かの女達が側に控えているのを見てとり、すぐに下を向いた。目の隅でさっと伺ったが孫策はいなかった。
 袁術は目を細めて笑い、指を指した。
「権児や、礼儀に拘ることはない、好きに座りなさい」
 孫権は側の席に腰を下ろした。すぐに誰かが蜜餞やお菓子を差し出した。袁術が言う。
「夜も遅い。ちょっとだけおやつだ。酒もあっさりとしたものだ、かまわぬ」
 孫権は返事をして食べものを手にした。何度か噛んで口を開いた。
「左将軍……」
 袁術は手を振った。
「おぉ、左将軍などと呼ぶでない。お兄ちゃんと同じく袁叔と呼ぶがよい」
 孫権は言った。
「はい。でも……袁叔の深夜のお召し、いったい何事ですか?ぼくのお兄ちゃんはどこですか?」

 袁術は微笑んだ。
「かまわんよ。そなたの兄はまだ事情があってな、ほかのものと先に相談があるのだ。わたしはしばらくしたらまた会いに行く。そなたが家で一人でいるのが落ち着かないのではないかと思って、ここに特に呼んだのだ。もし事情が長引けば、そなたもここで同じく休んでいくがよい」
 このときある侍者が入ってきた。孫権が見ると、ちょうどお兄ちゃんを先に迎えに来た人だった。
 彼が袁術の耳元で小声で何事か囁くと、袁術は席を立った。孫権もすぐに身を起こした。袁術は彼が口を開くのを待たず、彼の肩をぽんぽんと叩いた。
「権児、わたしとそなたのお兄ちゃんはまだ相談しなければならないことがある。そなたは安心してここにいて、心配する必要は無い」
 また、振り向いて何人かの女達に言いつけた。
「孫二公子は今夜ここでお休みになる。そなた達はよくお仕えせよ。怠慢などするな」
 言い終わると答えを待たずに、さっさと出て行った。

 孫権は気分を変えて、甘い笑顔を忙しなくつくった。一番近い女の袖を引っ張る。
「こちらのお姉さん、今ちょっとお酒を飲んで、更衣に行きたいんだ」
 その女はびっくりして言った。
「はい、わたくしめが小公子をご案内いたします」
 孫権は手を振った。
「お姉さんをそこまで煩わせずとも、方向を教えてくれるだけで、ぼくは行けます」

 彼は急いで追った。長い廊下の突き当たりで光りは消え、侍者が袁術を案内して方向を変えた。別の方へ向かう。
 彼は近づきすぎないように、人から見つからないようにひたすらこっそりと垣根に張り付いて前のかすかな一点の灯籠の灯りを目指して、暗闇の中隠れ進んだ。
 惜しいかなあちこち曲がっていくうちに、ついにもう人影は見えなくなってしまった。
 
 孫権袁術の屋敷に来たのは二度だが、その都度随従に馬車に乗せられて中庭まで送られ、侍者に案内され、そして袁術に面会した。なので、この屋敷の道筋を彼は全く知らなかった。
 袁術の屋敷は深く広く、彼はこの時すでに前に行くのもわからず、さっきは追うのに精一杯で、さっきの部屋にどう戻るのかも思い出せなくなっていた。

 彼が茫然と庭を歩いていると、静かな冬の夜に細かな砂と霜が彼の足下でかすかな音をたてていた。
 自分がいまどこにいるかもわからない。