策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生23

「騏驥」駿馬

 孫策は少し驚いた。
「なるほど彼か。太傅は……今はどうなのだ?」
 孫権は目の光りがまた暗く沈んだ。
「おそらく良くないと思う」

 馬日磾は袁術に無理やりに引き留められ、長年のつかえが病となっていた。冬になり、さらに一日と悪くなっている。
 孫権は満天下の大儒を訪問しにでかけている。彼は痩せて骨が目立ち、肩や背中は依然として不屈の如くぴんとまっすぐはっていて、士大夫の身なりを整え、少しもおろそかにすることなく、袖から長い骨張った指を出して、時には咳をしながらでも、流れるような美しい字を書いていた。

 孫権は少し大人ぶってため息をついた。
「大傅が前におっしゃっていたんだ。おそらく長くは保たないって。今に到ったからには、数日で新年だし、春になれば天気も暖かくなるし、良くなるかもしれない」
 彼は興味がそそられたようだった。
「お兄ちゃん。太傅はぼくに勉強を教えてくれるだけではなくて、二匹の子馬も贈ってくれたんだ」
 孫策が眉をつり上げたのを見て、孫権はさらに嬉しくなった。喜んで話す。
「太傅が仰るには、それは普通の馬ではないのだって。西涼人が北方の砂漠から探してきた天馬で、彼は寿春に連れてきて、またここの軍馬に子馬を産ませようと思ったんだって。混血しても、普通の中原の馬よりずっと強いって。彼はぼくと縁があって、また孫氏が兵家の出身だと知って、贈ってくれたんだ」
 彼は布団から出て、すぐに兄を厩に連れて行こうと思った。
「あの馬はやっと半年で、背丈も小さいけれど、たてがみはとても長いよ。毛色は雪白でとってもきれいだ」
 孫策は笑って彼を引き留めた。布団を胸のところまで引き上げてやる。
「もうすでにここに着いてしまったのなら、いつでも見られる。今はもう寒い、明日だな」
 孫権は頷いた。
「はい」
 また何か思いついて孫策の方を見て笑った。
「この馬が大きくなったら、お兄ちゃんの戦馬にあげるよ」
 孫策は首を振った。
「それは太傅がおまえに贈った馬だろう、お兄ちゃんのものにしたら申し訳ないだろう」
 孫権は目を見開いた。
「もうぼくのだもの。お兄ちゃんに贈ったって、みんな孫家のものだもの。違わないよ」

 孫策は笑った。
「まぁいい。まだ馬は小さいのだし、大きくなったらまた話そう。今はおまえもちゃんと寝ろ」
 彼は孫権が横になったのを見て、また布団を整えてやった。身を起こそうとすると、後ろから探るように暖かな小さい手が布団から伸びてきて、彼の手をつかんだ。
 孫権は布団を顎の下まで引っ張って目を大きく見開いていた。その目は光っていた。小声で言う。
「お兄ちゃん行っちゃうの?」
 孫策は笑った。
「灯りを消してくるだけだ」
 孫権は兄上の影が机の前でちらっと動くのを見た、部屋の中がまた真っ暗になった。
 孫策は彼の寝台の所へ戻って座った。そっと額の髪をかき分けた。
「寝ろよ。お兄ちゃんがついててやる。このところつらい思いをさせたな」
 彼は額に暖かな手が載せられたことについに安心して、水のように眠気が湧いてきて、すぐにも寝入りそうだった。彼は目を閉じ、もそもそと呟いた。
「お兄ちゃん、知ってる、どうして西涼には天馬がいるのか?」

「太傅が言うにはね、物語があって、西涼の人達はさらに西北の砂漠に行って良い馬を探していたんだ。天と黄色い砂漠が接するところに連綿と山が連なり、山の上にはずっと雪が覆っている。山の下には湖と緑の中洲があって、雪山の頂上に住んでいる白い神龍が春になると彼らは馬の姿になって緑の中洲に下りてきて、湖のあたりの野生の馬と一緒に遊び、くっつくんだ。生まれてきた子馬は龍の血脈で、天馬になる。この天馬を捕まえられれば、一生の乗り物にできる。さらに天馬は風雲と集まり、龍と化し、天上へ帰るんだ」

 孫策の声は遥か遠くから聞こえる波のように思えた。
「面白い話だ。寝ろ。権児も大きくなったら、いつか自分でその雪山と緑の中洲を探せるぞ、自分の天馬も……」

 部屋の中の暖かさは重苦しい。静寂のなか孫策孫権の次第に緩やかになっていく呼吸を聞き取った。彼は深々とため息をつくと、寝台にもたれて目を閉じた。するとすぐに戸を叩く軽い音がした。
 彼は弟をちらと見ると、手を引き抜き、外へ出ていった。

 部屋の空気がかすかに動いて、孫権ははっと目が覚めた。戸口を見ると着物の袖がちらと見え、戸が合わさるところだった。
 しばらくして、庭のほうで誰かの話し声がしたがとても抑えていて小さく、はっきりと聞こえない。
 彼は寝台から抜け出して、上着も着ないで、靴も履かずに、爪先で立って、そっと音もなく戸に近づいた。一条の隙間を空ける。

足下の青い石床はひっきりなしに冷やしてきた。戸の隙間からは冷風が直接入り込んできた。彼は戸口に張り付き、動こうとしなかった。
 孫策は彼を背にして来た人に対応していた。
「どうしていま急ぐ必要があるのですか。わたしが戻ってきたのですから、夜が明けてから、もちろん左将軍にはご挨拶に参ります」
 相手の侍従の格好をした者は、表情はなごやかで謙っていたが、言葉は却って寛大ではなかった。
「左将軍のお気に入りである孫校尉ならば、あなた様はどうしてダメかはご存知なのでは?速やかにわたしと参りましょう」
 孫策はまた言う。
「行くならば、わたしに髪を梳かして顔を洗い、着替えさせてくれ。身なりが整っていないのでは、将軍の機嫌を損ねてしまう」
 その侍者は深々と一礼した。
「左将軍は校尉が星夜駆けてお戻りになり、道中お疲れだと、すでに使用人に命じて屋敷内で熱い風呂を準備させております。衣服も全て揃っております。このような厚情、どうか孫郎にはこれ以上お断りになりませんように」