策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生24

「白玉」
 
 その侍者は孫策袁術の屋敷に連れてきて、ある道を指し示した。
「校尉が長く寿春を不在にしていた間に、将軍府は尊い位に合わせて、また大きく土木工事をいたしました。もし案内するものがおりませんでしたら、途中で迷うことになるやもしれません」
 孫策は答えず、彼の数歩後ろを歩いた。
 袁術の屋敷は以前より奥深く広くなり、前庭には提灯が数十かけてあり、あたりの積もった雪を照らし出していた。松柏の枝には各種の色糸が架けてあり、とても華やかである。廊下にはそれぞれ兵士の守衛がおり、剣や戟が厳めしく、いくぶん寒々しさを添えていた。
 侍者が孫策の手を引き、後院へ入った。ある建物の前に停まった。
「わたくしめはここまでしか入れません。下がります」

 孫策はしばし立っていた。月光の下の階段はきれいな白玉を彷彿とさせた。重なる花樹の影が錦織のように美しい。
 部屋の中では火の明かりが揺れ動き、さらには女達の笑い声が聞こえてきた。澄んでなまめかしいこと銀鈴のごとし。かれはふっと冷笑した。前に進み、戸を開けて入った。

 外の間で待っていた数名の侍女は「あっ」と声を上げ、彼にお辞儀した。また、中へとすぐに知らせに行った。「孫校尉がお見えです」
 中を仕切るのは牛皮をまるまるつかった帳であった。二層に重ねて、また厚く、重かった。中の方は固く仕切られていた。彼女たちは孫策のために通路をつくる。一陣の湿った熱波が顔を打った。全身がすぐにべっとりと湿気に包まれた。
 中にはお湯が満ちた浴槽があった。

 寿春には確かに温泉があるというが、孫策袁術の屋敷の中にもあるとは聞いたことがなかった。
 床と浴槽にはきれいな白玉が敷き詰められていた。浴槽は広さ三丈(約十メートル)、四隅にあるあま龍の首の飾り口があり、絶え間なく熱いお湯が吐き出されていた。壁には十数もの銅の灯りが架けられており、浴槽の靄を白い薄絹のように照らし出していた。
 浴槽の縁の石畳には着物を入れるかごがあり、短い着物を着て両腕を晒した侍女が迎えた。情熱的に彼の前に座り言った。
「わたくしが孫郎のお着替えを手伝います」

 彼女は体つきはしなやかで、声もかわいらしく、孫策は思わずちらと彼女を見た。
 彼女は顔を上げて笑った。
「孫郎は故郷を離れて長く、お国の訛りをお忘れですか?」
 孫策は手を上げて、彼女が腰帯を解くのに任せた。
「あなたは富春のお人か?」
 彼女は立ち上がり、彼の上着を脱がそうとした。
「富春ではありませんが、そう遠くもありません」
 孫策は振り返って彼女を見た。
「なぜここにいる?」
 彼女は笑っていたが、目の中にはひどく恨みがこもっていた。
「わたくしめは袁公がわざわざ呉郡で選んだ姫妾です。悔しいことに寵愛を失い、使用人に身分を落とされました」
 彼女の指は白く丸みがあり、すでに孫策の腰の中衣の結び目にかかっていた。
「ここで校尉に逢えたのは、なんとも奇遇ですね」

 孫策は彼女の手を抑えた。
「もういい。きみは出ていってくれないか」
 彼はあたりを見回し、その他の侍女にも告げた。
「ここにいる必要は無い。みな出ていってくれ」
 彼女らは抗議することもなく、ただ黙々とお辞儀して、次々と出ていった。

 孫策はひとり部屋の中で、着物を脱いで、浴槽に踏み入れた。
 お湯の熱さはちょうどよく、適度な湿気が一晩中筋骨に染み入った寒さを彼からゆっくりと融かしていった。
 浴槽の縁には金の酒器に美酒がいれてあり、純粋で濃く甘い香気を立ち上らせていた。
 彼は思わず目を閉じた。
 袁術がやって来たときには、侍女達は外側で静かに控えていた。なかのものはすでに眠っているかのように静かだった。

 孫策は浴槽の縁に伏せて湿った長い髪を黒々と肩に打ち広げていた。
 肩幅は前より広くなり、肩甲骨の上の引き締まった皮膚は暖かい透明な水蒸気で玉のように光っていた。
 お湯の水量は依然として流れてくる量と出ていく量が安定していて、水面は彼の腰のえぐれたようにひきしまった部分に留まっていた。また少し痩せていた。
 水面のしたに何があるのか、袁術はみたことがあった。
 狭まった恥骨、長くしなやかな脚、丸みのあるくるぶし。ひどく力を入れて、思い切って腰の滑らかな皮膚をとらえようとして、手から逃げ出せないようにした。

 水の音は絶え間なく、壁の灯りが輝き、ゆらゆらと揺れる波光があふれて、袁術に彼の横顔、そして漆黒の眉と鮮やかな紅い唇を見せた。
「ダン」と音がして、浴槽の縁の金の杯が袁術の衣裳の足下のに倒れた。金石がぶつかる音がして、黄玉のような酒が浴槽に流れ込み、靄と一緒に馥郁たる香気が沸き起こった。
 孫策は頭を上げると、波光もゆっくりと目に入った。
 
 そのような光りは双刃の剣のようで、多情で、また鋭い。
 袁術は悩み、恨んだ。この話を聞かない青二才が、彼の数度に渡る召喚を拒み、彼の手厚い褒美を軽視したことを。こうでなかったら、彼とて工夫や方法も必要なかったし、小手わざを使ってまで彼を連れ戻す必要もなかった。
 この時、ただ見ていて、全身が熱くなり、喉は苦しくなった、透明な氷の糸で大網をつくって水中の裸体を絡め取り、包み、自分の手の中でもがき暴れさせ、もう逃がすことはできなくさせたい。

 こういうものは福に恵まれていないひとには所有できない。できてもおかしくなる。
 袁術は思った。自分は天下第一の福に恵まれている人間だと。