「主権」
孫策は寝台に凭れて座り、白綸子の中衣ははだけて、胸元が起伏する様が見えた。
彼の手はしっかりと帳を握り締め、手には青筋が立っていた。
袁術は寝台の足側に座り、その時を待ち、愛でていた。
彼の目線は孫策のこめかみのしたたる汗を見つめた。どのようにしみ出して、目の上を覆う濃い色の絹の帯にゆっくりと吸収されていき、しばらくして、彼の頬を滑り落ちて顎まで届き、上下に動く喉元にそって流れ、赤みのさした皮膚をゆっくりと進み、腰際まで届いた。
孫策の身体はすでに成長しており、子ども時代の丸みは痩せて強靱な筋肉にとってかわっていた。かれの腰は美しい女達より力強く、脚もずっとすらりとして長かった。
袁術はその旨みを味わった事があるが、しかし、そのたびごとに違っているものを欲した。
孫策の呼吸はすでに荒く忙しないものに変わっていた。
あの薬の中には麻勃が入っており、興奮し、また幻覚を見せる。袁術は多くのものにその薬を使ってきて、白い羊のようにすらりとして柔らかな四肢が歓楽中の夢幻のなかで震えながらしがみついてくるのが、とても美しい媚態と感じていた。
孫策はここまで焦らされて、すでに驚くほどである。
彼の身体はすでに弓なりになり、顎が反り返り、熱を持った紅い頬が寝台の滑らかな生地に擦れた。しかしわずかな冷たさでは、慰めの足しにもならない。
黒色の絹帯は彼の紅い唇をさらに際立たせてみせた。歯は白く、部屋の中のほの暗い灯明が彼の首の汗で湿った皮膚を金色に輝かせていた。彼の荒い息はすでにもがきに近く、それでも頑強に声を出そうとはしなかった。下唇は噛んで歯の跡がついている。
袁術は事の前によくよく計算していた。彼が自身を失うその瞬間に、やっと真の望む状態が得られると。
幼虎を自分の手で躾けて望むがままに身体を開き、迎え入れて激しく雲雨を尽くすのだ。
ひょっとすると、孫策は長くはもたないかもしれない。しかし、計算違いで、己の嫉妬の情も抑えていられないかもしれない。
ここ数年間、美しく若い獲物は彼の手で狩られ、彼の飼育するところとなり、彼ひとりに属していた。
もし、誰かが彼の側から彼を連れ出そうとしたら、どうする?どうする?
彼は指先でちょいちょいと孫策のくるぶしの金の鈴を弄った。満足げに薬の効いたのと、弄ばれる両方の作用で抑えきれない痙攣と震えを起こしているのを眺めていた。
「言ってみよ。さきほど馬翁叔にこの音を聴かせたのか?」
孫策はゆるゆると顔を向けた、唇には血の珠が滲み出ていた。
「あるいは聞こえていても、知らないふりをしたかな?」
袁術は手を伸ばして人差し指でゆっくりと彼の唇の輪郭をなぞった。血の珠を拭うように。
「もしそなたが彼と一緒に長安に行くのなら、この鈴も持っていって、呉の地の女子に倣って、旧都の公卿貴族の前で一曲踊ってみよ。出世する近道かもしれんぞ」
彼は近づいて、孫策の髪を少しずつ自分の手指に絡ませ、放した。彼の肩を抱き、滑らかな下顎から首へと口づけた。そして胸から腰際へと愛撫は続いた。口の中で何かを呟きながら。
「ああいったものは、そなたよりよくわかっておる。かれらとわたしは同類だ。わたしのよりほんの少しもったいぶっておるだけだ」
「そなたは彼らがそなたの才能を重く見ると思うか?それとも、そなたの父上の名声を尊敬していると思うか?忘れるなよ。現在の長安は、そなたの父上の敵の手中にある」
「馬日磾がそなたに何を与えられる?それとも天子が何を与えられるというのだ?」
薬が効いてすでに絶頂に達していたが、袁術はたゆみなく続く締めつけを感じていた。もうすぐしたら爆発して墜落するだろう。
彼は喘いで、さらにもう一度自分が主だと証明したかった。
「言え。そなたは長安に行かないと」
孫策の声音ははっきりとは聞こえなかった。
「あなたはわかっている。明らかにわかっている……」
その話はそれで終わらなかった。
もし、目隠しをしていなかったら目の前には無限の光彩が爆ぜて広がり、金星が舞い飛び、それから身体にたまっていた熱が潮が引くように褪せてきて、疲れて指先ひとつ動かすことができなかった。
袁術の精力も疲れ果て、腕の中の身体がずっと柔らかいままなのを見てとり、くたりとなった。ただ脚は依然として細かな痙攣をし、金の鈴がかすかな香の満ちる部屋の帳のなかで、さざ波のような音を立てていた。