策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生31

「裳裳」(衣服)

 孫策が内室に入ったとき、袁術うたた寝から醒めておらず、しかし侍女達は察しがよく、彼を阻んだりはしなかった。
 彼は静かに寝台の前に立った。袁術のまぶたがぴくぴくと動いていて安穏と寝ているようではなかった。

 彼は袖の中であの銀の刀をつかんでいた。
 これを憎み、その死を願ったのに、却って自分の手でこの人の命を助けた。
 ことここに到っては、どうしてこの功を尽く捨て去ることができようか。

 つやつやと光る刀は彼の手の中で見ると、刃は鋭く薄く、暗い部屋の中、灯火の側、見ていると決してあの当時のまばゆいきらめきほどではない。
 銀の刀を袁術の前でキラリと反射させてみた。夢の中から突然驚いて目を覚まして、叫んだ。
「策児?」
 孫策は返事をして寝台の側に座った。
 袁術は起き上がり座った。ため息をつく。
「そなたの傷をみせてみよ」

 傷口は彼の左胸、鎖骨から指半分下にあった。傷口はくっついたが、桃色の皮肉が巻き上がり、まだかさぶたとなっていない。
 袁術は目に嘆き惜しむ色をいっぱいに浮かべて、また問うた。
「まだ完治していないのに、なぜ急いで盧江に戻る必要がある?」
 孫策は口の端をつり上げた。
陶謙がすでに死に、わたしはもちろん陸康が生きているうちに急いでいきたいのです。盧江を攻め落とす、それでこそ心中の心残りも少なくなりましょう」
 
 袁術は彼の心臓の上の皮膚を撫でていた。思わず感嘆する。
「策児、知っておるか、わたしはまさにあの日の情景を夢に見たのだぞ?」
 孫策ははいと応じて、彼が続けるのを待った。


 袁術はすでに長年自ら敵に向かう戦陣にのぞんでいなかった。もし、孫策が瞬間彼を押し退けていなかったら、彼はきっとあの刀を避けきれていなかっただろう。
 彼は石畳に躓き、全身ぶつけて痛くてたまらず、目の前には金星が舞って、血しぶきが散っていた。

 あの女子は激しく叫んでいて、それで袁術は彼女が誰か思い出した。
 鄭氏、自称鄭旦の末裔の少女で、呉郡のもので、自尊心が高く、舞をよくし、剣舞もする。
 袁術剣舞を好まなかったので、彼女に腕前を披露させたことはなかった。しかし、このとき、彼と孫策には身に何もつけておらず、鄭氏の手には刀があり、ひどく危険ではないのか?
 この袁術は生まれてから以来、初めて死期を最も近く感じた瞬間だった。

 彼の頭の中はわんわんと鳴り響き、手脚は身じろぎもできず、口も舌も固まって、話すことも、人を呼ぶこともできない。
 彼はただ目を見開き呆気にとられたまま、孫策が相手の腕をつかんで、活き活きと背後に捻りあげ、手刀で鄭氏を地面に気絶させる様を見ているしかなかった。紅い鮮血が彼の胸から流れてきて、湿った地面に滲んだ。
 孫策は俯いて彼を見た。目の色には翠色が浮かんでいた。
「お願いします。袁叔、侍衛と医師を呼んで下さい」


 袁術は言う。
「あの二方の名医は元々は馬翁叔のために呼んだのだ。惜しいかな結局彼の病気は重く、回復の見込みはない。正月は越せまい。この城に留まっているのは、彼らのおかげだ」
 孫策は笑って襟を整えた。
「袁叔は地位が貴く、すでに自ら戦陣に望むことも久しくなかったでしょう。我らは軍人です。こんな小さな傷を負ったとしても恐れることはありません」
 袁術は身を起こした。卓上から一巻の文書を取り上げた。
「わたしはすでに程徳謀に彼が一千の兵馬を率いるのを許した。そなたと一緒に盧江に向かう。彼はそなたの父上の元部下。麾下にはまた精鋭、熟練した老兵が多くおり、ひとたび行けば必ずそなたが早々に城を落とす助けとなろう。速やかに戻ってくるがよい」
 孫策が手を伸ばすと、袁術はまた手を引っ込めた。
「今はまだ急ぐでない」

 袁術は語る。
「今日は上元、わたしは城内に提灯を架け、色糸を飾ることを命じた。夜には文臣武将を率いて、城楼に上がり観賞する。そなたは我が身辺についておれ、一緒に行こう」
 彼は手を打つと、すぐに何名かの侍女が次々と入ってきて、盆を運び、そしてすぐさま下がっていった。

 卓上の金の花瓶には数枝の金鐘梅が生けてあった。部屋の暖かさで香が馥郁と漂う。
 裳裳者華、芸其黄矣。(みごとに咲き誇る花の色は黄色)

 袁術は笑って言った。
「策児はまだ覚えているかな、昔我が家に初めて来たとき、袁叔叔がそなたに贈り物をした。一揃いの衣裳を」
 今のこの一揃えはさらに精彩で、さらに華麗。まさに袁術の好みで、孫策がそのような格好をしていることは極少ない 。
 我覯之子、維其有章矣。(我が子たる臣下を見れば、見事に規範に則っている)

 彼は自ら孫策の着替えをした。帯を締めていると、動作の間、息がお互いに聞こえた。耳と鬂の髪が擦れ合った。
 その後のことを想像した。孫策の手を引き、城楼に登り、景色を眺める、さらに人から見られる。洋洋と得意な気分になり、酔い痴れた。
維其有章矣、是以有慶矣。(規範に則った彼らを見て、多くの喜びを身に受ける)