策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生43

「死路」下

 彼は袁術の面前に立ち、明るく笑い、誹っていた。
「袁叔はまだ覚えていますか、当年オレが出征する前に、寿春の城南、淝水の上で、袁叔は楼船に乗り、舞楽を揃え、数多の臣下と名士を呼んで大きな宴を催しましたね?」
 袁術は当然覚えていた。彼は船頭で風にあたり、酒を持ち、まさに意気風発であった。
楼船を浮かべて汾河を渡り
中流に横たわってしらなみを揚げ
簫鼓鳴って棹歌を発す
 人々はしきりに好し、好しと叫んだ。季節は適当ではなかったが、情景は詩にあっていた。

 孫策は笑って言った。
「袁叔はどうして覚えていないことがあろうか、孝武帝の次の一句は、なんと言っていますか?」
 袁術はフンと頷いた。
「漢に代わる者は、当塗高なり、これは孝武帝の言ではなかったか?我が袁氏はまさに上に天意を承け、下は民の人望を集めた。また、伝国の玉璽を手に入れ、大事がなされるべきではないか」
 孫策は軽く嘆いた。
「天意?秦の始皇帝は四海を統一したが、二代で傾いた。大漢は四百年続き、あなたはそれに取って代わろうとしたのでは?袁叔は自ら認めておられる。上天から愛されていても、それは彼らよりもさらに多いと?それから玉璽……」
 彼の声は高くなり、冷たく残忍なものになった。
「もし玉璽でよく成功させることができるのなら、我が父上はどうして流れ矢の下で死ぬことがありましょうか?オレがどうしてどうにか状況を変えようとしてつらい思いをして、あなたの麾下に身を投じようとする必要がありましたか」
 袁術は口調を和らげた。
「伯符、わたしはそなたを侮っていたことをわかっている。今袁氏の天恩は未だ断たれておらず、なお余力がある、そなたがもし我が身辺に戻ってくるのを願うのなら、心を同じくして力を合わせれば、かならずや大業を成すことができるだろう」
 彼は寝台の前の木の階段まで歩いた。表情は切に願っていた。
「そなたはまだ覚えているか、初めは己を霍去病に比べ、わたしのために世に稀な立派な功績を立てると」
 孫策は動かず立っていた。頗る興味ありげに目を細めていた。
「袁叔は又お忘れです。霍去病はオレの年には、もう亡くなっています」
 袁術は言葉につまり、顔の皮膚も紫色に膨れ上がってきた。
 孫策はやや下を向いて顔は恭しく、声は幾分笑いを含んでいた。
「またあるいは袁叔は覚えていらっしゃるのかな。こっそり祖郎に印綬を送り、彼を麾下に招き入れて、オレの命を狙おうとしたのを?」

 袁術はついに耐えられなくなり、恨み声で言った。
「初め、そなたはわたしに跪いて誓った。今どうして信頼に背き義を棄てるのか?」
 孫策は頭をあげた。
「え?そんなことがありましたか?」
 袁術はひどく怒った。
「そなたの胸の前の傷跡が、その証明ではなかったか?」
 孫策は笑った。
「袁叔はなんの傷跡を言っているのか、オレにはさっぱりわかりません」

 夏の日の炎熱で、にわかに袁術はめまいを起こした。
 ま、まさかありえない。
 彼はあの水蒸気の中で雪のように光ったあの刀を記憶している。孫策の胸からは鮮血が流れていた。一滴一滴浴槽の縁の玉石の石畳に花開いていた。
 彼は覚えていた、寿春の宮殿内で昼間、帷の中で香を焚いていた。部屋は香煙で芳しかった。孫策はこんこんとその煙の中で眠っていた。医者は雪白の襟を開いて、傷口を診ていた。

 彼ははっきりと覚えていた。
「左胸の前、鎖骨から指半分下だ」
 孫策は一歩後ろに退いた。
「そうですか?では袁叔はご覧になったらよろしい」

 彼は頭の兜を外し、刀のように漆黒のもみあげをあらわにした。きらきらとした汗の珠が滴り落ち、首から襟に滑り落ちた。この情景は袁術にはこのように美しかった。このようによく知っていた。あいにく人は変わるのだった。
 彼はすでに銀の鎧を地上に降ろし、鎧の裏地も外し、迷うことなく上着を脱いだ。

 袁術は驚いた。
 孫策は離れて三年余り、容貌は大きく変化した。ただ彼は突然顔を暗くし笑わなくなったとき、眉間に瞬間殺気が浮かんだ。
 身体の皮膚はつややかで、若い健康な男子の香りがした。武将でよく見る長い肘で蜂のような腰をしていた。その上を縦横に交錯していたのが、尽く四方に外征して残った傷跡だった。
 しかし、袁術が覚えているあの一条の傷は却って見つからなかった。

 孫策は胸の皮膚に青黒い模様を刺青していた。一つの虎の頭が彼の呼吸にあわせて胸の上を緩やかに起伏していた。ひげが怒った勢いを表し、活き活きとしていた。虎の口の中が赤くなっており、当初の痕跡を覆っていた。
 
 袁術は雷にうたれたように驚いた。
「そなた!そなた……」
 孫策は微笑んで襟を合わせた。
「オレは呉の人間です。たとえ刺青断髪していても、珍しくありません」