策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生11

「孫郎」

 孫策は再び祖郎を討ち、完全勝利を収めた。祖郎本人は逃げたとは言え、長らく丹楊を騒がせていた山越の大半は平定され、呉景と孫賁は大いに安心した。袁術も大喜びした。
 彼の書状が丹楊に送られ、皆の者に褒美が下され、また孫策は帰ってきて祝いの席で功績をたたえるとして、特別な褒美を下されるとあった。
 孫策は曲阿で母上に挨拶し、家族が無事に暮らしているか、衣食は足りているか確かめ、それから寿春に戻っていった。

 大軍が寿春の街に到る前に、先頭部隊の兪河がやってきて、孫策に報告した。
「張勛将軍がお見えになり、話したいことがあるので、協議したいと」
 孫策は兪河に指揮を預け、軍隊は継続してゆるゆると進み、自分は馬に笞をふるって迎えに行った。

 張勛らは道の端の樹下で待っていた。一人が馬上で、そのほか二人が付き従っている他は誰もいなかった。孫策が来たのを見ると、馬上で笑いながら拱手した。
「孫郎、しばらく会わなかったが元気だったかな?」
 張勛は袁術麾下の大将で、やや年かさで、孫策が父に従って董卓を討つ時に従軍していた時分にも何度か会っていた。彼の人となりはとても正直で、孫堅が亡くなった後も、袁術を頼ってきた孫策に対して侮ったり傲慢に振る舞ったりすることもなかった。
 孫策はそれゆえ彼をずっと尊敬しており、馬から降りて挨拶しようとした。
「張将軍」
 張勛は手を振って言った。
「ちょうど春で天気はよく晴れていて、孫郎が良いなら、わたしと一緒に城外で馬を走らせないか。城の塀の河の周りを一周しよう」
 孫策は内心どきりとしたが、すぐに答えた。
「張将軍が仰せならば、お供いたします」

 寿春は当時とても栄えていた大きな街で、また戦火にも遭うことも少なく、城壁は高く、河沿いには淡い靄のような梨の花が咲いていた。張勛は孫策の銀甲の軽装を見て、のんびりと馬を急かして彼の側に寄せ、ため息をついた。
 孫策は言う。
「張将軍、今はあなたとわたしの二人きりです、なんでも率直に仰って下さい」
 張勛はしばし黙っていた。なにから話そうか考えている風でもある。
「孫郎はこのたび孫将軍の元部下を取り返し、山越を破ること破竹の勢いであった。喜ぶべきことであろう」
 孫策は尋ねる。
「将軍の仰りたいのは、その実、良いことではないと」
 張勛が答える。
「まさにその通り。孫郎は御主君の書状は読んだのかね?」
 孫策は言う。
「自分で読みました。主公のお手紙には喜びがあふれていました、まさか?」
 張勛は首を振った。
「問題はもちろん主公にあるのではない。主公は孫郎が帰ってきたら、数多の寵愛を下さるだろう。このたびまた大功があり、もちろんそなたを褒めるだろう」
 彼は孫策を見つめた。
「だが、言うなれば、問題はそこにある」
 彼は孫策の乗っている馬の首を軽く叩いた。
「そなたは袁氏のための初めての出征で、主公に良馬を賜った。わたしが乗っている馬よりずっと大きい。わたしはそういうことには気にしないが、だが他人はどう思うだろうか。そなたがいないときに主公に何か言うのではないだろうか。昔、董卓征伐で上洛したおり、そなたの父は深く妬みを買い、孫将軍は正直で勇猛で、まったく気にしなかった。今は主公はそなたに父の元部下千人を返したが、ただし、程普、韓当らの一千は却って返していない。猜疑心がまだあるのに、もし誰かが進言したら、その後どうなることやら、孫郎はまだ若い。こう言うことは防がねばならない」
 孫策は黙って言葉を失った。
 張勛は再びため息をついた。
「主公は贅沢好みだ。賑やかなのもお好きだし、此度そなたのための祝勝の宴も、必ずや盛大なものになるだろう。誰かがケチをつけるとも限らない」
 孫策はとても聡明なので、すぐに張勛の言いたいことがわかった。すでに誰かいると、知っているのだろう、ただ孫策に損をさせまいとして、駆けつけて指摘してくれたのだと。

 張勛は言う。
「わたしの言いたいことはここまでだ。孫郎はご自分を大切になされよ。軍中でまた会おう」
 馬上で孫策に揖礼すると、すぐに城の中へ走っていった。
 孫策は微笑んで、軍隊の列に戻り、兪河に尋ねた。異常なしとのことだった。

 入城の際には、一般の民衆とその車馬が避けて、軍に道を譲った。
 ある袁術の何人もの将官が出迎えた。孫策は馬を降り、それぞれと挨拶した。
 この時また一隊の車馬が門前に着いた。孫策は目を細めて遙か向こうから馬でやって来る人を眺めた。あるものがすぐに囁いた。
「あれは盧江の周家の二公子ですよ」
 孫策はくすりと笑った。
「存じております。我が家は一時、盧江にも住んでおりましたので、かつてあの公子にもお会いしたことがあります」

 周瑜は一台の馬車を守って、馬に笞をくれてゆるゆると進んだ。前まで来ると馬を降り、お辞儀した。
「孫兄しばらくぶりですね」
 孫策もお辞儀した。
「ほんとうにしばらくぶりだ。盧江で別れて以来、会っていなかった。叔父君はお元気か?」
 周瑜は眉を顰めて言った。
「叔父は寿春に来るまでに、途中で風邪をひいたようです。車の中で休んでいます」
 孫策は言う。
「そうか。残念なことだ。また会おう。叔父君も元気でな」

 側の者が催促した。
「孫郎、早く入城しなくては。主公に謁見しなければなりますまい。夜には宴会ですぞ」
 孫策はびっくりした。
「そんなに急ぐのか?」
 周瑜は側で囁いた。
「孫兄はご存知ない?寿春城中には、近々大人物が来るらしいのです」