策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生42

「死路」上

 火の海は果てしがなく、楼閣は倒れ、材木は焼かれて灰となり飛び散り、熱波が顔を直撃した。わずかに甘さが混じる煙と埃の中、花の香りは絶えず、まさに満開の鮮やかな花は焦土と化していた。
 袁術は驚いて振り返った。至る所で天を衝く火焔が吹き上がり、歩いて出ることもできずにいた。秩序なく火花が飛び彼の服の上に落ちた。
 火の中から巨鳥が一羽飛び出てきた。全身の翼が金色に鮮やかに光り輝き、長い尾は地を払った。火を覆う様は朱雀のようで首をもたげて尖った鳴き声をあげた。
 袁術は驚いて起きた。額には汗の粒が滴っていた。

 彼は口内が乾いており、喉が痛かった。数度喘ぐとやっと叫んだ。
「誰か、誰かある!」
 かなり長いこと過ぎてから、誰かが門を推して入ってきた。袁術は怒って言った。
「どうして今ごろ来るのだ?」
 現れた侍者は顔中黒い灰だらけで、彼が寿春を離れるときの夢の光景を思い起こさせた。すでに決心していた。いっそ西苑は焼いて壊してしまったほうがよい。決して自分が心から愛するものは人の手に落ち入ることは許したくない。今は仕方がない。しかし、ふたたび寿春に戻ってくることになっていた。
 その侍者は地面に伏せ、続けざまに謝った。
「殿お怒りをお鎮め下さい。厨房に人がおらず、食事を用意しに行かなければならなかったのです。この失態は、どうか殿にはお許しを」
 袁術はため息をついた。
「まぁよい。ここは寿春から、どのくらい離れておる?」
 侍者は答えた。
「まだ八十余里あります。一日、二日で戻れるかと思います」
 彼は戦々恐々として立って、尋ねた。
「殿は少し食べものや飲み物は如何されますか?厨にはまだ麦屑が三十斛あります。多くはありませんが、しかし、城に戻るまでには足ります」
 袁術は首を振った。
「天気がこうも暑いのに、どこにそんな粗末なものに食欲がわくものか。少し蜜を探して参れ。水と混ぜて持ってこい。そのほうがよい」
 侍者は気まずい顔をした。
随行品の中には蜜はございません」
 袁術は怒って立ち上がった。
「持ってきていないのなら、探しに行かぬか?」

 彼は部屋に一人になり、袁術は寝台に座った。手すりを叩き、思わずため息をついた。
 身体の下の寝台の板は硬く、ただごく簡単に埃を払い、布きれを敷いただけで、ごつごつして彼は全身が痛かった。
 彼は心中に辛さが募り、周りには誰もおらず、大声で叫んだ。
袁術ついにここに極まるか」

 その声も終わらぬうちに、彼は門外に乱雑な足音が聞こえた。あたかも複数人一緒に来ていた。数人の人影が門前に停まる。日光が遮られ、動かない。
 袁術は心中どきりとして、喉が苦しくなった。
 門外の人影は見知ったものと似ていたが、ここにいるはずのないものである。
 彼は喉をスッキリさせて問うた。
「門外のものは何者ぞ?また何用か?」

 彼は低く笑う声が聞こえた。木の戸が押し開かれたとき古い蝶番が凄まじい音を立てた。
 灼熱の陽光がその者の両脇から差し込んできた。空気中に舞うちりさえもはっきりと見えたが、彼の輪郭は暗い影の中に隠れていた。

 袁術の目はゆっくりと慣れていき、やっと振り向いたとき、彼の身につけている白色の袍と銀に光る甲冑が直視できた。
「討逆将軍、ここにはわたしという逆賊を討ちに来たのかね?」
 孫策は依然として微笑んでいた。後ろにいる孫河に言った。
「ものを持ってこい。お前達は下がってよい。オレと袁将軍とは話しがある」
 孫河ははいと応じ、盆を一つ捧げ持ってきた。お辞儀をして置くと下がり、門を閉めていった。

 孫策は壺を手に取り、その中の液体を一つの銀碗に注いだ。袁術の面前に差し出す。
「将軍どうぞ」
 袁術はぞっとして手を振り、その碗をひっくり返した。

 孫策は一歩退き、片膝をついて跪き、碗を拾った。
「袁叔は前にまだ蜜入りの水をお求めではなかったのですか、どうしてのまないのですか?孫氏は寒微な家の出身で、わたしは常に軍中におり、身辺もそんな精巧なうつわなどありません。それに、ただの井戸水です。袁叔は気に入らないから、このように要らないと」

 袁術は驚き、また怒った。
「そなた……そなたはわたしを毒殺しようとするのか?」

 孫策は眉をつり上げた。また碗に注ぎ入れ、つかむと一気に飲み干した。
 彼は立ち上がり、挑発するように袁術を見つめた。
「死、これ以上恐れることがありますか?」