策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生33

「修禊」(三月三日の水辺での邪気払い)

 春の水辺、大きな錦織の幕が張り巡らされていた。赤や緑の着物の女達が集まり、笑い声が絶えなかった。
 周瑜は壺で水を掬い、侍従のもつ銅盆に注いだ。またその中に蘭草(フジバカマ、香草)を浸した。その花はとても小さく暗紫色の花芯が水面に浮いてきて、あたかも彼の袖の色と模様に似ていた。

 彼の叔父と袁術はまだ相談していた。彼が来ると、袁術は笑った。
「甥御さんは久しく会わないうちに、玉樹のような立派な人物になられた」
 春の気候は暖かいといえど、周尚は病がまだ癒えず、しっかり着込んでいた。周瑜は自ら銅盆を捧げ持って、叔父に手を洗わせ、上巳の川の畔の禊をさせた。そして袁術に答えた。
「わたくしは叔父に対して長年養育の恩があります。その情は山の如く、返しきれません。左将軍はどうぞお笑いになってくださいませ」
 周尚は周瑜の肩をそっと触れると言った。
「周家の若いものの中で、瑜児は最も嘱望されているものです。これからはどうか公路兄にもよろしくお願い申し上げます」
 彼はあたりを見回した。
「ご令息は不在ですかな?」

 袁術は首を振った。
「あれは使えない」
 彼は立ち上がって高みへと数歩進んだ。遠くを望む。数名の侍衛が付き従い、遠からず囲んでいた。
 周尚はびっくりした。もともと袁術の背後にいた楊弘が微笑んだ。身を屈めて来て言う。
「袁公は孫郎をお待ちなのですよ」
 彼の声音は高からず、低からず、側に座っていた人々に聞こえて、みな小声で笑った。
 ある者が口を挟んだ。
「孫校尉はまだ着かないのか?袁公は寛大でいらっしゃるから生意気な小僧を咎め立てなさることはあるまい」
 楊弘は笑った。
「孫郎は数日前にやっと盧江から軍を率いて戻ってきたのだ。まさに大功がある。袁公は彼に対して至極寵愛をなされておる、前夜は酒宴をひらいてやった。またどうしてこんなささいなことで罰を与えることがあろう」

 周瑜は侍者に盆を片付けさせ、水辺へ向かった。
 数匹の駿馬が走ってきた。近づいてきて脚を緩める。まず現れた一人が暗紅色の狩りの出で立ちで肩は広く引き締まった腰をしていた。乗っていた駿馬は細長い耳をして脚が長く光る煤玉のように黒かった。
 水辺の草木は濃い緑をしていて、三月の風景は美しく、あたりには咲きたての花が広がり、陽光が小さな影を地上で飛び跳ねさせていた。林の間では鳥の声が音楽よりも軽やかな音色を奏でていた。
 周瑜は思った。初めて彼と出会った年みたいだと。
 春風が馬を乗りこなし、人を笑わせる桃の花のようで、とても絵になる光景だった。

 その人は樹に馬をくくりつけると、馬の笞でそっと柔らかな枝を払い、周瑜に向かって笑いかけた。
「周公子、お久しぶりですな」

 孫策は周りの者に言った。
「君たちは先に行って、袁公に報告してくれ。話したらわたしもすぐに行くから。わたしと周公子は話がある」
 彼は明らかに袁術が待っているのを知っていて、馬を降りて、周瑜と肩を並べて歩き始めた。

 黒い馬は彼の後ろで俯き大人しく落ち着いていた。
 周瑜は小声で聞いた。
「かまわないの?」
 孫策はただ笑った。突然腰を屈めて道端の蘭草を摘んだ。大声で話した。
「周公子、わたしはこういうことには通じていない、助けてちょっと見てくれないか。これは今日使うのに相応しいものか?」
 彼は周瑜の目の前に見せて、彼に近づいた。
「かまわない。オレは彼の話を聞くし、また彼の話を聞きすぎることもできない」
 周瑜は失笑した。
「きみはこの兵法を、よく学んでいるよ」

 彼ら二人はゆっくりと進んだ。孫策はときどき道端の花を摘んで、ついには袁術を一時間近く待たせた。やっと目の前に現れる。
 袁術孫策の手を引いた。
「何を懐かしんで、そんな長いこと話すことがあるのだ?」
 孫策は笑った。
「昔話というよりは、実のところ感謝を述べていました」
 彼は侍従を招いて言いつけた。
「水を持ってきてくれ」
 そして、周尚にも挨拶した。
「このたび盧江を落とせたのは、周氏の功績です。わたくしめのものではありません。当然お礼を申すべきかと」

 周尚は彼を助け起こした。
「孫校尉ご遠慮なさいますな。周家と袁家は代々付き合いがあります。助け合うように努力しないのは、恥ずかしいことです」
 袁術は手を振って、笑った。
「わしはよくわかっておる。余計なことは言う必要はない。もし周家が門を閉じて助けを拒んでいれば、陸康はまだ長々と生き延び、また時間がかかったろう。すでに劉勛を盧江太守に命じた。このたびは表面上では感謝を示すことはできないが、かならずや別の場面で考慮しよう」
 侍者は戻ってきて、禊の水を用意した。孫策は自ら袁術の前で、彼の袖を捲り上げた。やることは鄭重そのもので、一糸も乱れなかった。
 空の色はだんだん暗くなり、袁術は今夜はこの水辺で泊まると言った。人に命じて大きな天幕を用意し、皆の者と宴会をした。
 孫策周瑜のために酒を注ぎ、耳元に小声で笑いかけた。
「自分の獲物を得ていないのに、先に周家の分を確保するのを助けてやったぞ。この一回分、おまえはどうお礼をしてくれる?」