策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生1

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生
術策ですがワタシは基本策瑜の人です。この作品は、とても耽美で美しかったので訳そうと思いました。たぶん、Hシーン欠けたver.だと思いますが十分おいしい部分(?)は読み取れます。相変わらずヨボヨボ訳です。


「有花堪折直須折」花が咲いたら摘み取る


啓蟄

 袁術が思うに、彼と孫策の出逢いは、真に夢、幻のようであった。

 その日袁公路の機嫌はとても良かった。
 春の雷がとどろき、雨がしとしと降っていた。庭にはいくつか古い杏の古木があり、半ば咲いており、雲霞のように艶やかで美しかった。
 彼は廊下で身を横たえ、かすかに目を閉じ、酒を飲み、花を愛でていた。雨粒が花の赤色の上を途切れることなくしたたり落ち、その艶やかさは彼の身辺の年若い美姫の顔を彩る臙脂のようである。

 人生で上得意な時期である。
 これから更に得意になるのだ。
 この袁術袁公路は物事によく通じているのがこれまでの信条である。
 袁家は四世三公で、この時は董卓により洛陽から避難していた。しかし、龍は淵に潜み、運命も長くは逼塞してはいないだろう。
 さらには、まだ各地の異能の士が四方から彼の元に身を投じて来ていた。来る者は多すぎて、悩みにすらなっていた。甘やかな煩悩はよりどりみどり頭を悩ませた。
 だから、今日は休みとするつもりだ。
 
 彼は寝転がると、側の付き従う数人の侍妾達が膝立ちになり、近づいた。
 彼は手を伸ばして、いちばん若い一人に酒壺を取らせ、空になっていた杯を満たした。

 白く細い小さな両手が黒っぽい青銅の壺を取り上げ、袖から肘を曲げて見せていて、何とも言えない。
 だが、酒杯がまだ満たされないうちに、目の前で紅い影が一閃して、ダンッと音がした。何かわからない物が酒壺を掠めて、注ぎ口が傾き、酒がこぼれた。
 その女は驚いて、「あっ」と声をあげて倒れた。

 袁術は身動きして起き、怒鳴った。
「何者だ?」
 彼の言葉の前に、風が起きて、またガタッと音がして、彼の金の酒杯が敷物の上に転がり、薫り高い酒がその場に広がった。

 初めては証拠となるものを残していた。
 彼は敷物の上に紅い丸い珠を拾った。目を細めて見る。
 小指の爪くらいの大きさの珊瑚珠で、紅みもまったく澄んだものでもないし、袁公路が見るに、それほど珍しいものでもなかった。
 ただし、もし人が打ってきたパチンコの弾丸だとしたら、それは普通ではない。
 数人の侍衛達が彼の前で喚き、大股で走ってきて鎧兜や兵器がガチャガチャ音を鳴らし、袁術を思わず眉を顰めさせた。

 周囲の乱雑なざわめきの中、彼は珊瑚珠を指で捻りながら考えた。庭の垣根の上を見上げた。
 ある少年が垣根の上で腹ばっていた。着ているものは目を奪うばかりの紅い衣で、くすくすと笑っていた。
 袁術が頭を向けると、自然と侍衛達も目線を向け、すぐに垣根へ奔った。
 一群の人の群れは大声で叫んだが、体は重く垣根の下で罵りながら飛び上がったりして、その子どもに垣根の上でハハと大笑いさせる始末だった。

 袁公路はその子の様子を見て何気なく笑った。頭も顔も春雨にうたれて湿り、髪は漆黒で、皮膚は白く、透明でキラキラとした雨が額から滴り落ち唇の端を流れ、初々しく杏の花のようで目を奪われた。
 そこで袁術も思わず笑い始めた。
 彼は役に立たない者達を下がらせ、垣根の方へ手招きした。
「若き友人よ、降りてきて話をしないか」
 その少年も勿体をつけることなく、直接垣根を飛び下りて、階段のところで止まり、揖礼した。
「袁将軍」

 その衣装は彼には似合わないと思い、袁公路は上から下から何度か眺めて、内心文句をつけた。
 見たところ悪くない生地を選び、流行の様式で仕立てているが、粗悪な仕立てで繊細な細工が足りない。代々公卿世家の育ちである経験と訓練された目はごまかせない。
 彼は改めて思い、問うた。
「そなたはどこの家の子どもかね?」

 その少年は答えた。
「孫です」
 袁術は思い当たり、笑い声を上げた。
「なるほど孫文台の子どもか?そなたの名刺は見たぞ。孫策というのかね?」
 孫策はまた笑った。
「袁将軍は人にとても忙しいとおっしゃって、一時間も小僧ひとりに会ってくれませんでした。父の言いつけに背くことになると思い、将軍を驚かせたのはわざとではありません。その上、わたしがみるに」
 孫策は横目で後ろに控える数人の女達をちらと見た。
「将軍はまったく暇がない訳でもなさそうだ」
 孫堅はすでに袁術に対して頼りたい旨を表していたが、実際の行動には移していなかった。そこで兵を率いて向かう代わりに、自分の子を挨拶によこした。袁公路は一向に傲慢で、生まれつき疑い深く、いいわけして暫く会わなかった。
 
 泥水の沁みた靴を廊下で脱いだが、孫策の全身はすでに濡れてしまっていた。歩くと、たちまち雨水が滴り落ち、水の筋を作った。
 袁術は眉を顰め、侍妾達を振り返り言った。
「なにか柔らかい乾いた布を探して参れ。孫公子を拭いてあげなさい」
 数人の女達は慌てふためきぼうっと縮こまるだけで、どうしたらよいかわからず、袁術はイライラした。直接ひとりを呼んで、彼女の上着を脱がせ、これを敷物として敷くよう命じ、やっと孫策を座らせた。
 孫策袁術に再び一礼した。
「ありがとうございます。袁将軍」
 袁術は笑って言った。
「わたしとそなたの父は同輩で付き合いもある。そなたは袁叔叔と呼ぶが良い。将軍将軍とは遠慮が過ぎる」
 孫策は答えた。
「はい。ありがとう袁叔叔。わたしはまだ幼くて、まだ字もありません。叔叔はわたしを策児と呼んで下さい」
 この時、侍女が清潔な乾いた布を持ってきて、孫策の髪を解いて丁寧に拭き始めた。
 袁術は側に座り、彼の広がった烏の濡れ羽色の髪を眺めて、口元に笑みを浮かべた。思わず内心ドキリとした。
「策児は文台兄とあまり似ていないなぁ」
 孫策は答えた。
「はい。親友は皆、母に似ているといいます」
 袁術はおおと唸った。
 呉越の女子の美しさは天下に轟いている。みるからに嘘ではないようだ。

 外では雲がだんだんと黒く重苦しく広がり、あるところでは、稲光が天を裂くように明るく光り、雨脚も強まった。
 意外にも、それは孫家のものだった。