策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 七十三 需要愛先生「思為双飛燕」

五十章 知音

 都督府について、魯粛諸葛亮を連れてきたのを後悔し始めた。周瑜は孫劉連盟には消極的な態度だったのは魯粛もわかっていたが、周瑜の積極的でない態度がここまでものだとは思ってもいなかった。平服を着たまま、上着すら着替えせずに劉備の使者に会ったことは言うまでもなく、周瑜の目の前のテーブルにはごちそうの残り物があったり、周瑜の態度は思い切り傲慢であった上に、口を開いたと思ったら、
「使者殿の顔には見覚えがありますね。ああ子瑜殿と似ているのですね」
と言う。
 魯粛はむせて吹き出しそうになるところだった。諸葛亮諸葛瑾はぜんぜん似てないだろう?それともあいさつのつもりか?さては当てこすりか?そのうえ、『曹丞相は漢室に功績がある』とはなんだ?周瑜はもっとも『曹操をぶっ潰す』と主張していたのではないのか?どうして諸葛亮の目の前で意見を変えるんだ!
 諸葛亮の態度は周瑜とは相反し、ちょっと積極的すぎるくらいで、着くなり、『アイヤー大都督、お名前はかねてから承っております』から、すぐに『南陽の田舎にいるときから大都督の噂は聞いておりました。江東の美周郎の名は天下に轟いております』とつづき、すばやく『大都督はお身体に病などございませんか』言うやいなや、爪で周瑜の脈を取って診断しようとして、周瑜に無言で振り払われる。『私が聞いたところによると曹操が書いた詩にこうあるそうです。東南の二喬を手中に収め朝な夕なこれと共に楽しみたい、と。どうなさいましたか』周瑜の目がきらっと光ると、突然テーブルをひっくり返したのはどういうことか?剣を抜き、『わたしと曹賊とは並び立たない』と叫んだ。そして、うんざりとして諸葛亮を見つめたのはいったいどうしたことか?諸葛亮が羽扇を仰ぎながら近づいたのはどういうことなんだ!
 いつも魯粛周瑜みたいに思考が素早く巡る方ではないと考えていた。また、主公のように思考が吹っ飛んでいるのでもない。しかし、白か黒かははっきりしないことはない。しかし、諸葛亮を見て、周瑜を見て、突然寒気がした。不意にやってくる荒廃した物寂しさ、剣を抜き弩を構える火のような灼熱感、そして言い表せないなんともこの景色のたおやかな美しさ、いったいどういうことなんだ!
 魯粛は悩んだ。帰り道一言も話さず黙っていると、諸葛亮がにこにこと笑いつつ、目はきらきらさせながらなにか考えていた。しばらくして突然魯粛に話しかけてきた。
『子敬よ、あなたのところの大都督はおいくつか?』魯粛は力強く頭を振った。『それはわたしは知らないな』諸葛亮はまた尋ねた。『あなたのところの大都督はいつもお気に入りの食べものは何ですか?愛用の品は?どこに遊びにいくのが好きですか?』魯粛は冷や汗まで出てきた。諸葛亮に続けざまに質問されて、最後にやっと言えた。『孔明あなたは知らぬことだが、主公がかつて命令を出されたのだ。大都督のプライベートは他人が尋ねてはならないと。あなたもきかないでくれ』諸葛亮は愕然とした。『あなた方の主公はそんな命令を?』魯粛は頷いた。『主公は天人でな。その人となり、その発言、命令、行動はみな意味が深くて常人には測ることができない。時間が経てば孔明あなたもわかるだろう』
 
 翌日、魯粛はまた都督府に意見の次第を探りにでかけて行った。心の中では問題に首を突っ込んだことを深く恨んだ。命がけの苦労となったのだ。周瑜は前日のいい加減な態度を改め、襟を正して書房にかしこまって座っていた。魯粛が来ると優しく座ったらどうだと話しかけた。
「公瑾よ、昨日の孔明の訪問できみの意見はいったいどういうことなんだ?」
「わたしの意見は、子敬はもうわかっているのでは?」
 周瑜は笑った。
「ああ、孔明は若いからことの軽重を知らないといっても、あの句はひどく唐突すぎた!」
「かまわない」
 周瑜はあきらかにとてもリラックスしていた。
「その、孫劉連盟のことは……」
「わたしは態度を明らかにしなかったか。わたしと曹賊とは並び立たない、と」
「それならよい、それならよい」
 魯粛は額の汗を拭った。
「そうだ公瑾、きみは孔明をどういう人物とみるかね?」
「そうだな知音かな」
 周瑜の表情は依然としてとてもリラックスしていた。
「はは、それならわたしも安心だ」
 魯粛は喜んだ。
「こういう知音はもし江東のための力とならないのなら、いいことにならないのではないか子敬」
「それは……」
 魯粛はちょっと考えた。
「まぁ先は長い。うん、長いからな」
 周瑜の屋敷から出てきて、魯粛はそのまま馬で将軍府に出かけた。孫権に会うと昨晩のことを一通り話し、諸葛亮は激将法(挑発してそそのかす話法)で周瑜の反応を見たこと、それから周瑜が自分に話したこと、洗いざらい話した。
 孫権は聞き始めたときは面白いと思ったが、『知音』の二字を聞いたとき瞬間おかしくなった。
「公瑾がほんとうにそう言ったのか」
「そうです」
「しかしあの二人は初めて会っただけだろう」
「おっしゃるとおりです」
 魯粛は詳しく自分の観点を述べようとした。突然孫権の気が抜けているのを発見した。三回ほど『主公』と呼んでも返事がなく、ただただ驚き小さい声で呟いていた。
「一度会っただけで知音なのか、それではわしのこの十数年はなんだったのか」
「主公、主公、何をおっしゃっているのですか主公」
 魯粛はなんだかマズいような予感がした。
 孫権は突然魯粛の袖をつかんだ。
「子敬、言ってくれ、どうしてみなわしより良いのだ。蒋幹もわしよりよくて、諸葛亮もわしよりよくて、わしはいったいどこもかもよくないのか、言ってくれ!」
 魯粛はびっくりした。
「主公は良いところばかりですよ主公は悪いとこなどありません」
 孫権は突然黙り込んでしまった。それから立って後殿にまっすぐ走っていってしまった。残された魯粛は側殿ではっとした。この件はまだ話し終わっていなかった!