策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生37

「竟渡」(競艇)

 袁術は病と称し、端午競艇に、袁耀を先に行かせた。文臣武将が二列となって後に続き、水辺で天地龍神を祭った。
 これは民間の祭りで、大きな式典ではない。主催者が不在なので、着るものもいささか適当であった。祭祀が終わると、袁耀はいろんなことをほどよく手配した。振り返ると、黒い縁取りのある赤色の袍服を着て、腰に皮の帯を締め、左に長剣、右に短剣、刀を揃えていている、武将として標準的な武将の格好をしている孫策がいた。ただ頭にはきらきらとした宝玉の冠を被っている。張勛ら将軍らと話をしているところだった。

 袁耀は人の群れを抜けて、孫策の後ろに寄っていった。皆の者は次々と身を屈めてお辞儀した。
「大公子」
 袁耀は笑って言った。
「伯符、今日の午後の宴会では、きみはわたしの次の席に座りたまえよ。我々二人でしばらく酒を飲んだりしていないじゃないか」 
 孫策は目を光らせて、頭を下げた。
「今日諸将の中で、わたしは経歴が浅いほうです。軍功に関しては更に言うに及ばず、皆様方と席を同じくはできません」

 ある文臣が近づいて来て、袁耀の側の小声で囁いた。
「大公子は初めて責任者となります。人情は知るべきものですが、礼節は更に重んじるべきです……」 
 袁耀はむっとして喜ばず、彼の話を打ち切った。
「なにがでたらめだ?孫校尉とわたしは幼い頃から知っているし、更にわたしの父の義子だ。彼が次席にいても、どうして人情礼節に背くことがある?」
 彼の肩が微かに重くなった。孫策の手が宥めるように二の腕に置かれていた。袁耀は振り返ると、孫策は無言で首を振っていた。口の形が「怒るな」と作っていた。
 楊弘が袁耀が座に着くことを頼んできた。笑いながら側に立ちつくす者達の中から彼の手を引いた。
「大公子、孫校尉は父の元部下達のことを思って、疾うに彼らと同席すると言っていました。公子はどうぞ入って下さい。張将軍もどうぞ」

 孫策は身を屈めて、彼を見送った。人の群れのなかで誰かが大声で笑った。
「どうして人を育てると言っても、江州の瓜が洛陽の花を咲かせられるものか」
 孫策は首を傾け、薄笑いを浮かべ、程普黃蓋らに取り囲まれ、水辺に行った。

 未の刻(午後一時から三時)をすぎたばかり、陽光が一番激しいころ、侍者は知らせてきた。
「大公子、時刻がすでに過ぎました。競艇の試合を始めましょう」
 袁耀の身体の後ろは一カ所広々として空いていた。遠くでは河の上に数多の船が船尾を高々とはね上げていた。塗り立ての漆色が日光の下できらきらと光り、人々の目を奪った。船頭はみな布で遮られ、まだ見えてはいない。

 彼は頷いた。次の瞬間太鼓が一斉に叩かれ、各路の人馬がもれなく揃い、次々と鎧を外して着替え、船に乗り込もうとした。諸将は前に行って試合を督戦した。文官はみな岸の上で観戦した。
 両岸はきらびやかな様で、役人の息子や娘がたくさん満ちていた、風流で美しく、多くのものはこの盛大な催しを観戦しに来ていた。たとえ競艇に半分も興味を持っていなくても、この場で参加する一人として存在していた。
 さらに、その周りに寿春の民衆がいて、なんとか無理やり前を占拠しようとしたり、あるいは遠くから観賞しようと、密に重なり合い、水も漏らさぬ様子であった。

 袁耀は積み重ねられた土台の上に立ち、両手を翳して日光を遮り、河の上の赤の帯に彩られた橋を望んだ、約三里離れていた。
 橋上の最高のところに絹の帯がかかり、城内で最も早く咲いたザクロがかかっていた。鮮やかな赤色のをしていた。各家の競艇の船が、先を争うだかではなく、橋の下に通り過ぎるときに花球を獲ったものが勝ちだった。

 袁耀は少し頭を下げてびっくりした。
「伯符兄!」
 孫策は数多の兵士と一緒に立っていた。刀剣を外し、武将の袍を脱いで孫河に渡していた。中衣も腰にくくりつけ、肩や背を露わにし、まず先に船へと飛んでいった。
 彼の姿は美しく、人は空中で身を翻し、あの幕をめくりあげ、動作の中では生まれつきのリズムが奏でられ、そっと船頭  に落ち着いた。
 彼の手中の錦織がはためき、目の前には竜頭の精巧な彫刻があり、こってりと丹砂が塗られていた。船上にはひとしきり波の光りが揺れ、彼の足下は上下していた。両岸では爆発的な喝采の声が上がっていた。

 袁耀は独り言を言った。
「ついに自ら参戦したのか、わたしには言っていなかったのに」
 ある人が後ろで答えた。
「袁公が重く見ているとしても、もともとは寒微な出身ゆえ、礼数を重んじず、兵士達の中に紛れ込むとは、魚は浅瀬で泳ぐのが、もっとも似合いますな」
 張勛は手を後ろにして後ろの方を軽べつして一瞥した。
「陳将軍のこの発言、もとより身分に合っている。もし部下に聞こえたらみなよく服従しないだろう。将たるものは兵士ともし甘苦をともにしなければ、どうしてうまくいくことができる?」
 陳紀は気まずそうな顔をしていた。
「張将軍が後輩を愛護なさるのは、十分彼に遠慮なさっておられますな。もし紀将軍がここにおられれば、孫校尉にこのように勝手気ままさせることはないのに」
 楊弘は笑って言った。
「紀将軍はすでに徐州の布陣に向かわれました。去年彼の部下が一等を得た。今年の競艇はやむを得ず、本当に惜しいことです」

 数人が談笑していると、全ての用意は終わっていた。河の上には八条の細長い船が並んでいた。みな五丈近く長さがあり、舵は前にあり、鼓手は後ろにいた、十八人が出発点に準備して、開始の命令を待っていた。
 袁耀は馬に乗り、赤い旗を振った。一路笞を振り、弦を弾かれたように船が走り出し、終点まで向かった。
 太鼓は密な雨のように急になり、大きな雷のようで、更には岸壁の潮のような騒ぎとどよめきがくわわり、観戦者の呼吸もだんだん迫ってきた。
 この種の先を争うのは快感があり、孫策は真上に飛び上がり、花球をつかんだ瞬間、ついに最高点に到達した。

 ある馬車が橋の側に停まり、帷をちらりとめくりあげた。その動きは静かでささやかで、満場が沸騰している中、注目するものは誰もいなかった。
 ある侍者がすぐに窓辺に近づき、小声で二言三言聞くと、「はい」と言った。